名南経営 河津勇のツンドク?ヨンドク?

税理士法人名南経営 河津勇 公式ブログ。新刊ビジネス本から、皆様のビジネスに役立ちそうなヒントをあれこれ探ります。毎週日曜日更新中。

2023年05月

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【概要】

 今や手軽に写真を撮るのは、スマートフォンが当たり前の時代。
いまやスマートフォンは、「一人一台」「いつでも持ち歩け」「動画も静止画も撮れ」「ネットでいつでも共有や配信が可能」が当たり前というとんでもない道具であり、2007年6月のiPhone登場以来、猛烈な勢いで、デジタルカメラ市場を食い荒らしてきました。
 
 ちなみに全世界のデジタルカメラ出荷台数は、2010年の121百万台をピークに急減。リーディングカンパニーであったカシオ計算機など、多くのメーカーが市場から撤退を余儀なくされました。

 ソニーもまたそんな一社。レンズ一体系のデジタルカメラ「サイバーショット」で人気を博すも、他社同様、大打撃を受けます。しかし同社は、高付加価値製品にシフトをすることで、苦境を乗り切ります。「デジタル一眼レフ」という主製品で市場を占有する、キャノンとニコンの2社を猛追し活路を見出したのです。
 本書は、そんなデジタルカメラ市場におけるソニーの奮闘を追った一冊です。
長らく同社のデジタルカメラ事業に携わってきた、元ソニーグループの副会長、石塚茂樹氏へのインタビューを中心に編纂されています。

【構成】

 全11章で構成されています。第1章から第8章までは、ソニーのデジタルカメラ事業の変遷を時系列で紹介。第9章以降は、本書主役である石塚氏の仕事観や、ソニーでのモノづくりや、盛田昭夫氏との邂逅を振り返り結んでいます。

【所感】

 ソニーで開発されたデジタルカメラの主製品を時系列で紹介しながら展開される本書。
最初の製品は1988年生まれというから驚きます。本格的に市場が動き始めるのは1997年頃から。
「サイバーショット」というブランド名が有名ですが、実は当時のヒット作は、3.5インチのフロッピーディスクに記憶させる「デジタルマピカ」という製品。撮った画像をフロッピーディスクを介し、簡単にパソコンなどへ取り込めたことがヒットに繋がったようです。

 出井伸之氏が、ソニーの代表を務め、会社自体にも勢いのあった当時、次から次へとデジタルカメラの新製品を開発、投入。失敗作も少なくなかったようですが、技術者が作りたいものを世に問い、それが「ソニーらしさ」と評価してもらえた最後の時代だったのかもしれません。

 イメージセンサーなど画像半導体の製造もしていたソニーですから、スマートフォン向け需要が急拡大し、遅かれ早かれ、コンパクトデジタルカメラ市場の縮小は予見されていました。それでも高額なデジタル一眼レフ市場は比較的安定しており、そこへシフトすることは当然の帰結。しかしそこはキャノンとニコンの2社で、8割を占有する市場。コニカミノルタからカメラ事業を承継した同社でしたが、高級カメラ市場では、まったく相手にされないソニーブランド。
 
 しかし同社はミラー(レンズから入ってきた光を反射し方向を変える機能)レスに活路を見出して、2社の牙城を崩し始めます。本書帯にある「弱者の戦略」とは、小型ビデオや、イメージセンサーなどで映像に強いイメージのあるソニーなれど、こと「写真」については自社は弱者。その立ち位置を理解し何で他者と差別を図るのか。そんな愚直な取り組みが、画期的な製品を生み出す様子に峰踊りました。

 ソニーを扱った書籍は、数多くありますが、デジタルカメラという一製品の編成を追い、ソニーという会社を見つめた習作の一冊。
 石塚氏が折に触れてか語るモノづくりのフィロソフィーは「こだわり・わりきり・おもいきり」だそうです。そんな製品が生まれる限り、これからもソニーはソニーらしさを失わない企業でいられるのかもしれませんね。

                          日経BP 2023年5月22日 第1版第1刷発行

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【概要】

 明日から社会人となる「太郎君」。しかし日本経済の現状はおろか、自身がこれから置かれる労働環境や給料、お金の仕組みをほとんど理解していません。漠然とした不安も抱きつつも、さほど真剣に考えたことのない彼に対し、おせっかいにも、様々なレクチャーをする「妖怪モノシリン」。

 そんな二人?の対話方式で展開されるのが本書です。
およそ新社会人が気になるであろう給料の話にはじまり、過去の経済政策や財政状況、税負担、労働環境など、6つのテーマを解説しています。

