IMG_98212017- 2- 5 VOL.189

【概要】
 
 イスラエルと聞いてみなさんどんな印象を持たれるでしょうか。
第二次大戦後にユダヤ人たちが建国。しかしその建国の経緯にゆえに、周辺国家との武力衝突の絶えない中東の国。
  最近では、米国のトランプ大統領が、米国大使館を国際法では正式な首都として認められていないエルサレムに移す計画を打ち出し、物議を醸しだしたことも記憶に新しいところです。

 人口、約860万人(2016年)。四国と同程度の国土しか持たない小国ですが、実は年間800~1,000ものスタートアップ(ベンチャー企業)が設立されているそうです。またグローバル企業のR&D(研究開発)拠点が、300以上も置かれており、欧米諸国からは「中東のシリコンバレー」と呼ばれ、注目を集めています。

  日本からおよそ9,000km。直行便もない同国へ100回以上も足を運んだ著者が、そんな知られざる「イノベーション大国」イスラエルの実像に迫ったのが本書です。
  
 
【所感】

  多数のスタートアップを輩出できるのも、グローバル企業がこぞって同国に進出をするのも、まずは優れた人材がいるからこそ。個人的には、その人材育成の仕組みに一番関心を持ちました。

  不安定な環境にあり、かつて迫害された歴史もあることから、同国は、国境を越え持ち運べる「頭脳=知識」に投資をする教育熱心な国家でもあります。そしてその教育で重視しているのは「現在に適応すること」。
 10歳前後から始まるプログラミング教育。12歳からのソフトウェア開発やサイバーセキリュティ教育を経て、高校卒業時までに、世界で渡り合えるレベルの人材が誕生します。当然幼少期から英語教育が行き届いていることは言うまでもありません。
 
  高校卒業後は、男性3年、女性2年の徴兵があり、軍の先端のノウハウを学ぶとともに、チームで動く重要性も徹底的に叩き込まれます。そして兵役を終える22~23歳頃には、起業可能な世界レベルの技術力とマネジメント力を備えた人材が輩出される仕組みとなっています。
 
  国土の半分は砂漠。中東であって産油国でない同国が外貨獲得のため目指したのは、付加価値の高い産業を生み出すこと。
  1970年代後半以降、同国からシリコンバレーへ行く人材が急増します。1990年代、国の後押しで多数のベンチャーキャピタル産業が立ち上がる中、そんな人材たちが帰国をはじめます。また1991年のソ連崩壊時には、100万人のユダヤ系ロシア人を受け入れます。その内10万人はいわゆる高度技術者。多数の優秀な人材の吸収によって、同国は徐々に「ハイテク立国」というポジションを築いていきます。

  他にも本書では、スタートアップを育むエコシステム(起業家、投資家、自治体、大学、大企業、メンター等のかかわる仕組)、イスラエル起業家の特徴、着目されている現地企業とその技術、グローバル企業や日本企業の進出状況にも触れ、イスラエルビジネスの現状を分かり易く伝えています。

  具体的な法制度や細かな商慣習、生活環境といったところまで、踏み込んいるわけではありませんので、入門書と呼ぶにも少々 物足りない部分はあるかもしれません。

  ただ専門の研究家ではなく、徒手空拳で現地ネットワークを築き、日本企業と現地企業のアライアンス事業を展開するところまでビジネスを拡大してきた著者ゆえに、現場目線で記された本書は、ダイナミズム溢れるイスラエルビジネスの魅力を余すところなく伝えており、一読の価値ある内容となっています。