名南経営 河津勇のツンドク?ヨンドク?

税理士法人名南経営 河津勇 公式ブログ。新刊ビジネス本から、皆様のビジネスに役立ちそうなヒントをあれこれ探ります。毎週日曜日更新中。

2024年02月

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【概要】 
 本年2月、日本企業で史上初めて時価総額50兆円を超えるも、で相次いで発覚したグループ会社の不正問題で揺れるトヨタ自動車。
「極めて重いことだと受け止めております」「トヨタにものが言いづらい点もあると思う」
 創業家出身の11代目社長にして、現在は代表取締役会長の豊田章男氏の謝罪発言が新聞や週刊誌などに取り上げられています。

 そんな「豊田章男を社長した男」なる副題のついた本書。
 その男とは、8代目社長、奥田碩氏の側近で中国事務所総代表として、低迷していたトヨタ自動車の中国市場を大転換させた服部悦雄氏。その功績が当時、アジア本部本部長兼中国事務所所長を務めていた豊田章男氏の社長就任への道筋をつけたと言われており、本書副題へと繋がっていきます。

 本書は、そんな服部悦雄氏へのインタビューを中心に、トヨタ自動車の中国ビジネスや世襲の裏側などについて記した1冊。ビジネス書というより、評伝に近い内容ですが、大きく変遷してきた中国社会や政治経済情勢などにも触れ、読み応えのある内容となっており今回ご紹介させていただくこととしました。

【構成】

 序章、終章除き、全10章で構成されています。第2章以降はほぼ時系列で展開していきますが、第5章までは、トヨタ自動車入社以前の服部氏の半生が描かれ、第6章以降は同社入社から中国ビジネスとの関わりが、記されています。

【所感】

 生粋の日本人ながら、農林官僚だった父親が中国赴任をしていたことから、中国で生まれた服部氏。
技官であった父親が、戦後も中国に残ることを決断したことから、家族も中国に残留。
 中国共産党が台頭し、変貌する中国社会にあって、敗戦国日本の出自であるがゆえ辛酸を舐めることも少なくなかったようです。

 皆に一目置かせるため、勉学に励み優秀な成績を収めるも、日本国籍ゆえ難関著名大学には、進学を許されなかったものの、農林系の大学へ進学、土木工学を学びます。しかし毛沢東主導の文化大革命が起き、大学卒業後は強制労働の憂き目に。
 日本に帰りたい。そんな思いが叶ったのが、1970年。そして縁あって当時のトヨタ自販に入社を果たします。
 
 日中国交正常化、鄧小平の時代となり、自動車産業の国内育成の目論見から、トヨタの中国進出の機運も高まり、服部氏も活躍の場を得ます。
奥田碩氏との出会いもあり、頭角を現すも、トヨタ自動車自体は、日米自動車摩擦の影響から、中国への本格進出を断念。これが後々まで、尾を引きます。

 しかしその不利な形成を逆転させたのは、服部氏の描いた秘策。
アジア本部本部長兼中国事務所所長を務めていた豊田章男氏の全幅の信頼下で、東奔西走し、これを実現。トヨタ自動車の中国での復権台頭に大きく先鞭をつけます。
 このあたりの描写にはまるまる1章を割いており、是非本書をお読みいただきたいのですが、八面六臂の服部氏の活躍に胸躍ります。また中国という国、中国人という気質に通じていなければ、とても、こんな施策は打てないと思いますので、幼少期から辛酸を舐めた経験が報われたかのようです。

 そんな服部氏ですが、やっかみや誹謗中傷の声が上がるようになり、帰国の途へ。かつて章男氏の実父、章一郎に約束された役員の椅子は用意されることなく、トヨタ自動車を去っていきます。
 
 服部氏の魅力も去ることながら、個人的には、本書前半で、実に丹念に記された戦後の中国社会の変遷の様子が大変印象に残り、特に毛沢東の狂気の時代には戦慄を覚えました。
 多様な要素を盛り込むも、飽きさせない展開や構成、お勧めできる1冊です。
 
                           文藝春秋 2024年2月10日 第1刷発行

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【概要】
 
 大胆なタイトルのついた本書。経営と銘打ちつつも、正直ビジネス書の範疇からは、外れています。ただなかなか興味深い内容でしたので、今週はこの1冊をご紹介させていただきます。

 一般的に経営とは何かと問われれば、目的を達成するために、計画的、継続的に意思決定を行い、事業を管理、遂行する会社経営のイメージを抱く方が多いのではないでしょうか。

 本書において、著者は本来の経営とは「価値創造(他者と自分を同時に幸せにすること)という究極の目的に向かい、中間目標と手段の本質、意義、有効性を問い直し、目的の実現を妨げる対立を解消し、豊かな共同体を創り上げることと」としています。そして、人は誰でも、この経営概念の下で自らの人生を経営する当事者なのだと記しています。

