2017- 4- 9 VOL.198IMG_0121

【概要】

   カシオ計算機㈱
若い人なら、腕時計G-SHOCKやデジタルカメラ。年輩の方なら「♬~答え一発~」のCMでお馴染だった電卓のカシオミニ。誰でも一度は同社の製品に触れたことがあるのではないでしょうか。

  戦後、町工場から出発し連結売上3,500億円超の上場企業へ。
同社躍進の原動力となったのは、4人の個性的な兄弟の存在。
本書は同社設立60年にあたる昨年、読売新聞で30回にわたり連載された記事に大幅加筆をしたもの。
  4兄弟のうち、2名はご健在。そのお一人である四男の幸雄氏へのインタビューをベースに構成されています。

  同連載記事と書籍化につき、聞き手の佐々木氏はその理由をこんな風に記しています。
   円高、新興国の追い上げもあり、競争力を失ってしまった日本の製造業。
それでもなお日本の技術水準は高いものがあり、「ものづくりの魂」こそ日本の宝である。
そんな「ものづくり」の原点に迫ることで、ものづくり復活への道を探り、日本経済の次の成長のヒントを探りたい。そのためには一から「ものづくり」企業を育てた創業者の話がどうしても聞きたい。 
  すでに有力な「ものづくり」企業創業者の大半が鬼籍入りをしてしまっている中、健在される数少ない創業者の一人が樫尾幸雄氏。

  小さな金属加工の下請工場からスタートし、数々のユニークな製品を産み出してきた同社の60年間が生き生きと描かれています。
 
【所感】

  金属加工技術で、会社の創成期を支えた長男、天才肌で発明家であった次男、営業や販路拡大に長けた三男。次男のアイディアを図面化し実際に製品化をした四男(本書著者)。

  日本初のリレー(継電器)を用いた計算機で成功を収めるも、技術革新への対応遅れで積み上げた在庫の山。
倒産の危機を救った電卓開発。デジタル技術を用い参入した時計産業では後にG-SHOCKという一大ブランドを生み出します。他にも電子楽器への参入や、日本初の液晶モニター付きデジタルカメラ開発 etc。

  電卓では文具店。時計では家電量販店や百貨店など、従来にない販路を拡大したり、一世を風靡したテレビCMなど、ユニークな販促活動。

  個性の違う4兄弟が反目しあうことなく、互いに協力しあい家業から企業へと成長していく様は、日本いや世界でも類を見ない経営スタイルだったのかもしれませんね。

  華々しさの一方で、多くの失敗も語られます。創業以来の大赤字決算を招く結果となった携帯電話事業。
デジタルカメラの超薄型化に成功した自社のデバイス技術の外部販売を目すも、最終的には撤退。いくつかの工場閉鎖と社員のリストラも余儀なくされています。

  インタビューをベースにしている構成上、どうしても同社を中心とした社史的な色合いが強く、読み物としては大変面白いのですが、なかなか我々が示唆を得る部分は少ないのが実情です。

  それでも先ほどのデバイス事業からの撤退では、かつて電卓戦争をしたシャープの凋落も交え、デバイス販売とデバイスを用いた製品の両方を自社で行うことの弊害や、どんなに優れた単体部品を作ったところで、すぐに価格競争に巻き込まれていくので、複数の技術を取り込んだ模倣されにくい技術の確立が重要である旨を語っています。
  
  また若手社員に向け、同社の社是「創造」を引き合いに、積み重ねの大切さと創造の楽しさも説いています。
日々の「しつこさ」や「こだわり」、何事もトコトン追及する姿勢。「これでいいのか」と常に自分に問いかける姿勢の大切さは、時代や業種を超え共通のものではないでしょうか。
  そして個性と長所を伸ばすことの大切さにも触れていますが、これは4兄弟がお互いに自分にない個性と長所を持ち尊敬しあうことで、成功した経験に裏付けられたものなのでしょうね。

                                              中央公論新社  2017年3月25日 初版