名南経営 河津勇のツンドク?ヨンドク?

税理士法人名南経営 河津勇 公式ブログ。新刊ビジネス本から、皆様のビジネスに役立ちそうなヒントをあれこれ探ります。毎週日曜日更新中。

2023年06月

2023- 6-25 Vol.523IMG_6562

【概要】

 ハッとするタイトルのついた本書。女性用下着販売で知られるワコール創業者、塚本幸一氏の評伝です。

 なぜこの時期に出版との疑問はありましたが、折しも本年4月で没後25年。
 京セラの稲盛和夫氏、Nidec(日本電産)の永守重信氏など、戦後京都で創業し成功を収めた経営者は少なくありませんが、その先駆者とも言えるのが、塚本幸一氏。

 太平洋戦争で最悪の愚策と言われたインパール作戦に従軍。自身のいた部隊55名のうち、生存者はわずか3名という過酷な状況下を生き抜き帰国。壮絶な体験ゆえ、帰国後、茫然自失した日々を過ごす中、亡くなった戦友の分まで生きねばならない。戦争の悲惨さを知るが故、「真の平和とは、女性の美しくありたいと願う気持ちが自然と叶えられる社会であるはず」そう確信した彼が、選んだ事業は女性用アクセサリー販売。やがて女性下着の製造、販売へ乗り出し、日本を代表するメーカーへと成長を遂げます。

 そんな塚本幸一氏の様子を生き生きと記した本書。400ページ近いボリュームはあるものの、一気に読ませてしまう面白さでした。

【構成】

 全5章で構成された本書。戦後の帰国から逝去までを、ほぼ時系列で記していますが、第2章では、時間を遡り、塚本幸一氏の生い立ちや、家系なども追っています。

【所感】

 表紙カバー写真を見ても明らかな美男子ぶり。そして近江商人の血を引く、商売に関するセンス。
保守的な京都にあり、男のくせに、女性下着を売る会社社長と揶揄されながらも、その人間的魅力で、関わる人々を惹きつけます。

 いい意味で女性にも非常にもてたそうです。
戦後、男尊女卑の色合いがまだ強い中、女性社員の登用を積極的に行うなど、活躍の場を設け、後に販売、製造、企画などの分野で「伝説の女傑」と呼ばれる女性社員を輩出し、ワコール社発展を支えます。
 
 順風満帆な時ばかりでなく、倒産の危機も。昭和24年~昭和25年には、社員解雇も止む無しかまで追い込まれますが、「50年計画」を宣言し、10年単位での事業ビジョンを披露。賞与すら払えないほどの資金難に追い込まれながらも、夢を語り思いを共有することで、社員の気持ちをまとめあげていきます。
 続く昭和26年頃も、再び資金繰に困窮。禁じ手と言われる「融通手形」を振り出してまでして困難を乗り越えます。

 また昭和37年には、同社でも労働争議が勃発。渦中にあって、経営者と労働者は敵対するものでなく、相互信頼しあってやっていくべきもの。社員を信頼し、尊重し、生き生きと働ける場にしなければならない。他の役員の反対を押し切り、組合の要求を全面的に受け入れ、後に同社の社是でなる「総合信頼の経営」の礎が築かれます。

 国内進出してくる海外企業や、ライバル企業への対峙、関西を代表する経営陣の邂逅、再度襲った経営危機に際し、覚悟を示すべく坊主頭に・・・・・。
 どのエピソードをとっても面白く、塚本氏の人柄が偲ばれるとともに、希代の経営者であったことが窺いしれます。故人の評伝ゆえ、自慢めいた話や愚痴めいた話はあまり記されず、全般にカラッとした読後感もある好著。経営者の方のみならず、働く方々全ての、気持ちを鼓舞してくれること間違いなしんの1冊でした。

                         プレジデント社 2023年6月2日 第1刷発行

2023- 6-18 Vol.522
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【概要】

 信者8000万人の巨大カルト「ザイム真理教」なる表題のついた本書。当然ですが、そのような宗教団体は存在せず、「財務省」を揶揄したもの。

 莫大な赤字国債を抱える日本の財政は、もはや破綻寸前であり「財政均衡」を図らなければならない。そのための社会保障や税金などの国民負担が増加することは避けられないし、財政支出も抑制しなくては、ならない。

 そんな「財政均衡主義」を繰り返し主張し続ける「財務省」は、もはや宗教を越えた「カルト集団」であり、その「教義」を従順に何の疑いもなく受け入れる政治家や御用学者、そして国民は、まさに信者の様相。