 特徴的なのは、引用されるデータの数。全部で115本が紹介されています。内閣府や各省庁が発表するデータで、インターネットを介するなど、誰でも入手が可能なものばかりです。
「妖怪モノシリン」が、各データの意図するところを「太郎君」に解説をする構成となっています。

 著者の明石順平氏は、経済学者などではなく、労働事件、消費者被害事件を担当する弁護士さん。それゆえか、専門用語を多用しない丁寧な解説が印象に残りました。

【構成】

 全6章で構成されており、前述した6つのテーマを各章に充て、終章では日本と世界の未来予想を記し結んでいます。基本的には経済数値、経済統計の引用が大半ですが、労働環境を扱った5章だけは、やや内容を異にし、労働時間、労災申請件数、労働組合員数の推移などが紹介されています。

【所感】

 コンパクトで丁寧な解説も相まって、非常に読みやすい構成となっています。抑えておくべきキーワードは太字、要点にはマーカーまで記されており、時間がなければ、ここを追って気になる部分から読み始めてもいいのかもしれません。掲載されたデータにも直接注釈が入っており、読みやすく工夫されています。
 
 正直、淡々と紹介される各データと、その解説を読むにつけ、暗澹たる気持ちになることは免れません。しばしば「失われた30年」と揶揄された日本の実際をデータは冷酷に伝えています。そしてこれから迎えようとする労働生産人口の大幅減少は、さらに将来の不安を掻き立てます。

 当然「これからどうしたらいいの?」と「太郎君」が「妖怪モノシリン」に詰め寄るシーンが、終章に出てきますが、「妖怪モノシリン」は、一発逆転の秘策などないと、それを退けます。
そして大切なことは、事実を見据え逃げない覚悟なのだと諭します。事実(データ)をきちんと読み取り、自身で考え行動をしていくこと。決して耳障りのいいことを言う為政者に扇動されてはいけないとし本書を結んでいます。

 
主人公を新社会人としていますが、新社会人のみならず、万人の方が一般常識として知っておいて決して損はない内容ではないでしょうか。

                           大和書房 2023年5月20日 第1刷発行
 

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【概要】

 国連が立ち上げた「生物多様性及び生態系サービスに関する政府間の科学-政策プラットフォーム(IPBES)」

   2019年、IPBESが公表した最初の包括的報告書によれば、1970年以来、全世界で、鳥類、哺乳類、爬虫類、両生類の数は半分になり、向こう数十年以内に、100万種ほどが絶滅する危険性があるとのこと。
 これを受け、IPBESの議長や事務局長は、「かつてないスピードで生態系の健全性が失われており、われわれは自らの経済、生活、食。健康や生活の質の基盤となるものが、世界規模で蝕まれている」とのコメントを発したそうです。

 そんな書き出しで始まる本書。前述した生物多様性の変化のみならず、気温上昇の影響で、世界中で見られる異常気象の数々。これらを引き起こしてきたのは、自然環境から搾取をしつつ飽くことなき成長を志向する我々人類に他なりません。しかし一方で、ふつふつと沸き上がるのは、いつまでもこんなことが続くわけがないという漠然とした不安。

 なれば、我々は未来にどんな選択が出来るのか。成長なき世界は実現可能なのか。そんな考察をこころみたのが本書。エスワティニ(旧スワジランド)出身で、気鋭の経済人類学者であるジェイソン・ヒッケル氏の手によります。

【構成】

 全2部6章で構成されています。第1部では「多いほうが貧しい」と題し、資本主義発展の歴史を紐解きながら、人類が成長志向という呪縛から逃れられない理由を考察しています。第2部では「少ないほうが豊か」と題し、調査結果などから、経済成長や発展が必ずしも国民の幸福度を高めるわけでないことを指摘し、豊かさに対する新たな基軸をもつ必要性などを説き、結んでいます。

【所感】

 必要な食材などを、必要な分のみ確保する、狩猟型の生活から、定住し農耕型の生活に人類が移行する中、貯蔵という概念が生まれ、より効率よく、より多く獲得するために、資本と労働は分離すると共に、天然資源など自然からの過剰な搾取が横行していきます。

 本書の軸となるのは「アニミズム」と「二元論」。「アニミズム」とは、生物や無機物を問わず全てのもののなかに、霊魂や霊が宿っているという考え方。一方「二元論」とは、これに反し、人類は自然とは切り離された存在で、精神や心を備えるが、自然はそういったものを持たず、機械的な存在であるとの考え方を指します。

