名南経営 河津勇のツンドク?ヨンドク?

税理士法人名南経営 河津勇 公式ブログ。新刊ビジネス本から、皆様のビジネスに役立ちそうなヒントをあれこれ探ります。毎週日曜日更新中。

2023年03月

2023- 3-26  Vol.5106CDF25AA-924A-47D5-B92D-3EEB50727609

【概要】

 学研教育出版(学研グループ)の「学習と科学」。おおよそ40歳以上の方であれば、結構の数の方に購読経験があるのではないでしょうか? 正式な誌名は「〇年の学習」「〇年の科学」

 毎月自宅に配達されていた同誌。付録の教材を楽しみに、毎号待っていた記憶が私にもあります。

 さて最盛期の1979年には670万部が販売されていたという同誌。その後は一転減少を続け、2009年には30万部まで減少。ほどなくして同誌は休刊。
 また同社の売上高は1990年の1700億円をピークに、2006年度以降は800億円前後で推移し営業利益も赤字に転落。一時は1000億円を超えていた同社の純資産は20年ちかくにわたる減収で4分の3が消滅。業界内では倒産も時間の問題ではないかと言われていた同社に、本書著者である宮原博昭氏が代表取締役に就任したのは2010年12月のことでした。

 どん底の2009年を越えて以降、2022年9月まで13期連続で増収を達成し、2022年9月の、連結売上高は、1560億円にのぼります。なぜ同社は、破綻の危機を乗り越え、見事な復活を果たすことがが出来たのか。その理由を著者は、社員の奮起と共に、積極的なM&A戦略にあったと語ります。そんな同社の奮起と、自身の経験を踏まえM&A戦略の要諦を記したのが本書です。

【構成】

 全6章で構成されています。第1章~第2章では、凋落著しかった同社の様子と、代表取締役就任後の取り組みを紹介。第3章~第4章では、本書タイトルでもある同社のM&A戦略を解説。第5章~第6章では、社員の奮起を促してきた組織運営について触れ、同社の今後を記し結んでいます。

【所感】

 同社では亜流と言われた、学習塾部門、地域限定採用社員なる身分から、代表取締役に就任をし、同社立て直しに成功した宮原氏。
 その基軸となったのがM&A戦略。同氏はM&Aにより傘下に収まることを買収と言わず(学研)グループインと表現します。
 2007年以降、同社にグループインした企業は31社。学研グループ全体の構成割合で、従業員数は62%、売上高では40%、営業利益では56%にも達するそうです。

 グループインと表現する意図は、同社におけるM&A戦略は、売買という支配関係ではなく、グループに加わってくれた企業のよきパートナーになりたいとの思いから。安定株主としてグループインした企業の経営を支え、学研グループ全体に寄与してもらうことを目しているため、学研から経営陣を送り込むことなく、既存の経営陣に引き続き任せる。あるいは社内から抜擢するなど、自主性の尊重に配慮をしているようです。

 本書の要諦は、第4章で記される「M&Aを成功させる17の原則」にあります。
 今でこそ中堅中小企業のM&Aは珍しくありませんが、宮原氏が、乗り出した20年前には、何百億、何千億という超大型M&Aの例はあれど、中堅中小企業の事例はあまりない時代。教わる人や教科書もない中、失敗を重ねつつ、自ら身に着けたノウハウを惜しげもなく公開している点。
 学研という一時代を築くも、その後凋落した企業が立ち直るきっかけとなった自社の経験から、多くの企業、特に過去の成功体験が大きくその反動に悩む企業にこそ、M&Aの有効性が高いことを確信しているだけに説得力のある法則が並びます。

 また個人的には、宮原氏の来歴と彼が紹介する
「5×4×3×2×1」の戦略が印象に残りました。
防衛大学校出身の宮原氏が、学生時代に学んだのが「5×4×3×2×1」戦略だったそうです。

 これは、まず5通りの大きな作戦を作り、それぞれの失敗に備え代案を4通り作ります。更にそれが失敗した場合の3案、2案と考え、都合120もの作戦を立てるそうです。戦場での失敗は兵士の死のみならず国家の存亡にかかわるもので、絶対に失敗は許されません。ゆえに着手の前に周到な作戦を練り、成功するまでやり遂げる覚悟をもつことが肝要と説いています。

