名南経営 河津勇のツンドク?ヨンドク?

税理士法人名南経営 河津勇 公式ブログ。新刊ビジネス本から、皆様のビジネスに役立ちそうなヒントをあれこれ探ります。毎週日曜日更新中。

2024年01月

2024- 1-28 Vol.554IMG_6751

【概要】

 企業経営者の出自は、自ら起業をしたのか、家業等を引き継いだ後継者なのか、二つに大別することが出来ます。

「自らの夢をかなえるため」など、一見明るく華々しいイメージのある起業に対し、後継というのは、既に一定の経営パターンが出来上がり、様々な制限やしがらみもあるなど、あまり明るいイメージはないのかもしれません。

 それでも、後継者でありながら、起業家の様な発想や行動力で、家業を大きく変遷させ、成長をさせた経営者も少なくはありません。

 本書は、そんな後継を「ベンチャー型事業承継」と称し、事業承継した6人の経営者を紹介した1冊。
 倒産の危機、社員の離散、顧客ゼロ etc 不振に陥っていた家業を承継。絶対絶命のピンチの中、何を考え、どんな行動を起こしたのか。そこには、彼らにしか分からない、非合理な決断の数々がありました。

 著者は、自らも小さなデザイン会社を経営しつつ、2000年より大阪市の中小企業支援拠点「大阪産業創造館」創業に参画し、翌年発刊されたビジネス情報誌「Bplatz」の初代編集長に就任。3000社以上の企業経営者の取材を敢行した山野千枝氏です。

【構成】

 終章を除き、全6章で構成されています。1社につき1章を充て、6社中5社は実名が公開されています。登場する5社の事業は、製造業3社(導電性繊維、アウトドア用品、石鹸)、通販業、運送業となっています。社名非公開の1社は、再建ならずわずか1円で事業譲渡をしてしまったケース。劇的再建例を紹介した本書ですが、やはり避けられない厳しい現実があることも、あえて記しています。

【所感】

 紹介されているのは、関西圏の企業。業種や事業規模、沿革は、それぞれですが、大半の後継者は、決して望んだわけでなく、やむにやまない状況から引き継いだというパターンが多いように思います。そして共通するのは、お金の問題と先代(親)との確執に悩まされること。

 そんな渦中にあっても、不振に陥っている家業ながら、存続してきたのには理由があり、何かしらの強みがあったからと確信。その僅かな光明を見つけ、それを機に大きく経営を変えようとする、その姿勢に胸打たれます。

 先代の子息と色眼鏡で見られ、資金も権限もなく、人脈や経験も乏しい中で、自ら懸命に考え、行動を起こす。傍から見れば、まったく割に合わない(非合理)な選択をしているように見えますが、その一途な姿勢の根底にあるものを、著者は、自身の経験を踏まえ「(自身が預かったたものを)未来に託そうとする思い」とまとめています。

 世界的に見て、長寿企業が多いと言われる日本。後継が非合理な選択であるなら、多くの企業はとうに潰えた筈です。しかしそうではないのは、非合理に見えて、実はそれが合理的な選択だったからかもしれないですね。
 そうはいえ、少子高齢化が進展する日本。衰退する地域経済や地場産業、特に中小零細企業を取り巻く環境は著しく、企業淘汰も進んでいます。今こそベンチャー精神を抱いた、アトツギ(後継者)の育成と応援をする環境整備が急務。そんな思いを強く抱いた1冊でした。 
 
                                   新潮社 2024年1月15日

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【概要】

 2年ほど前に、当ブログでも紹介させていただいた書籍「そのビジネス課題、最新の経済学で『すでに解決』しています。」
http://blog.livedoor.jp/kawazuisamu/archives/56677216.html

 同書は、ビジネスの現場で、経済学の知見を活用することを提言したものでした。本書は、その続編とも言える1冊。
    実際に経済学者を企業内に擁したり、外部の経済学者を積極的に活用している企業の実例を紹介しながら、改めてビジネスの現場における経済学活用を提案しているのが本書です。

 企業を取り巻く経営環境が益々多様化、複雑化する昨今、過去の経験や勘による対処が難しくなる中、今ビジネスパーソンに問われているのは、適切な「問いを立てる力(課題発見力)」と「相手の答えの妥当性を判断する力(批判的思考)」を備えること。
 経済学の理解は、大いにその一助と成り得るという著者の主張は、前作から一貫をしています。

【構成】

 全4章で構成されています。第1章では、企業経営に積極的に経済学を取り入れる効用を解説、第3章と第4章では、企業での活用方法や学習方法に触れていますが、メインとなるのは第2章。5社の企業実例が紹介されています。

