2017- 2-26 VOL.192IMG_9898

   ビジネス書のカテゴリーから外れてしまうかもしれませんが、今週はこんな一冊をご紹介させていただきます。

【概要】

   5年ほど前に世間を騒がせた「オリンパス事件」。
財テク失敗で生じた巨額の損失を10年以上にわたり「飛ばし」という行為で隠し続けた同社。
  最終的には、2007年、2008年の二期にわたり、1,100億円もの利益上乗せをした粉飾決算を作成し提出。
金融証券取引法に違反した疑いで、当時の取締役を含め7名もの逮捕者を出した事件でした。

   本書著者の横尾氏は、その逮捕者の中の一人。
粉飾決算の指南役と言われたコンサルティング会社の代表でした。
実は同氏はかつて野村證券に在職。将来を嘱望された辣腕営業マン。
  「コミッション亡者」と揶揄されながらも、多額の手数料収入を野村證券にもたらせた人物でもありました。

  被告人となった同氏は、2015年7月に懲役4年の実刑判決を受けます。二審でも有罪判決を受け、現在は最高裁に上告をしています。

  そんな著者による本書。
「オリンパス事件」について言及されているのは、もちろんですが、過半は自身の野村證券での日々を振り返る内容となっています。 ブラックマンデー、バブル景気、損失補填、総会屋利益供与 日本経済の変遷を辿りつつ描かれた本書。
 ゼロイチ国債、ゼロクーポン債など登場する特殊な金融商品や、実名で登場する個人には注釈をつけており、金融の専門知識のない方でも読み易い構成となっています。

【所感】

  京都大学を卒業。金融機関とは言え、銀行などに比べれば「株屋」と称され、蔑まされていた時代に入社。
ノルマ證券と揶揄された強烈な営業体質。パワハラなど朝飯前で、退職者は後を絶たない。
そんな中で、日中は飛び込み営業、夜は3時間にもわたる営業電話。キーマンに会うためなら不意打ちも厭わない。そんな努力で徐々に頭角を現す著者。

   地頭のいい人なんでしょうね。社の命ずる商品を単に力技で売り込む営業マンで終わらず、自身で仮設を立てスキームを仕込むなど、様々な仕掛けを講じていきます。上司や同僚に「コミッション亡者」と呼ばれても、結果を出す人間が引き立てられる社風が同氏にはあっていたのかもしれません。
  金沢支店でスタートを切った著者ですが、ほどなく本書タイトルにもなっている事業法人部へ異動。エリートが集まる出世コースですが、ここでも独自のセンスで結果を出していきます。

  顧客を顧客とも思わない扱い。顧客を嵌めてでも商品を売って一人前。売買の繰り返しで、手数料を積み上げる不埒な行為。時代も時代とは言え、本書を読まれた方は、証券業界のありように不快感を覚え辟易するかもしれません。

  ただ個人的に、これは昔の証券業界特有のビジネス慣行に過ぎないとは言い切れず、たとえ時代や業界は違えど、新しい顧客をつかむ。実績を上げるといったプロセスの中では不可欠な要素と感じ、多くのビジネスマンも示唆を得る点は多いのではないかと感じました。

  さて将来を嘱望された、そんな著者がなぜ「オリンパス事件」に巻き込まれていったのでしょうか。

  実は著者は、野村證券時代にデータベースマーケティングに出会います。損失補填、利益供与事件で、その評判は地に落ちた証券会社。その旧態然とした営業体質を変える一助になることを確信。しかし社では思いかなわず同社を去ります。  
  独立した著者はコンサルティング会社を興し、データベースマーケティングを基軸に活動を始めます。
奇しくも当時、このデータベースマーケティングで先行していたのはオリンパス。
実は両者の接点は、投資指南ではなく、このデータベースマーケティングの活用を巡ってでした。しかしかつて野村證券時代に同社の損失補填で成果を出したことがあった著者は、会社の別の思惑に取り込まれていきます。

  真実は分かりませんが、本書を読む限り、個人的な印象は、豊富な金融知識やノウハウを持ちつつも、野村證券という後ろ盾を失くした著者がオリンパス社に翻弄され、結果としてうまく利用されてしまったこと。
  巻末で著者も「もし野村證券をやめなければ」と考えることは、今でも何度もあると語っており、自身も感ずるところがあるのかもしれません。

   野村證券時代の華々しさと、独立後の暗転。ビジネスマンの栄光と悲哀の両方を味わった著者が、一縷の望みを託している最高裁。果たしてその行方はいかに?
一人のビジネスマンの物語としても、バブル期以降の日本の経済史としても興味深い一冊でした。