 徹底的に考え抜いた上で、確信をもって実行し、妥協をしないこと。M&A経営論と銘打ながらも、それは経営立て直しの一手段に過ぎず、真の同社再生の肝は、この戦略実行の終始徹底にあったのかもしれません。
 本書では中高年社員奮起の重要性や、処遇についても一定の誌面を割いています。なまじ過去に成功体験をもち、危機意識の低いこの世代の社員にこそ、その経験に縛られることなく、改めて自ら考え抜き、行動を起こすような意識改革が出来るか。耳が痛いですね。

                          東洋経済新報社  2023年3月23日 発行

2023- 3-19  Vol.509D4CEBD0B-552A-4471-92FE-700693085FE2

【概要】
 
 キーエンスという会社をご存知でしょうか。
FA(ファクトリーオートメーション)の総合メーカーで、センサ、測定器、PLCなどを販売しています。

 BtoBの企業ですので、一般的な認知度は低いかもしれませんが、同社の製品は、日本国内のみならず世界で流通。取引先は、46ケ国230拠点、約30万社にも上ると言います。

 また知る人ぞ知る同社の特徴は、その高収益性。過去30年間(1992-2021年)の売上高営業利益率は40%を大きく上回り、2022年時点で、営業利益額は4000億円を超えています。
2021年には、時価総額が10兆円を上回り、国内の全上場企業のトップ5に入っています。
 さらに社員の平均年収の高さは群を抜いており、2022年3月期は2183万円。過去5年平均は1995万円となっています。

 他に類を見ない超優良経営を実践しながらも、本業への注力を理由に、創業者や企業そのもののマスコミ対応や、講演活動は意図的に回避されており、その企業実態はあまり知られていません。 

 しかし、その経営は、日本企業、特に生産財を扱う企業にとっては非常に学ぶべき点が多いものであり、同社の経営実態を知ることは、多くの企業に必ずや恩恵をもたらすとの思いで、本書を記したのは、大阪大学経済学研究科の延岡健太郎氏。
 キーエンスもまた、同府内に本社を置く企業ゆえ、本書執筆には、より強い思い入れがあるように感じました。
 
【構成】

 終章を含め全7章で構成されています。第1章~第2章では、キーエンスの経営の特徴を解説。
第3章では、キーエンスの様な生産財企業のイノベーション理論を解説した後、第4章~第6章で、それをキーエンス内の具体的な事例に照らし解説。終章では全体を総括しています。

【所感】

 キーエンスの経営の神髄は、その経営哲学や経営方針が、原理原則を徹底し、シンプルかつ一貫していること。かつそれが企業全体、社員全体に浸透していること。

 なるほど、同社のサイト https://www.keyence.co.jp/company/about/#message を見ても、「付加価値の創造」「当たり前のことを当たり前に実践する」「目的を見失わない」などが並ぶ、非常にシンプルなものです。 

 ここで言う「付加価値」とは、自社の業績を高めることに限定されず、顧客企業の利益を高めること、それによって社会の発展や、人々の幸福感が充足されるという普遍的なもの。 
 自社の製品を利用してもらうことで、顧客の生産性や利益水準が向上すれば、税収が増えたり、社員への還元により給与水準が上がるなど、みながその恩恵を受けることが可能となります。顧客が享受する利益が大きければ大きい程、費用対効果に応じて自社へ払う対価も大きくなります。

 ゆえに高付加価値を追求するという哲学は、とても腹落ちしやすいものです。その実践を支えるのが、新商品開発と、直販によるソリューション営業。新商品の7割は、世界初、業界初であり、その商品を顧客の現場を徹底的に知り尽くした営業担当が扱うことが、要諦となっています。 

 著者の延岡教授は、本書でキーエンスの経営解析を通じ、真のイノベーションとは何かを明確に定義し、多くの企業に共有してほしいとの意図があり、特に生産財メーカーにとってのイノベーションについて第3章で理論化を試みています。 

 イノベーションと言われると、我々は、しばしば新技術を用いた製品やサービスの開発と思いがちですが、それは単なる手段にすぎません。単なる新技術ではなく、それが地球上の限られた資源を有効に利用するものであり、かつそれを用いることで、顧客ひいては社会に対し大きな価値を創出することこそがイノベーションだと記しています。 