 しかしながら、かれこれ40年近くに渡る「財政均衡主義」下で、日本は失われた30年とも言われる経済低迷にあえぎ、日本国民の大半は、上がらぬ賃金に加えて、昨今の諸物価高騰により生活の貧困化を実感している筈なのに、なんら不満や反論の声すら出ないこの国の不思議。
 それでも、財務省の説く「財政均衡主義」の意図を理解し、国民一人一人が自らの生活を守るため、日本がとるべき財政政策につき考えを巡らせてほしいとのことで記されたのが本書。
 経済アナリストとして、しばしばメディアにも登場。軽妙な語り口で知られる森永卓郎氏の手によりますが、その柔和な顔立ちに反し、本書では痛烈な財務省批判を記しています。

【構成】

 全8章で構成されています。第1章で、日本専売公社(現JT)へ入社した自身の出自を紹介しながら、当時の旧大蔵省時代からなんら財務省の体質は変わっていない点を指摘した後、なぜそれがまかり通ってしまうのか。なぜ「財政均衡主義」の主張は揺るがないなどを解説。アベノミクス効果なども毛検証し展開されています。

【所感】

 岸田政権誕生後、言論の自由が急速に失われ、メディアでの政権批判がほとんど出来なくなっていると語る森永氏。事実この書籍も、複数の出版社に原稿を持ち込むも、軒並み出版を断られたそうです。   
 内容云々よりも、今や財務省をテーマにする本を出すこと自体がご法度なのだと。それでも紆余曲折を経て、世に出た本書。読者の関心は高く、二週間で5刷となる人気ぶりで、氏の著作の中では20年ふりのヒット作とか。

 さて本書における森永氏の主張はとてもシンプルで分かり易いものです。第3章で端的にまとめられています。日本国の債務は確かに大きいが、相応の資産保有もあるのにそれが論じられず悲観論ばかり横行する不可思議さ。日本の景気回復の足をことごとく引っ張ってきたのは、消費税に代表される国民負担の増加。
 日本の様に通貨を発行できる国には、そもそも財政破綻は有りえない。また通貨発行は巨大な財源であり、それを減税へ充てればよい。消費税率は引き下げ、ないし廃止し、速やかに国民の可処分所得を増やす施策を取ることで、日本経済は必ずや力強く回っていくと論じています。

 統計情報など、丹念に解き明かし、本書の内容には絶大な自信があるという森永氏。といいつつこの書籍を世に問うても何も変わらないとの諦観を記している点が気になりました。

 森永氏は「財務省けしからん」と我々に奮起を促すのではなく、自給自足に近い、近隣の方と相互扶助をするような生活とし、税金など社会保障負担が最低となる、非課税所得世帯への転身を薦めています。
 要は嫌な仕事をして稼いでも、国に搾取されるばかりでストレスもかかるし割に合わない。工夫次第でお金はなくとも、十二分に生活する方法はあるのだから、それを選択して好きなことをしながら生きた方がいいと巻末で結んでいます。
 これこそ若い世帯に志向されては、国にとって最も恐るべし事態。しかしそこまでの思いを記させてしまうほど、森永氏にとって今の「財務省」の在り方、政策、そして為政者、識者への失望感は大きなものがあるのかもしれません。

                        三五館シンシャ 二〇二三年六月一日 初版発行

2023- 6-11  Vol.521
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【概要】

 ミシマ社という出版社をご存じでしょうか。2006年11月、東京は目黒区自由が丘で創業。「取次」を通さず書店と「直接取引」をする営業形態をとっています。

 新興の出版社ながら、「小さな総合出版」を標榜、文芸・エッセイ、紀行・ノンフィクション、思想・宗教・歴史とジャンルを問わず、精力的な出版活動を続けています。

 本ブログでは、同社の出版物は、ほとんど紹介する機会がありませんが、個人的にはよく手に取らせていただいている出版社の一つです。
 
 さて本書は、そんな同社を主宰する三島邦弘さんの手による1冊。
バブル崩壊、出版不況と言われはじめた1999年4月に出版業界に飛び込んだ著者。PHP研究所、NTT出版を経て独立を果たした氏が、自身の経営を振り返り、これからの小さな組織や企業のあり方について、思いを記しています。

【構成】

 全3部で構成されています。同社サポーター会員向けに配られている「サポーター新聞」に寄稿してきた5年分の「ごあいさつ」を中核に据え、前後の第1部、第3部は書き下ろしとなっています。

