IMG_7329  小倉昌男氏
  郵便以外の我が国最初の物流インフラである「宅急便」創設者にして、官庁の規制と闘い、行政訴訟も辞さなかった闘士。
ヤマト運輸退任後は、私財を投げ打って福祉財団を設立し障がい者の自立支援に尽力をされました。
  名経営者の誉れ高く、氏が生前に初めて記した「小倉昌夫 経営学」は刊行から15年以上経った現在でも、高い評価を受けています。
  IMG_7328
  私も同書を持っていますが、「サクセスストーリーを書く気はない。乏しい頭で私はどう考えたか、それだけを正直に書くつもりである」 というまえがきではじまる同書。私情を控え自身の経営を理路整然と語るその内容に深く感銘を受けた覚えがあります。
  


    さて今回ご紹介させていくのは、そんな小倉昌男氏の評伝ですが、巷にあるヤマト運輸や小倉昌男氏に関する書籍とは、いささか趣向が違っています。

  ジャーナリストである著者は、これら多くの関連書籍を読んだうえで、3つの疑問を持ちます。
 
  ①ほとんどの私財(1993年/時価総額24億円の自社株)を投じて、福祉財団を設立したその理由
  ②外部からの高い評価と自身の控えめな評価のギャップがあまりにもありすぎる小倉氏の人物評
  ③小倉氏の最晩年の行動 (2005年7月/米国で死去)

  そんな疑問を解明することで、我々が今だ知ることのなかった小倉昌男氏の見えざる人物像に迫ったのが本書です。
 
    さてどんな内容なのでしょうか。
ノンフィクションですので、仔細は明かしませんが、キーワードは家族。
特に妻と長女の存在が小倉氏に多大な影響を与えています。
苦難の末、宅急便事業が軌道に乗り始めた頃、実は氏の家庭は崩壊寸前だったそうです。明晰な頭脳とその論理性。卓越した経営手腕を発揮しながらも、家庭内ではなす術もない日々。
また妻なき後、その孤独な晩年を支えたある女性の存在・・・・。

 小倉昌男氏の知られざる側面が次々と明らかにされます。しかしそこに何のスキャンダラスさも感じないのは、真摯に小倉昌男氏の生きざまを追い尊敬の念をもって記した著者の力量ゆえではないかと思います。

  さて今回個人的に一番印象に残ったのは、こういった小倉氏の知られざる素顔よりも、宅急便誕生の逸話でした。
小倉氏に宅急便発案のヒントを与えたのは実は佐川急便だったそうです。
路線免許があろうがなかろうが、荷主の依頼があれば何でも運んでいた佐川急便。
褒められたものではありませんが、顧客ニーズを掴んでいたのも事実。
  小倉氏の凄さはそれを合法的にやろうとし、正攻法で行政に向かっていったその姿勢。そのことは皆さまの多くがご存じの通りです。

  ノンフィクション物で、厳密にはビジネス書のカテゴリーには当てはまらないのかもしれませんが、その丹念な取材ぶりと、衝撃的ともいえる事実を丁寧に扱い、まとめ上げた力作。小学館のノンフィクション大賞で選考委員が全員満点をつけたのも納得の1冊でした。

                                                                                                                                  2016- 2- 6 VOL.137