 とはいえ同社の経営はレベルが高すぎ、並の企業では真似することは出来ないとも、記しています。それでもキーエンスの事例を、自社では無理なこととあきらめることなく、一つでも二つでも実践できることはないかと、真摯に学ぶ姿勢を持ってほしいとしています。

 知られざるキーエンスの経営に、深く踏みこみ、単なる事例紹介にとどまらず、その経営の神髄を知らしめたい。そのことが多くの企業や企業経営者に、必ずや計り知れない恩恵をもたらす。そんな強い思いが溢れた1冊でした。

                              日経BP 2023年3月9日 1版1刷

2023- 3-12  Vol.5088E47B91D-1BDE-443F-85CB-C26DD456257A

【概要】

 ONE(Ocean Network Express) https://www.one-line.com/ja
という名称を、お聞きになったことはありますでしょうか。
 シンガポールに本拠地を置くコンテナ海運会社の社名で、実は日本企業です。同社の名前が多少知られるようになったのは、その業績にあります。
 2021年度の売上高300億9840万ドル、税引後利益 167億5600万ドル。2022年度は、売上減少の見通しながら、前期と同程度の利益確保の見込みとなっています。
 コロナウィルス感染症の影響から、世界的な巣ごもり需要増もあり運賃の高騰化という特殊事情があったにせよ。設立からわずか5年で叩き出した、この利益は驚愕に値します。
 
 2009年のリーマンショック以降、世界の海運業界は、供給過剰と運賃低迷に喘いでおり、海運不況が続いています。それは我が国においても同じこと。
 そこで日本を代表する海運会社3社、川崎汽船、商船三井、日本郵船が自社のコンテナ船事業を切り出し、コンテナ船事業の統合会社設立に踏み切ります。それが本書の主役である
 ONE(Ocean Network Express) 。

 巨額のインフラ投資を必要としながらも、業績の安定に乏しく、赤字を垂れ流すコンテナ船事業は、3社にとって、もはや本体の屋台骨を揺るがしかねない頭の痛い存在に過ぎず、半ば各社から切り離される方向で誕生したのが同社。
 大いなる期待を込めてというよりも、やむなく誕生したというのが現実かもしれません。そんな同社が目を見張るような業績を上げたのは、前述の通りですから、まさに本書帯にある「痛快」の極み。
 本書は、そんな同社の奮闘を追った1冊。同社の様子のみならず、世界の海運事情や、コンテナ船事業モデルなども丹念に解説されています。

【構成】

 全5章で構成されています。第1章~第2章は世界の海運事情に触れ、第3章以降で、
ONE(Ocean Network Express) の設立から現在までが記されています。

【所感】

 不採算事業の統合ゆえ 
ONE(Ocean Network Express)も、先行きを危ぶむ声が多かったそうです。半導体や液晶など日本における過去の事業統合には、ほとんど成功事例がないことが、その理由でした。

 しかし
 ONE(Ocean Network Express)は、その危惧を覆そうとしています。
 同社快進撃の背景にはいくつか要因があるようです。①政府や銀行主導ではなく、当事者自らが自身の意思で選んだ統合であり、危機感のレベルが違うこと。②当事者が当時事業の将来像をきちんと描き、共有をしていること。かつ統合に際しても例えば基幹システムも、3社で最も優れたものを活用するなど、ベストプラクティスを選択する柔軟性があること。③また若手の活用など現場への権限移譲を徹底的に進めていること。

 なによりシンガポールに拠点を置いたことこそ、最大の快進撃要因ではないかとしています。
同国には、海運税制面のメリットがあり、人材、情報も豊富。そして海運業者が集積する都市であること。また単なる拠点でなく、本社を置くことによりシンガポール政府との関係強化に努めていることもあるようですが、何より大きいのは日本からの距離感。

 あえて一定の距離を置くことで、親会社や日本の行政官庁からの影響を受けづらくし、スピード感をもって事業を運営できる点を指摘しています。また本書では、しばしば「出島の精神」という言葉が出てきます。これはかつて長崎にあった出島が、日本海運の原点にしてルーツであり。そこから日本の海運業が発展したように、
ONE(Ocean Network Express)が、シンガポールを現代の「出島」になぞらえ、その精神を以って、事業に臨みたいということだそうです。そんな思いの強さも、同社躍進を支えているのかもしれませんね。

