名南経営 河津勇のツンドク?ヨンドク?

税理士法人名南経営 河津勇 公式ブログ。新刊ビジネス本から、皆様のビジネスに役立ちそうなヒントをあれこれ探ります。毎週日曜日更新中。

2023年10月

2023-10-29 Vol.541IMG_6648

【概要】

 自分が好きで得意なことを「楽しくビジネス化する」。
それを「アソビジネス」と称し、そのノウハウを分かり易く解説したのが本書です。

 人生100年時代と言われ、より長い期間に渡り、働くことや稼ぐことが必要となる中、より充実した人生を送るためには「好きで得意な仕事や活動」に没頭し、楽しくお金を稼ぎ、気の合う仲間を増やしていくことが大切です。

 とはいえ、何から始めていいか分からない、そもそも自分が好きなこと、得意なことが分からない・・・・・。本書では、そんな悩みにも答えつつ、具体的なビジネスに展開する方法までが解説されています。著者は「サードプレイス啓蒙家」の潮凪洋介氏。アソビジネス啓蒙団体LWCA(ライフワーク・クリエイト協会)を主宰し、「アソビジネス」の啓蒙に勤しんでいる方でもあります。

【構成】

 全10章で構成されています。前半4章は、啓蒙、啓発的な内容ですが、5章以降は、具体的なビジネスとして構築する方法や収益化する方法、持続していく方法にも言及。巻末には、様々な方の具体例を挙げ結んでいます。

【所感】

 全章が7節~9節で構成されています。全ての節で、問いかけがあった後、「解決法」「ポイント」「常識を壊そう」「まとめ」の順で展開されていき最後に「ワークアウト」で自ら書き出してみる手順で読み進める体裁となっています。

 自身の規制概念を壊すこと、好きを見つけること、家庭と職場以外のサードプレイスを見つけること。そんな問いかけが続きます。

 失礼ながら展開が、ややまどろっこしいところがありますので、具体的なビジネス化について知りたい方は、5章以降から読まれても良いかもしれません。
 単に好きなことで仕事が出来ればいいという話に終始することなく、きちんと収益化して持続化することを重要視して解説している点は非常によいと思いました。
 当然、価格設定やターゲット設定など生々しい部分や、自身のブランディングの必要性など、読み手にとっては「いや自分はそこまではちょっと(出来ない)」と思われる部分もあるかもしれませんが、そこに抵抗感を覚えるようであれば、そもそも選んだビジネスが、本当に自身のやりたいことではないのかもしれませんね。

「遊びは遊び。仕事は仕事」自身はそれを混在させたくないとの思いを抱く方ことも多いかもしれませんが、著者は、好きで得意なことを最も高いエネルギーで形づくるには、あえてそれをビジネスにすることが重要と説きます。
 その理由を「ビジネスこそが、資本主義社会における最強の『自己実現方法』だからとしています。このあたりは、読み手により評価の分かれるところかと思いますが、コロナ禍によるテレワークの進展、多くの企業での副業解禁、2拠点生活など、我々の労働環境や就業環境も多様多彩となる中、著者が説く「アソビジネス」は、自身の今後の働き方を考える上で知っておいて損はないテーマではないか。そんな印象を抱いた1冊でした。

                        自由国民社 2023年9月30日 初版第1刷発行

2023-10-22 Vol.540IMG_6643

【概要】

 皆さま「ガチャガチャ」ってお分かりになりますか。
 硬貨を入れてハンドルを回すと、玩具や雑貨などがランダムに出てくる小型自動販売機のことで、スーパーマーケットの店頭やアミューズメントパークなどで、見かける機会が多いのではないでしょうか。
 「ガチャポン」「カプセルトイ」などの呼称で呼ばれることもあります。ご年輩の方なら、幼少期、駄菓子屋などの店頭で楽しんだという方もいらっしゃるかと思います。

 現在、この「ガチャガチャ」市場が、大いに盛り上がりを見せているそうです。2023年「東京おもちゃショー2023」での発表によれば2022年の市場規模は610億円。前年比で35.9%、過去10年で2倍以上の規模に成長しているそうです。

 なぜこれほどまでの盛り上がりを見せるのか。そもそも「ガチャガチャ」市場とは、どういうビジネスモデルなのか。そんな知られざる同市場の実態に迫ったのが本書。一般社団法人日本ガチャガチャ協会(そんな協会があるんですね)の代表理事である小野尾勝彦氏の手によります。

【構成】

 全4章で構成されています。「ガチャガチャ」市場の沿革やビジネスモデル。主要な参入企業を紹介するほか、最新のトレンドなども紹介。巻末には経済財評論家で無類のB級グッズ収集家、森永卓郎さんとの対談も掲載されています。

