2017- 5-28 VOL.205IMG_0452

【概要】

   バルミューダ株式会社  https://www.balmuda.com/jp/  
   独特の製品で知られる家電ベンチャーです。広く認知されるきっかけとなった扇風機「グリーンファン」や、おいしくパンが焼けると評判のトースターなど既存の家電メーカーとは一味違う製品ラインナップが光ります。
 
  実は丁度2年前に、同社のユニークな製品デザインや経営について取り上げた書籍が出版されており、本ブログでも紹介させていただいたことがあります。
http://blog.livedoor.jp/kawazuisamu/archives/2015-05-16.html


  同書は日経デザインの編集者によるものでしたが、本書は同社代表の寺尾氏自らが筆をとった1冊。
  「自身は詩人か作家になるものだ」と考えていたという同氏が、独特の語り口で思いの丈を記しています。 

【所感】

  11章からなる本書。1章~7章は、創業までの自身の半生について、8章以降は創業からグリーンファンを世に出すまでについてが語られています。
同社の経営そのものに関心がある方は8章から読み始めても、良いかと思いますが、その前段の著者の半生にも非常に興味深いものがあります。

  夫婦各々の価値観が色濃く反映された子育ても、両親は離婚。何故かハワイで溺死してしまった母親。自身は高校を中退しスペイン、イタリア、フランスを放浪。帰国後はミューシシャンを志し、首尾よくデビューするも鳴かず飛ばず10年で断念。

 何を成すべきか?自身を探しあぐねる著者が辿り着いたのはものづくり。
ミュージシャン時代のファンであり、当時インテリアデザインの学校に通っていた奥様の影響でした。
そしてそんな彼の琴線に触れた3社の存在。アップル、ヴァージン、パタゴニア。

   この3社の運営は、まるでバンドのやり方そのものであり、またアップルとパタゴニアが創り出す製品は、芸術品とも呼べる気品を持っているのだと著者は語ります。

  彼の凄さはそこからの行動。ものづくりの現場を知るために、町工場などあらゆる加工所をいきなり見学し始めます。相手にされないと気づくや、今度は独学で図面を描き、部品を作ってもらうため東奔西走。

  「お金ないんでしょ。だったら、ここにある機械を使って、自分で作りなよ。」 とある町工場の経営者の一言が大きく道を開いていきます。

  いやいや~ 冷静に考えれば非常識すぎるし無茶でしょう。読み手のそんな思いを裏切るように、突き進む著者。やがて彼はグリーンファンという画期的な製品を産み出しますが、販売可能な製品化をするお金を持たず。
しかし溢れんばかりの彼の情熱が、部品供給をお願いしていた企業の経営者を動かし、不可能を可能へと変えていきます。 その様子は、まるでドラマか映画のワンシーンのようにはっきりと映像が目に浮かぶようでした。
 
  誇大妄想を抱いた男の荒唐無稽な半生を描いた1冊。そう書いてしまうのは簡単ですが、生い立ちや金銭面など、何ら後ろ盾を持たずとも、「可能性の存在を完全に信じられること」だけが自身の特技と語り、自ら道を開く著者の生き様は多くの方の心に響くのではないでしょうか。

  尾崎豊、ザ・ブルーハーツ、ブルース・スプリングスティーン 彼らの詞が所々に引用されているのが青臭くも微笑ましく。

                 
                                                  新潮社 2017年4月20日 発行