 正しい経営概念をもつことで、我々は日常で感じる、様々な不合理や不条理から解放される筈なのに、現実はそうではありません。なぜうまくいかないのか。その理由を考察したのが本書です。

 著者は、中卒自衛官から、旧大検を経て東大へという異色の経歴をもつ経営学者岩尾俊兵氏です。

【構成】

 序章、終章を除き、全15章で構成されています。各章のタイトルは、全て「〇〇は経営でできている」と称され「貧乏、家庭、恋愛、勉強」など15の項目が並びます。あえてビジネス書的な内容を扱っていると言えば「就活、仕事」程度で、大半は「えっ、これも経営で論じれるの」といったものが並びます。

【所感】

 身近な事例が多く、エピソードの拾い方も巧みですので、これ自分のことじゃないと思う場面が何度も登場します。

 どの事例にも共通するのは、我々は往々にして目的と手段をはき違えてしまうことが多いとうこと。
例えば、第1章で記される「貧乏」では、貧乏を恐れるあまり極度の吝嗇(ケチ)に走ったり、借金を恐れるあまり、自己投資のチャンスを損なってしまう事例や、他者に委ねた方がはるかに効率のいいことを自身で無理してやってしまい、収入を伸ばす機会を失ってしまう事例が紹介されており、この様なアンバランスが生まれる要因は、自分の行動が目的が明確になっていないからだと論じられています。

 サラサラと読めてしまう本書ですが、著者は、各章のテーマにつき、ではどうすれば良いのかというという処方箋を記しているわけではありません。ならば自身の日常の経営がうまくいっていないと思われるなら、どう発想を変え行動を変えればいいのかと考えると、一筋縄ではいかない難しさを感じます。
 また人は感情の生き物であり、これが正しい目的と言われたところで、「そんなことは分かっちゃいるけど出来ないんだよ」と理由をつけ自らを擁護しがちです。つまり経営とは、この感情のコントロールにかかっていると言っても過言ではない。そんな印象を抱きました。

 どの事例に限らず、私たちの日常は、常に他者との接点があり、家庭や企業、地域など、共同体に参画をして生きています。
 ブログ冒頭でも、経営の目的は、
価値創造(他者と自分を同時に幸せにすること)と記しましたが、目的を考えるなかに、自身の幸福の追求みならず他者へ思いを馳せることを忘れないこと。価値とは有限であり、他方から頂戴するものという発想でなく、無限に生み出すことが出来るもの、いや無限に生み出すための創意工夫こそが経営の要諦と言えるのかもしれませんね。

                              講談社 2024年1月20日第1刷発行

2024- 2-11 Vol.556
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【概要】

 パタゴニア(パタゴニア社)
 アウトドア用品にご関心のある方なら、誰もがご存じかもしれませんね。
 1970年に米国で創業されたアウトドア用衣料品メーカーであり、創業者自らが使用するクライミング用品を開発したことが創業のきっかけとなっています。

 そのロゴマークは、アルゼンチン南部パタゴニア地方にあるフィッツ・ロイ山をモチーフにしたもの。現在扱っているものは、クライミング用以外に、スキー、スノーボード、サーフィン、フライフィッシングなど多岐に渡っています。

 2017年に刊行された 本書著者でもある創業者のイヴォン・シュイナード氏による書籍「社員をサーフィンに行かせよう パタゴニア経営のすべて」は、社員の働き易さを重視する同社の福利厚生制度の手厚さなど、そのユニークな経営が話題を集めましたが、実は同書で一番重きが置かれていたのは環境問題に関する記述でした。
 
 地球環境を保護しつつ、企業や非営利組織は今後、どのような理念を抱き、どのように事業活動を行えばいいのか。創業から50年を経て自社の沿革を振り返りつつ、自らの考えや行動指針などを明らかにしたのが本書です。実は10年前に刊行された底本があり、写真のフルカラー化や内容の追記が行われています。 

【構成】

 全7章で構成された本書。本書の半分程度を割いた第2章で、同社の沿革や経営の特徴を紹介。第3章は、オーナー、株主、社員、顧客などと同社が、利害関係者に対し負っている責任を明確化し、その責任を果たすための具体的行動へと内容が展開されています。巻末には、第3章の内容を細かくチェックリスト化したものも掲載されており、企業の負う「責任」についての深い考察の数々が、本書の要諦と言えそうです。

【所感】

 豊富なカラー写真の掲載写真も相まって、一見手に取りやすい本書ですが、内容はずっしりと重く、ビジネス書というよりも、哲学書を読んでいるような印象を覚えます。

 創業時に製造、販売していた金属製のクライミング用具が、環境に負荷を与えていると気付くや、直ちに代替の材料を探すなど、当初から環境保護を意識した経営を実践する点に驚かされます。
 より大きな利益の確保を狙い、衣料品分野に進出も、サプライチェーンからの搾取に留意すると共に、常に環境に易しい素材を探したり、リサイクルを意識した製造にこだわるなど、並みのアパレルメーカーとは一線を画す、その経営姿勢に頭が下がります。