【所感】

「ガチャガチャ」の発祥の地はアメリカ。日本国内での販売が始まったのは1965年。東京台東区で立ち上げられた株式会社ペニー商会が、アメリカから販売機を輸入し、駄菓子屋や文具店の店頭に設置を始めます。翌年朝日新聞系の雑誌「アサヒグラフ」に取り上げられるや、大きな反響を呼び、全国から引き合いが殺到したそうです。

 とはいえ、子供向けで単価の低いビジネス。販売するものも著名なキャラクター商品を模したパチモノなどB級品ばかり。
 そんな状況を一変させたのが、「キン肉マン」消しゴム、いわゆる「キンケシ」です。
1983年にアニメ放送開始と同時に、おもちゃメーカーのバンダイが、登場キャラクターをモチーフにした人形型消しゴムを「ガチャガチャ」に入れて販売すると爆発的な人気を呼びます。
 著者は、これを「ガチャガチャ」第1次ブームと呼び、現在の盛況ぶりは第4次ブームにあるとしています。その背景にあるのは「ガチャガチャ」専門店の台頭と、女性購入者の増加。

 今やショッピングモールなどで、店頭の一部ではなく、一店舗分のスペースに大量の販売機が置かれており、明るく開けた店内は女性でも入りやすいこと。またその商品もオリジナリティあふれクオリティが高く、しかもコレクション性が高いことから人気を博しているようです。
 また価格も、300円~500円と決して安いものではないことも、市場規模の拡大に寄与しているのかもしれませんね。

 本書では、そんな「ガチャガチャ」市場の沿革から、普及理由の考察、商流の解説、主要メーカーへのインタビューなどを通じ、あまり知られることのなかった「ガチャガチャ」市場を丹念に紹介しており、興味深いものでした。ビジュアルが豊富な点もいいですね。

 さてそんな「ガチャガチャ」市場の今後はどうなのでしょうか。
今や「ガチャガチャ」とは直接関係のない企業とのコラボ商品や、地域おこしの一環から生まれた「ごガチャ当地ガチャ」も登場。また販売機自体もキャッシュレスや、ネットワークを通じた販売データ集約機能を備えるなど進化しており、現在の第4次ブームは、当面継続、拡大しそうですね。
 インバウンドで日本を訪れる外国人にも人気があり、今後は逆に海外展開もあるのではないかと記し、本書を結んでいます。
                         プレジデント社 2023年9月15日 第1刷発行

2023-10-15 Vol.539IMG_6641

【概要】

 台湾を南北に貫く中央山脈。3000メートルを超える富士山級の高山が連なるその様子は、しばしば台湾を台風被害から守ってきたことから「護国神山」(国を守る神)と呼ばれています。

 台湾国内には、そんな異名をもつ企業が存在します。それが本書の主役であるTSMC(台湾積体電路製造股
份有限公司)。世界最大の半導体受託製造企業(ファウンドリ)です。

 設立は1987年。世界初の半導体専攻のファウンドリであり、現在もこの分野におけるリーディングカンパニーとなっています。
 2022年度の売上実績は2兆2639億台湾ドル(約9兆556億円)、営業利益は1兆1213億台湾ドル(4兆4852億円)(1台湾ドル=4.0円で換算)と堂々たるもので、その時価総額も全世界で十指に入るほどの高い支持を集めています。
 わずか30数年足らずの期間に、なぜ台湾の一企業がこれだけの成功を収め
「護国神山」とまで称されるようになったのか。その発展の経緯と同社経営の特徴を追ったのが本書です。

【構成】
 
 全6章で構成されています。前半3章は、同社誕生の経緯から、創業から30年以上同社を率いたモリス・チャン氏にフォーカス。後半3章では、同社の競争優位性、コアバリューについて考察した後、今後10年の展望を記し結んでいます。

【所感】

 端的に言ってしまえば、TSMCの競争優位性は、「ファウンドリ専業」の徹底にあります。
1987年の設立当時、IBM、インテル、AMDといった半導体の設計から製造(ファウンドリ、パッケージング、テスト)まで全て自社で行うIDM(垂直統合型デバイスメーカー)が、台頭する中、
TSMCは「ファウンドリ専業」というビジネスモデルを選択します。IDMが成功していた時代ゆえ、大手半導体メーカーからは、まとも相手にされず発注されるのは、利幅の薄い、二流、三流の製品ばかり。

 そんな中、MITを卒業、米国のTI(テキサスインスツルメンツ)で25年に渡るビジネス経験を持つ創業者、モリス・チャン氏の指導下で、徐々に技術力やマネジメント能力を高め、1990年代後半には、先端の半導体受注に成功し、そこから同社の躍進が始まります。

