2017- 6-11 VOL.207IMG_0583

【概要】

  ビジネス書のカテゴリーにあてはまるのか?  少し悩むところはありますが、今週はこんな異色の一冊をご紹介させていただきます。

  防衛装備庁技術戦略部に在籍する著者。防衛技術研究に係わる同氏が常々抱いていたのは、「戦略を破壊するものは、何か」という疑問。

 「戦略」と聞いて、皆さまはどんな印象を持たれるでしょうか?
デジタル大辞泉によれば、「戦略」とは ①戦争に勝つための総合的・長期的な計略 ②組織などを運営していくについて、将来を見通しての方策とあります。
   いずれにしましても、「戦略」とは敵やライバルに打ち勝つために、いかに自らの優位性を確保するか叡智を振り絞ることと言えるのではないでしょうか。
  著者は「戦略」を理解する鍵は「非対称性」にあると説きます。非対称とは対称でないこと。つまりモノや条件が当事者間で対等でないことを言います。優れた「戦略」とはこの非対称性を最大限に活用することであり、この非対称性を生み出しているのが「技術」。

  本書は、過去の戦争を紐解きながら、大きく戦局を変えたと言われる著名な戦いを取り上げ、「技術」というフィルターを通じそれらの戦いを検証してみることから、今を生きる私たちにとって有益な教訓を得ることを目し記されています。

【所感】

    5章からなる本書。中でも中心となるのは2章~4章。第一次世界大戦~第二次世界大戦にかけてのヨーロッパを中心に、著名な戦いを順次紹介しています。 戦いの概略と勝者が生まれた背景。そしてキーとなった「技術」を記した後で【影響と教訓】というまとめをしています。
  
   当時の世界大戦についてあまり関心のない方には、具体的な戦いの名称を聞いてもあまりイメージが湧かないかもしれませんが、空母、航空機、レーダー、爆撃機、爆撃照準器、潜水艦、暗号機、洗車、対空砲、信管、ロケット、弾道ミサイルなどの武器の名称くらいなら、どこかで聞かれたことがあるのではないでしょうか。

    それまで王道とされていた「戦略」が、これらの武器や機器の登場で、いとも簡単にその優位性を失うさまは、とても興味深く、その影響の凄まじさには驚きを禁じ得ません。
また著者の手による【影響と教訓】には

 〇優れた要素技術をシステム化することで大きな成果を生む
 〇将来の可能性を秘めた萌芽技術を見つけ、育てたものが勝つ
 〇一見無関係に見える技術が、システムに大きな進歩をもたらすことがある

 などの表現で、今を生きる我々が「技術」に対峙する際のポイント的なまとめが記されています。

  武器のみならず、個々の戦いを率いた司令官や指揮官、そのマネジメントについても言及されていますが、共通しているのは優れた司令官や指揮官は皆、技術に精通していたということ。短期的な有効性がなくとも、技術開発には鷹揚であり、多少の不完全や粗削りの技術であろうと、その可能性に賭け、進取の精神に富んでいたことが浮かび上がってきます。

   本書は、成功事例ばかりが紹介されていること。先の大戦を中心としつつも、日本や米国の事例はほとんどない等、偏りや物足りない部分を感じないわけでありません。
また、ランチェスター戦略など一部のものについては、若干解説は入っていますが、もう少しビジネス面へのアプローチがあれが、より本書を有効なものにしてくれたと思う点が少し残念ではあります。

  ただ技術を介し戦略を考えるという発想はユニークなものであり、今を生きる我々へ、新しい技術の登場を恐れず、いかに自身の仕事や生活に取り込むかを考える柔軟性を持つべきとの著者のメッセージは大いに伝わっており、本書の目的は十二分に果たされているとは思います。

 最後に余談ですが、本書は先の大戦の貴重な写真が結構豊富に掲載されており、ビジュアル的にも楽しめる体裁であることを書き添えておきます。


                                                                      クロスメディア・パブリッシング 2017年6月1日 初版発行