「二元論」によれば、自然にはそもそも意思はないのだから、人類はいくらそこから搾取をしても構わないとの発想に至ります。一方「アニミズム」では、自然にも意思があると考えれば、そこから一方的に搾取をするということは考え難く、共存共栄を目した互恵の精神が育まれます。

 著者の主張は、今後、我々が意識すべきは、このアニミズム思想であり、人類も地球という大きなエコシステムの一部に過ぎないとの意識をもち、自然からの過剰な搾取を改めるとともに、人類間での格差拡大を抑制すること。
 
 そこで各国がこぞって競う、GDP成長率信仰からの脱却を図ることを提言。再生資源、再生エネルギーをいかに活用しようとも、経済成長をやめない限り、天然資源などの枯渇は妨げられないこと。
 たとえGDPやその成長率が低くとも、国民の福利厚生(医療・教育・福祉)を充足させている国では国民の幸福度が高いことを指摘しています。

 高い経済成長はなくとも、これらの原資は確保できるものであり、世界一の経済大国である米国ですら、こと福利厚生の面から見た幸福度は非常に低く、納得感のあるものでした。

 物質的な豊かさを過剰に求めることなく、身の丈にあった消費行動を行う。豊かさの定義を捉え直す。本書では、例えば大量消費を抑えるステップとして ①計画的陳腐化を終わらせる ②広告を減らす ③所有権から使用権への移転 ④食品廃棄を終わらせる ⑤生態系を破壊する産業を縮小する などを挙げています。
 これらが実現されれば、多大な影響を被る企業も少なくないことでしょう。それでも成長志向を捨てなければ未来はない。さて我々はどんな選択をするのか。その覚悟が今、問われているかのようです。
 
                            東洋経済新報社 2023年5月4日発行

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   GWも今日でおしまいですね。休み明け、なかなかビジネスモードに気持ちを切り替えるのも難しいところ、それでも頑張っていこうかと気持ちを奮い立たせる1冊をご紹介させていただきます。

【概要】

 書き下ろしではなく、雑誌「文芸春秋」の連載を1冊にまとめたものが本書です。まとめるのを機にタイトルも「逆境経営」に。
 折しもコロナウィルス感染症が猛威を奮っていた2020年10月から連載が始まっており、日本いや世界中の企業が未曾有の危機を迎え、まさに逆境といえる最中だっただけに、印象深いタイトルとなっています。
 
 登場するのは14の企業とその経営者たち。後述しますが登場する企業は我々の良く知る
BtoC企業が大半ですが、事業内容や規模、社歴などはバラバラです。
 共通するのは、どの企業も浮利を追わない実直な経営姿勢で、独自の企業文化を育みつつ、強くしたたかに生き延びてきたこと。どの企業経営者の口からも、印象深いフレーズが発せられています。
 
【構成】

 全4部14章で構成されており、14の企業を、創業者、承継者、100年企業、ローカル企業と4つのカテゴリーに分け紹介しています。各社概ね15~16ページで掲載されており、コンパクトで読みやすい体裁となっています。

【所感】

 登場するのは、ヨークベニマル、サイゼリヤ、ダイソー、カインズ、サトウ食品、西松屋チェーン、キタムラ、貝印グループ、コマツ、ミズノ、グンゼ、岩下食品、銚子電気鉄道、崎陽軒。

 各社の沿革、インタビューに応じた経営者の来歴などが記されています。対象先をどう選定したのか根拠の記載がないのが残念ですが、どの企業を読んでも面白いですね。創業経営者の方の話が面白いのは無論のことですが、
承継後も父親の干渉に苦しみぬいた岩下食品の岩下和了氏。チェーンストア理論の立証にこだわった西松屋チェーンの大村禎史氏、大胆にSPAへ事業転換を図ったカインズの土屋裕雅氏。など二代目、三代目の奮闘ぶりも印象に残ります。

 また比較的社歴の浅いこれらの企業に対比させるかのように、
貝印グループ、コマツなど100年企業を取り上げている点もよいですね。社歴が長いから安泰なのではなく、どの企業も機を見て敏に動き、変化し続けることで、社歴を積み重ねてきた矜持を感じます。

 さてさて異端なのは、全くの第三者が承継した銚子電気鉄道。全長6.4キロ。万年赤字が続く千葉のローカル鉄道会社を引き継いだ、地元の税理士の竹本勝紀氏の奮闘ぶりが面白おかしく、つい応援したくなってしまうインタビューぶり。本書登場では、最小規模の企業。他事例とは一線を画す内容で、なぜ同社を取り上げたのが、ぜひ著者の意図が聞いてみたいところです。

                            文藝春秋 2023年4月20日 第1刷発行

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