 より細密化が進み、高度な生産技術が必要とされる中、経営資源を集中出来たTSMCは、いつしか他社の追随を許さない存在となります。折からの全産業における半導体需要の高まりもあり、驚異的な成長を実現。莫大な利益は、巨額な研究開発投資を可能する好循環を生み、より同社の優位性を高めています。
 いまやTSMCの動向、すなわち半導体供給の状況は、世界経済に多大な影響を及ぼすこととなっており、先端メーカーとの協業や、先進国からの自国への生産拠点設置のオファーが絶えない、極めて重要な企業となっており、その所在する台湾のプレゼンスも引き上げています。中国からの内政干渉もある中、これが抑止力の一つとなっており、冒頭で記した「護国神山」の異名へ繋がっていきます。

 さて本書では
TSMCの、より具体的な競争優位性として①組織制度と運営 ②技術者 ③企業文化 ④生産技術と資金 ⑤マーケティング ⑥顧客サービス ⑦サプライチェーン の7点が挙げられています。なかでももっともページが割かれいるのが③の企業文化。特に4つのコアバリュー「常に誠実であること」「コミットメント」「イノベーション」「顧客の信頼」にうき仔細に記しています。 

 モリス・チャン氏が、自社の経営で最も重視してきた部分であり、社歴の浅い企業では、創業時こそ理想に燃えるも、時が経てば、ないがしろにされがちな企業文化を大切に育み、根付かせたことが、同社躍進の礎になったことは間違いありません。また個人的には両国の企業経営を理解している彼ゆえ、米国流と台湾流、双方のメリットを最大に活かす組織設計と運営を行ってきたことも大きいように思います。
 半導体産業育成のため、国策として人材投資などを行ってきた台湾政府の存在も同社躍進には欠かせなかったと思いますが、なによりその最大の成果は、
モリス・チャン氏を招聘し全権を託したことにあるのかもしれませんね。
 日本の半導体産業が、この世の春を謳歌していた1980年代後半。同時期に生まれたTSMC。そして30数年後の両者の明暗。盛者必衰、諸行無常と呼ぶのは、冷たすぎるでしょうか。

                         日経BP社 2023年10月2日 第1版第1刷発行

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【概要】

 LEXUS(レクサス)
ご存知の方も多いと思いますが、トヨタ自動車が展開しているプレミアム(高級車)ブランドです。1989年から北アメリカで展開。2005年には日本でも展開が始まっています。
 製品の品質の高さもさることながら、販売店での接客レベルやアフターフォローの丁寧さなども高く評価されており、今や欧州車にも引けを取らない
プレミアムブランドとなっています。
 
 そんなレクサスブランドの第1号車として誕生したのが、LEXUS LS400。4.0ℓV型8気筒のエンジンを搭載したセダンで、全長は4995mm、全幅は1820mmという堂々たる躯体。世界第1級の空力性能を誇り、低中速から高速まで、高い静粛性を実現。また乗り心地にも優れ、それでいて低燃費という同車は、発売されるや否や世界中で称賛され、メルセデスベンツと並ぶ国際的高級車としての地位を確立することとなりました。

 そんな
LEXUS LS400の主担当員として、1984年から5年間に渡り、同車の企画から新車発表まで携わったのが、本書著者である櫻井克夫氏。
 その知られざる開発秘話を綴ったのが本書です。トヨタ初のプレミアムブランドであり、トヨタ社内でも極秘裏に開発が進められていたことから、その全貌を知る人は少なく、仔細が外部に公開されることは、ほぼありませんでした。

 30年以上の時を経て、あえて本書を記す理由につき著者は、現在大半の
日本企業が製品開発において新たな「価値創造」に苦しむ様子を知るにつけ、トヨタ初、いや日本の自動車メーカー初と言ってもいい、プレミアムブランドを創造した自分たちの経験が参考になる点も多いのではないかと綴っています。

【構成】

 全9章で構成されています。LS400開発話に留まらず、自身の学生時代や、トヨタ入社後手掛けた様々な車両開発のエピソードなども織り交ぜられています。

【所感】
 
 開発が始まった当時は、日米貿易摩擦のさなかで、対米自動車輸出の自主規制が行われていた時期。
輸出、販売台数が制限される中、1台当たりの利益率が高い高級車にシフトををしてくのは必須。しかし海外における当時のトヨタ自動車は、小型で燃費が良く耐久性の高い車を作るが、そのラインナップに高級車があるメーカーとしては、全く認知されていませんでした。ましてや高級車メーカーの多い欧州では、猶更のこと。