 本件を、日本企業における事業再編の新たな成功例と呼ぶには、少々早すぎる気もしますが、とても興味深い事例であり、他業界でも同様の展開が考えられるものであれば、これからの日本の産業界の風景も随分と変わったものになるのかもしれませんね。

                         日経BP 2023年2月13日 第1版第1刷発行

2023- 3- 5  Vol.50734E34A18-A547-45BE-A460-15BB7E543A4F

【概要】

 つい先日、豊田章男社長の退任が発表されたトヨタ自動車。2009年の就任以来、リーマンショックや米国でのリコール対応、F1からの撤退などの難題を乗り越えると共に、トヨタをPRする様々な話題を振りまいてきました。

 そんな彼が、その誕生に大きく関わったという車があります。
その名は「86」というスポーツカー。
 2000年代中盤、若者の自動車離れの対応策として、度々スポーツカー開発の必要性が議論されるも、なかなか実現しない中、当時副社長であった章男氏の強い後押しで開発が決まりました。

 スバルとの共同開発となった同車は、2012年正式発売、トヨタでは「86」、スバルでは「BRZ」とそれぞれの名称で販売され、現在に至ります。
 
 本書は、そんな「86」開発で、チーフエンジニア(車両開発の最高責任者)を務めた多田哲哉氏を中心とする技術者たちの物語。
「もはやスポーツカーなど売れる時代ではない」 社内ですら、そんな揶揄する声があがる中、屈することなく、開発にこぎつけた技術者たちを追った1冊。上梓までに4年を要した力作となっています。

【構成】

 全11章で構成されています。概ね時系列で展開し、8章までが「86」開発。残り3章では、多田氏が託されたもう1台のスポーツカー開発と、多田氏の退職までを追っています。

【所感】

 日本、いや世界を代表する自動車会社と言っても過言ではないトヨタ自動車。
同社の製品開発を支えるのが、Zと呼ばれる開発チームであり、それを率いるチーフエンジニアの存在。本書執筆時点で、チーフエンジニアの地位にあったものは、わずか20名。彼らは7~10名の技術者を直属の部下を抱えると共に、デザイナーや設計部門、広告宣伝部門など他部署と連携しつつ、製品造りを進めます。
 全社から抜擢され、熾烈な競争に耐え、身体や精神を壊すことなく生き残ったエンジニアたちのなかのエリートと呼んでも過言ではない、チーフエンジニア。

 ただ本書主人公である多田氏は、三菱自動車、自身の会社を経て入社した中途採用組。他のチーフエンジニアたちとは変わった系譜をもつゆえ、スポーツカー復活という異端のプロジェクトに抜擢されたのかもしれませんね。

 採算を確保するのが難しいスポーツカー開発。かつ同時期にトヨタ自動車が大株主となったスバル自動車と共同開発をしなければならないという二重のハードルの高さ。

 本書では多田氏が師匠から教わったというチーフエンジニアの心得が4点、紹介されています。
 ①知らないことがあっても当たり前と考える ②即決をする ③約束と日程は絶対に守る ④グループの最新技術のリサーチを怠らない。

 なかでもチーフエンジニアの権限を利用し、④でいう門外不出の燃料制御の技術に目を向けたことから、大きく開発が前進する下りがあるのですが、トヨタ自動車という企業の底力に恐れ入ると共に、それを利用すべく動くチーフエンジニアの情熱と胆力に驚かされます。
 チーフエンジニアとはいえ、所詮一介のサラリーマンに過ぎません。それでも出世をしたいとか、表彰を受けたいとか、会社の業績に貢献をしたいとか、そんな俗的な欲求を超え、自ら手掛けた製品に思いのたけのを込めようとするシーンの数々に胸を撃たれました。

 事実、定年を迎えた多田氏は、役員になることもなく、コロナ感染症流行のさなか、ひっそり、トヨタ自動車を去っていくのですが。

 組織に多大な貢献をしつつも、目立たぬ企業人にスポットをあてる著作が多い清武氏ですが、本書も期待を裏切らない面白さでした。

 ちなみに本書タイトルの「どんがら」とは、内装も何もない鉄板むき出しの車体の様子を指す言葉。開発過程で製造されるこの車体の状態が車の出来を左右するそうで、この姿を見たとき、開発者たちチーフエンジニアは一つの安堵を覚えるそうですよ。


                            講談社  2023年2月15日 第1刷発行

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