IMG_7184   エンジェル投資家にて、京大で客員准教授として教鞭をとる著者による戦略論。 残念ながら、書下ろし本ではありません。
    各媒体で既出の記事を、テーマごとに再編集した内容となっており、ビジネス市場、労働市場、情報社会、教育、政治といったジャンルから24のテーマを基に解説が加えられています。

  著者は、そんな本書を「時事評論」の形をとった「戦略的思考」を磨くケースブックであるとしています。
 
  多岐なテーマを取り上げています。

  AKB48、鉄道会社、五輪招致、スター俳優、RPG、北海道・・・・・etc
再編集ゆえ一見脈絡のないテーマが続く点は否めませんが、我々が普段良く見聞きする事例を取り上げており親しみやすく、また各テーマごとのまとめが付されていますので、非常に読み易い体裁となっています。

  読み手により琴線に触れる部分は異なるかと思いますが、個人的に印象深かったのは、オリンピックのメダルに関するテーマでした。

  ロンドンオリンピックで、日本のメダル総数は過去最多の38個となりましたが、そこには周到な戦略があったそうです。
 
  どんな競技種目ならメダルがとり易いのかを分析する (陸上や水泳を狙う、マイナーな競技を狙う)
  適切な設備投資の実施を行う (ナショナルトレーニングセンターの建設)
    コーチ陣など舞台裏の人材に投資をする (マルチサポートハウス、共同コーチ化)
 
  メダルといえば、とかく個人の才能や努力に目が向きがちですが、組織だっての管理と支援は不可欠。
さほど関心をもって見たことのなかったオリンピックですが、その背景にある隠された戦略を知ることで、また違う見方や捉え方が出来た点で非常に参考となったテーマでした。

  著者は「戦略」とは弱者のためのツールなのだと語ります。
同じ戦い方で正面衝突すれば、もともと強い者が勝ってしまいます。そのためには戦いのルール自体を変更したり、攻守を逆転したりするなど、大胆な方向転換の模索をすることは不可欠なのだと説きます。
また日本という国は、初期に成功を収めても、戦略がないため最終的には失敗をしてしまうのだとも戒めます、
 
 我々ビジネスパーソンにとって重要なことは、日常的に身の回りのことを「戦略的思考」で考える習慣をもつこと。
そして理論や手法を学ぶだけでなく何度も実戦の場に出て、その成否を検証するプロセスを何度も経験することが重要なのだと結んでおり、その主張にはまったく異論のないところです。

  本書は、「戦略的思考」を身に着けるための具体的なツールや手法を教えてくれるわけではありません。
また取り上げたケースにつき、著者の解説が全てではありませんし、また著者もそれは意図していないことと思います。
情報過多な世の中ゆえ、つい他者の意見を何となく受け入れ、分かった気になりがちな昨今ですが、一つでも二つでも自身の頭で深く洞察してみることの必要性を改めて気づかせてくれた本書でした。

  新書で価格もお手頃、価格以上の価値ある一冊ではないでしょうか。
  

                                                                                                                                      2016- 1- 9 VOL.133