 利益の一部で、積極的に環境保護団体等を支援。マーケティングなど過度の販促活動に利益を再投資するのでなく、自社の理念を利害関係者に、しっかり理解してもらい、着実な支援層を確保することで、安定した経営を志す、同社の仕組みが良く分かります。
 
 2022年に、創業家はファミリーがもつ同社株式を、財団へ拠出し、経営をより開かれたものにシフト。近年の同社理念である「私たちは、故郷である地球を救うためのビジネスを営む」に照らせば、同社株主は、地球という究極の結論になるのかもしれませんね。

 個人的には、まずはパタゴニアの経営全般の理解ということであれば、巻末チェックリストを参照し、関心ある項目から本文に当たる方法をお勧めします。チェックリストを俯瞰するだけでも、いかにパタゴニア社がユニークな経営を実践しているかが、よく分かると思います。


                         ダイヤモンド社 2024年1月30日 第1刷発行

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【概要】

 本書タイトルにあるテックラッシュ(techlash)とは、技術(tech)と反発(backlash)が合わさって出来た造語で、Amazonなど大手テック企業に対し、一般大衆が抱く反発感情を指す言葉だそうです。

 テック企業の提供する製品やサービスは、もはやインフラと化しており、様々な情報へ簡単にアクセスをするなど、我々はその利便性を享受しています。

 その一方で、プライバシー侵害のリスクや、フェイクニュースの拡散など、その弊害に脅威を感じる場面も増えてきました。その蓄積が、テック企業への不信感へ繋がり、テックラッシュという言葉が誕生するきっかけとなったようです。

 さてそんなタイトルの付された本書。著者は経済産業省の官僚から、アマゾンジャパンに転じ、15年に渡り公共政策チームの日本の責任者を務めた渡辺弘美氏。
 アマゾンジャパンが、日本でも著しく成長発展を遂げた時期に、ロビイング活動を通じ、日本政府と対峙してきた氏が、日本の財政官の弱点や、外資にあって国内企業には圧倒的に欠けている規制緩和への挑み方などを考察しています。Amazon研究の書籍は、数多く出版されていますが、あまり知られることがなかったロビイング活動の実態などを紹介した少し毛色の変わった1冊となっています。

【構成】

 全6章で構成されています。渡辺氏入社からの同社の様子を時系列で記すようなことはなく、第2章~第4章で、ロビイング活動の概要、Amazonにおけるロビイング活動の思考法、政府規制へ対峙する際の学や戦術などを紹介。第5章~第6章では官民合わせ日本が抱える弱点につき整理、課題提起をし結んでいます。

【所感】

 本書の要諦は、「岩盤を打ち砕く戦術と哲学」と称された第4章にあり、本書の半分近いボリュームを占めています。ここでは主として著者が関与した8つの事例(例えば置き配の社会的受容など)を紹介しながら、個々のテーマにつき、どう政府と折り合いをつけ妥協点を見出してきたのかを解説しています。

 政府との折衝を行うのは、当然個々のアマゾニアン(アマゾン社員)となりますが、各人が独自のノウハウやスキルを発揮し、役割を担っているのではなく、そこには共通する行動指針があります。
 それがAmazon「リーダーシップ・プリンシプル」 https://www.aboutamazon.jp/about-us/leadership-principles 

 本書内唯一の図表として掲載された同指針と照らしつつ、各事例が解説されています。
このAmazon「リーダーシップ・プリンシプル」は、極めて普遍的な内容であり、企業や人を問わず通用するものです。著者がこれを紐解いた背景には、本書を単なるAmazonでの事例紹介に留めるのでなく、様々な企業が、政府当局や規制当局と対峙する際の参考としてほしいとの思いがあるように感じました。

 公共政策、特にロビイング活動と聞くと、日本では政界への裏工作的な印象を抱きがちですが、外資企業にとっては、これは極めて重要な経営戦略のうちの一つ。ルール主導する立ち位置を得ることが企業浮沈の鍵を握ることを熟知しており、日本企業もこのあたりのしたたかさを見習い、一定の経営資源を投下する意識が必要な点を指摘、他にも外資企業から学ぶべき、観点をいくつか紹介。また元官僚として、自身が民間企業に転じた経験を踏まえつつ、欧米のテック企業の後塵を拝す日本企業は、今後どこに勝機を見出せばよいのか、日本政府への意見と提言を記し、結んでいます。


                           中央公論新社 2024年1月10日 初版発行

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