【所感】

 実企業として紹介されている企業のうち、著名なところでは、サイバーエージェント、Sansan、デロイトトーマツなどが挙がったいます。5社中、社内に経済学者など専門チームを有するのは2社。後は外部連携や、各人の学習で対処。

 自社のどういった課題に経済学を活かそうとしているのか、その取り組みを紹介しつつ、課題と展望として整理し要点を抽出、事例理解の一助となっています。
 守秘義務もあるのでしょう。各社の具体的にどのサービスに経済学が活用されているのか、明確でない部分も多いのですが、やはり各社に集まる顧客情報など莫大なデータ解析への活用が多いようでした。

 各社が経済学に積極的にアプローチする理由の最たるものは、勘や経験といった従来のアプローチでは解決できない課題への対処。またその対処方法を属人化させないため共通の思考パターンとして経済学を社内に根付かせたい意向があるように感じました。
 
 一口に経済学といっても、細分化され個々に専門領域がありますから、その活用の前提として、企業サイドは、まず自社の解決したい課題を明確化にしておくこと。その上で自社の課題に近い専門領域を専攻する経済学者を見つけ積極的にアプローチをすること。但しその際に必要となるのは済学者との「共通言語」。ビジネスの現場と学問の場を繋ぐために経済学の基礎知識や、自社の課題を伝える言語化する能力に長けた人材の育成などが重要とのことでした。

 個人としては、リスキリングの必要性が高まっている昨今、短期的な収入アップを目指したスキルの取得でなく、長期的な視点に立ち、教養として経済学を身につけてほしいとし、まずは経済学の入門書でいいので手に取ることを推奨。巻末には著者の薦めるブックガイドが付されています。


                           日経BP 2024年1月9日 第1版第1刷発行

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【概要】

 ポテトチップスなど、スナック菓子で知られる湖池屋。
 2016年5月、2期連続赤字を計上するなど、業績低迷に陥りつつあった同社に、キリン(キリンビール、キリンビバレッジ)から転じたのが、同社代表取締役を務める佐藤章氏。本書の著者です。

 同社に転じ最初に手掛けた商品が「湖池屋プライドポテト」
国産じゃがいもを100%使用し、製法に一切の妥協をせず、正に社としてのプライドを賭けた商品でした。

 従来品の1.5倍ほどの価格ながら、大ヒット商品となり、初年度の売上は40億円を超えます。20億円を超えればヒットと言われるスナック菓子市場にあっては、異例のこと。その後も堅調にヒット商品を生み出し、同社の経営も立ち直っていきます。

 異業種から転じた佐藤氏は、いかに老舗企業を再成長軌道に乗せたのか。
その過程を通じ、同社の商品開発やマーケティング、経営戦略など、その思いを語ったのが本書です。

【構成】

 全6章で構成されています。第1章~第2章では、同社の沿革や「プライドポテト」誕生までの経緯を紹介。第3章では、前職であるキリンでの経験も披露。第4章以降では、商品開発、マーケティングなどのテーマで、更に掘り下げた内容となっています。

【所感】

 キリン(キリンビール、キリンビバレッジ)時代も、数々の大ヒット商品を生み、希代のマーケッターとの異名をとるだけに、華々しい経歴を誇る佐藤氏。
 当初、湖池屋入社をためらった経緯もあったようですが、独創的でユニークな社風、創業以来の本物志向、二代続くオーナー企業で変革の余地が大きいことなどが、決め手となったようです。

 入社後、佐藤氏は社内を隈なく回り、様子をつぶさに観察。また創業者や経営幹部、社員とコミュニケーションを図りつつ、社内向けに1冊の小冊子をまとめあげます。その内容は社員が湖池屋で働くことに誇りをもってもらい、チャレンジする気持ちを鼓舞することを目したものでした。そして冊子内に記された「一品」という言葉が、湖池屋を立て直すキーワードとなります。

 湖池屋再生には、同社の「一品」ともいえるヒット商品が必要。そんな思いが結実したのが、前述した「湖池屋プライドポテト」でした。

 さすが希代のマーケッター。「ヒット商品は一発ではなく、連続しなければ駄目だ」とし、矢継ぎ早に、第二弾、第三弾の商品を開発。また差別化戦略を図り、価格競争とは一線を画すことを厳命します。
 一方で、上場を機に、よく分からない横文字となっていた社名は「湖池屋」へ戻し、創業の精神に立ち返るとともに、自社が守るべき価値を再認識させ、共有を図ります。更に創業者を立てつつも、佐藤氏自身がメディア登場を積極的に行うことで、新生「湖池屋」を大いにアピールしていきます。