 これまでの様に、日本国内向けに作られた高級車を、欧米向けに改良するのでなく、当初から海外での販売に特化した車を作らなければならない。そしてその性能は欧州車を超えるレベルでなくてはならない。
 今や世界一の生産台数を誇り、押しも押されぬグローバル企業となったトヨタ自動車ですが、レクサスの開発が同社にとって大きなターニングポイントであったことは疑う余地もありません。
 同社の開発には、並々ならぬ覚悟があったことがうかがえます。例えば試作車の台数。なんとトヨタ車歴代1位の450台。試作車全ての走行距離は350万㎞(地球88周分)に達し、米国、欧州、北欧など海外で10回に渡る走行試験が繰り返されています。
 他にも開発に関わる豊富なエピソードが紹介されていますが、印象に残るのは、その妥協無き姿勢。コンセプト作りに始まり、製品企画から製造とあらゆるプロセスにおいて、筆者のみならず関わる人全てが抱いていた「世界最高峰の車を作りたい」との思いと各自持ちうる渾身の力の結実が、希代の傑作車を産んだことは間違いないでしょうね。

 ただ当時と今では、経営環境も開発ツール、自動車産業自体の成熟度も異なる中、本書で明かされたレクサス開発のコンセプト作りや製品化へのプロセス等は、著者の言うように、今なお有益なものなのか、単なる著者の回顧録に過ぎないのか。現在、自動車に限らず様々なモノづくりに関わる方々はぢう見るのか、正直判断は付きかねますが、個人的にはトヨタ車いや日本車の価値や評価を大きく変えた製品の誕生ストーリーとしての読み応えがありましたし、世界が惜しみなく賞賛をしたという、そのくだりには胸のすく思いを感じた1冊でした。
 
                         日経BP社 2023年9月19日 第1版第1刷発行

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【概要】

 今日から始まった消費税のインボイス制度。新たに税負担を迫られている事業者の方も少なくないのかもしれませんね。
 なんとか税負担を減らし、少しでも手取りを増やしたい。上手な財産形成をしたい。そんな思いを抱く方に向け、記されたのが本書。現役の開業税理士が記しています。
 
 いかに様々な支出を合法的に経費化するか。単に節税に終始するのでなく、いかに合理的に財産形成を図るのか。そんなノウハウが明かされています。
 主として所得税を中心に、個人事業主やフリーランスの方向けに記された内容ですが、一般のサラリーマンの方が知っておいても損はありません。帯の裏にある「税金ほど『知っているかどうか』で差が出る知識はない!」とのコピーがありますが、まさにその通りの1冊でした。

【構成】

 全6章で構成されています。冒頭の2章では、経費化が可能な支出や、それを税務署に認めさせる方法を解説。3章以降は、節税マスターレベルと銘打ち、所得控除、税額控除といった経費以外の節税方法や著者自身が実践した財産形成に繋がる節是策などを紹介しています。

【所感】

 海外旅行、高額なワイン、イベント参加費、Tシャツ代、著者自身がこれまで必要経費として計上してきたもの。なぜそれが必要経費として認められるのかを解説。
 勘違いをしてはいけないのは、何でもかんでも必要経費に出来る訳ではなく、それを必要経費として計上する理由を合理的に説明出来るかどうかがポイントであること。

 端的に言えば、その経費がどのような収入に結びつく(可能性があるのか)のかが要点となります。
著者の様な税理士業やコンサルティング業で、収入を得る方法と、他の事業では異なる部分も大きいため、本書で取り上げているからと言って、自身の事業でも可能か否かは、慎重に判断する必要がありそうです。

 さて本書で著者が一番伝えたかったのは、節税策を活用した自身の財産形成。32歳で独立開業した後、いかにして40歳で1億円の財産形成を果たしたか。
 ポイントは2点あります。1つは開業時に借入をし手持ち資金を膨らませる。本書でいう節税は必要経費を増やすことにありますから、当然事業は赤字が先行します。
 赤字事業で融資を受けるには、ハードルが高いものですが、開業資金であれば、そこまでの厳しさはありません。ただその半額
は温存し、毎月の返済原資に充てることを薦めています。

 2つ目は、収入に繋がる経費を惜しまないこと。セミナー参加費用やコンサルティング費用、広告宣伝費用など、当たりはずれはありますが、費用にできる、稼げるノウハウを買うことに躊躇しないこと。人脈形成に繋がる支出は惜しまないことも薦めています。

 細々した節税で、手持ち資金の節約を考えるのでなく、収入を増やすことに繋がる支出を合法的に増やすこと。そのためには税金のメカニズムを知り、上手に赤字を作り使うこと。その辺りが本書の要諦と言えます。
 平易な文書で読みやすい1冊ですが、内容を鵜呑みすることなく、ご自身の事業に照らし合わせて考えることが大切ですね。
                           翔泳社 2023年9月21日 初版第1刷発行

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