【所感】

 コロナウィルス感染症を機に、自社の経営は大きく変貌を遂げたという三島氏。
 過去発表の「ごあいさつ」を再度読み返す中で、限られた読者にしか配布していない「サポーター新聞」に、あまりにも、自身が素直に思いを吐露している様子に驚いたといいます。
 あえて自身の思いの変遷を中核に本書を構成することで、読者へのメッセージは、より鮮明に力強く記されたように思います。

 出版を通じ「おもしろい」を作り、届けたい。「一冊入魂」をモットーに、提供する出版物には、きちんと思いを込めたい。そう願う著者ですが、組織を回していく上では、きれいごとばかりも言ってはいられません。
 また世間一般的に企業に対し発せられる「給料は上げましょう。」「労働時間はできるだけ少なく」「社員に有給消化を、産休を育休を。」「福利厚生の充実を。」「社員一人一人が尊重される職場環境を。」の声にも苦しめられます。
 それは心得ているし、そうありたいと思っている。でも小さな組織、小さな企業では、そんな一般論を振りかざされても応えられない現状がある。ならば、これからの経営はどうあるべきなのか。
 
 著者は「畑」と「自転車」に、そのヒントを見出し、自身の会社の運営方法を変革していくことで本書を結んでいます。その選択は賛否分かれることかもしれませんが、こと小さな組織が生き残る一つのあり方としては示唆に富むものでした。

 小体な本ですが、出版や書籍に関心のある方のみならず、これからの働き方、小体な組織のあり方についてご関心をおもちの方であれば、一読の価値はある1冊と思います。

                      ちいさいミシマ社 2023年5月16日 初版第1刷発行

IMG_65392023- 6- 4  Vol.520

【概要】

 今やビジネスパーソンたるもの決算書が読めるのは常識。
そんな思いを抱かれる方は多いのでしょうね。書店には数多くの解説本が並んでいます。
 とはいえ、決算書は数値の羅列で構成されています。例え入門書とあっても正直、ある程度の簿記や会計の知識がなければ、なかなか理解は難しいのではないでしょうか。

 本書もその類の一冊ですが、やや趣が異なるのは、単に決算書の読み方を理解するのではなく、その会社が営むビジネスモデルと併用して理解することが重要と著者は説きます。

 個々のビジネスモデルの特徴が、どう決算書に反映されているかを推測しながら読むことで、より効率的に決算書を読めるようになるとし、数多くの決算書やビジネスモデルに触れることが大切と。本書では上場会社、約40社の決算書を引き合いに、2社以上の同業者を比較しながら、解説が行われています。

【構成】

 全5章で構成されています。第1章で決算書を読むポイントを解説した後、愛2章以降では、高付加価値企業、グローバル企業、ビジネスモデル転換企業、粉飾破綻企業のテーマで各章を充て、展開しています。

【所感】

 日本マクドナルドHDに始まり、伊藤園、サントリー食品、コカ・コーラBJHDなどの飲料メーカー、大和ハウス、飯田GHDといった住宅メーカーの他、乳飲料メーカー、カフェレストラン、ドラックストア、100均、半導体装置製造メーカー、半導体メーカー、製薬業など、我々に馴染みの深い企業を多く取り扱っています。

 公開されている決算情報を元に、対象年度の特徴を示す業績ハイライトやトピックをグラフなどで端的に紹介した後、貸借対照表と損益計算書を大まかな数字で図示し解説する体裁となっています。
 図表は2色となっており、要点は直接書き込まれています。また本文中でも重要な数字や特徴は太字で記され、各事例ごとに簡潔なまとめも付与されており、至れり尽くせりの内容となっています。

 個人的には、引用されている決算数値は、連結決算なのか、単体決算なのか判然としないこと。同業者比較でも、やむを得ないところはありますが、HD(持株会者)と事業会社を比較しているケースもあり、やや無理があるのではないかとの思いはありました。

 ただそれは些末な話であり、著者の意図は、よりビジネスモデルの特徴が顕著に表れている決算書を取り上げることで、読者に見るべきポイントやパターンを効果的に理解してもらうことにあります、
 その点で本書の目的は十分に果たされており、さほど知識や関心のない方でも一読していただければ、決算書への関心や理解が深まること間違いの一冊。
 株式投資をやってみえる方なら、自身の投資先を。やってみえなくても自身の関心のある企業や、何らかの接点をお持ちの企業につき、本書の解説手順を参考に読んでみる方法もお勧めです。

                             東洋経済新報社 2023年6月6日発行

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