 入社からわずか7年での同社の改革ぶりに驚くばかりですが、佐藤氏の手法は決して奇をてらったものではなく、王道を行くもの。本書も新生「湖池屋」をアピールする一環という穿った見方が出来ないわけでもありませんが、業種・業界を異にしても、参考となる点は多いのではないでしょうか。


                          中央公論新社 2023年12月25日 初版発行

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新年あけましておめでとうございます。本年もお付き合いのほど、よろしくお願いいたします。2024年のスタートはこんな1冊から。

【概要】

 21世紀に入り、はや四半世紀。20世紀の文化で主流であった物理的(物質的)な影響力が衰え、精神的(経験的)な影響力が強まる文化の分岐点「超越の時代」に今、我々はあるそうです。

 端的に言えば、人々は所有物をひたすら増やすことよりも、人生の崇高な意義を探し求めるようになっているということ。物心両面でそれほど暮らしに苦労していない中年層以上に、特に見られる特徴だそうです。この人生の意義探しが市場や職場への期待を変え、資本主義の本質の部分を変えつつあると著者たちは指摘しています。

 人々が企業に対峙する姿勢も変わろうとするなか、今後も存続が許される企業は、従業員、顧客、投資家、取引業者、地域社会といった、全てのステークホルダーに愛され、全てのステークホルダーの満足度を高めるための経営が実践されていなければなりません。それが「愛される企業」。

 本書は、主として米国企業の分析を通じ、この「愛される企業」につき考察をした1冊。星野リゾートの星野佳路代表が日本版の序文を寄せています。

【構成】

 全11章で構成されています。第1章~第3章では「愛される企業」の概要等を紹介。第4章~第8章でステークホルダーごとに、掘り下げて解説した後、第9章以降では、企業文化につき論じた後、総括する構成となっています。巻末には分析対象とした企業一覧と簡単な企業概要が付記され、本書理解の一助となっています。

【所感】

 全てのステークホルダーに愛され、全てのステークホルダーの満足度を高めるためには、相応のコストや手間がかかりますし、当然業績への影響も懸念されます。

 よって「愛される企業」の収益性は低いのではないかとの疑問も浮かびますが、分析対象として取り上げた企業の中には、高収益企業の分析と特徴を紹介した「ビジョナリーカンパニー2」で取り上げられた企業や、S6P500企業平均を上回る財務事績を上げている企業も少なくなかったそうで、著者達は「愛される」ことが企業の永続に繋がると強く確信したと記しています。

「高収益が続くなら」「業績がいいなら」そんな条件付きで、ステークホルダーに還元しますというスタンスではなく、一時の業績に囚われず、全てのステークホルダーの満足度や幸福度を高める調整や施策を一貫して継続することが、好業績に繋がるのだと説きます。

 各企業が、具体的にどのような施策を行っているかは是非、本書をご参照いただきたいと思いますが、「愛される企業」には7つの特徴が見出せるそうです。

 ①業界の常識を疑ってかかっている。
 ②ステークホルダーの利害関係を調整し、価値を創造している。
 ③従来のトレードオフの考え方を解消している。
 ④長期的視点で事業を行っている。
 ⑤本業による自律的成長を目指している。
 ⑥仕事と遊びをうまく融合させている。
 ⑦従来型マーケティングモデルを当てにしていない。

 そしてこれからの企業経営者は、こういった特徴を理解した上で、企業の事業活動をオープンにすること、ステークホルダーがもたらす価値を、企業のコア資産と考えた経営を意識することが肝要としています。

 本書の様な話は、日本の近江商人を引き合いによく出る「三方よし」の精神を思い出させ、日本での長寿企業の多さが、それを裏付けているのかもしれませんが、同精神が「売り手」「買い手」「世間」という三方で、ややもすれば自社(従業員などの処遇)のことは二の次というケースも少なくないのかもしれません。
「愛される企業」では、従業員も含め、全てのステークホルダー間の利害調整をしつつ、永続発展可能な収益の確保を目するものであり、何かを犠牲にして成り立つものではないことを重々理解そておく必要がありそうですね。
 
 米国の公開、非公開企業の他、他の地域の企業含め、70社以上の分析を通じ、記された本書。
日本企業からは、トヨタ、ホンダの2社のみが掲載されています。ホンダについては本文中のコラムでも取り上げられ、高い評価を受けていました。

                         日経BP 2023年12月18日 第1版第1刷発行

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