2016-10- 1 VOL.171IMG_8983

【概要】

  「いままでにない新しい製品やサービス、事業を作り出したい。」
おおよそビジネスに従事している方で、そのことを考えたことがない方は皆無ではないでしょか。

   しかしながら市場が成熟し、一定の技術進化を果たしてしまうと、それ以上の伸びしろはなく、成果も上がらなっていくという事例は、枚挙にいとまがないところです。
 
  市場の創造に限らず、ビジネスの分野で課題解決といえば、既知の問題の枠組みの中で、定量情報を分析、分解して優先順位をつけて選択するという「分析的アプローチ」が一般的ですが、本書が提言するのは、 これとは真逆ともいえる「機会発見アプローチ」。

  枠組みの外からの視点で、定性情報を集め、結合をすることで、新しい価値を生み出す方法を解説しています。

   著者である岩嵜博論氏は博報堂イノベーションセンターのディレクター。
ご自身のビジネス経験に、社会学で用いられるフィールドワーク手法や、人間中心に発想するデザインシンキングの手法を交え体系化をされたのが本書です。

【所感】
 
  「機会発見アプローチ」は ①課題リフレーミング(課題解決に対する初期視点を導出) ②定性調査(定性情報の収集) ③情報の共有と整理(定性情報をチームで共有・整理する) ④機会フレーミング(定性情報の構造化) ⑤機会コミュニケーション(ステークホルダーから機会に対する共感と賛同を得る)という5つのステップで構成されています。

  本書では、この5つのステップに基づき、微に入り細に入り、その方法を解説しています。
分析手法の図示化が豊富で分かり易いことに加え、実際に使用をするフォーマット類も紹介されていること。
何より全体の構成、筋立てがしっかりしており、帯書で、三宅秀道氏が寄せている「完成された技術書」というのもうなずける内容でした。

   本書は個人のビジネススキルを高めるというよりも、あくまでチームビルディングにより成果を出す方法を提唱しているものです。
  イノベーションは、ごく限られた人間が偶発的に起こすものではなく、きちんとしたアプローチを踏むことで、その発生と成功確率を高めることが出来るのではないかというのが、著者の一番の思いではないのかと個人的には理解をしました。
 
  惜しむらくは、ケーススタディの記載がないことでしょうか。当然個々のチャートや、フォーマットには具体例が記されていますが、一貫した内容ではありません。一つの事例に基づき、上記ステップによる具体的な解説があれば、より理解は深まるように感じましたので、「実践編」のような体裁の続編を是非期待したいところです。