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【概要】

  ソフトバンクグループ。
1981年、パソコン黎明期にソフトウェア流通業として起業。
その後、出版、展示会、インターネット、ブロードバンドのインフラ、携帯電話と本業を目まぐるしく入れ替えながら、気づけば今や連結売上で8兆9,010億円、純利益で1兆4,263億円(2017年3月末時点)を稼ぎ出す巨大企業へと成長しています。

   そんな同グループを率いるのは、言わずと知れた孫正義氏。
好きか嫌いかと問われれば、好みは分かれることと思いますが、存命する中では間違いなく稀有な「天才経営者」であることは、誰にも異論のないところではないでしょうか。

  さて本書は、そんな孫正義氏の評伝。
著名な経営者であり、関連本、評伝の類はたくさん出版されていますので、今更の感が無いわけではありません。

 たとえ「天才経営者」と言われている彼であっても、決して自身の力だけで現在の地位にまで上り詰めたわけではなく、彼を取り巻く「脇役」たちの活躍があってこそ。
そんな群像劇としての「孫正義」を描いてみたい。そして「孫正義」とはいったいどんな経営者であるのか、改めて明らかにしてみたい。そんな意図で本書を記したのだと日経記者である著者は語っています。

【所感】

  全13章からなる本書。まずは、2016年、3,3兆円もの巨額買収で世間を驚かせた、ARMホールディングスの買収と自身の後継者と任命しつつも袂を分かつこととなったニケシュ・アローラ氏に関するエピソードから本書は始まります。その後は創業からほぼ時系列に整理されています。

  創業も自身の病気に伴う会社分裂の危機、上場、矢継ぎ早のM&A、ブロードバンド事業への進出、ボーダフォンの買収、米スプリント買収と、大きなトピックスごとに1章が割り当てられています。
 
  こう時系列に並べていくと、当時「孫氏が、また突拍子もないことを言い出している」と思った記憶をお持ちの方も多いのではないでしょうか。何が彼をそこまで駆り立ててきたのでしょうか。

  本書内で孫氏は、「自分は決して世の中を大きく変えるような発明をしたわけではない。何か一つだけ平均的な人と比べて自分に特徴的な能力があるとすれば、それはパラダイムシフトの方向性と、その時期を読むことに関心が強いことだ。」
 「目の前の2~3年の小銭を稼ぐようなことに興味はなく、10年後や20年後に花を咲かせるものを、タネの段階で嗅ぎ分ける能力と、それに対してリスクを取りに行く覚悟が、僕は人より強いのだと思う」 と述べています。

  そんな発言を聞くと、世間から見れば一見理解し難い判断の数々も、遠き将来を見据える彼にとっては、全て想定内のことであったのかもしれないと改めて思った次第です。

  そして彼はきっと「人たらし」の才にも長けているのでしょうね。
本書は群像劇の名の通り、トピックスごとに 彼を支え、彼の思いを具現化するために奔走してきた人々が次々と登場をしてきます。
時に強引とも言える手法で、これはという人物を次々と自身の側近に登用し、事業を任せていく。そしてまた皆がその期待に応えていく様は、氏の志を理解し共感出来るからこそ。本書では、しばしば「同志的結合」という言葉が登場しますが、まさにそんな状況を創り出す能力も、彼の類まれなる資質の一つなのかもしれませんね。

 ビジョナリーであること。人たらしであること。それこそが孫正義氏の正体。個人的にはそんな印象を強く抱いた一冊でした。

  あまり知られることのなかったエピソードも多々盛り込まれ、非常に面白い本書ですが、個人的に印象に残ったエピソードを紹介して今週は締めくくりたいと思います。

  一つは孫氏が自身が創業時代からお世話になった恩人10名を今だ大切にし続け、毎年会食をしているということ。孫氏の開発した電子翻訳機を買い上げた、当時のシャープ専務の佐々木正氏。いきなり大型取引を任せてくれた上新電機社長、浄弘博光氏、独占供給を約したソフトメーカーハドソンの工藤兄弟 等。
孫氏の非常に人間臭い部分が端的に表されているエピソードでした。

  そしてもう一つは、ボーダフォン買収の際、躊躇した孫氏の肩を押したのが、ユニクロ社長の柳井氏であったということ。
ソフトバンク社外取締役で、取締役会でも基本的に孫氏の提案には否定的な意見を出すことの多い柳井氏ですが、巨額買収に躊躇する孫氏に「今を逃したら、もう二度と孫さんの言う爆発的な成長をするチャンスは巡ってこない」と放った一言。その後のソフトバンクの成長を見れば、この言葉の重さが際立ちますよね。


  500ページを超えるボリュームある本書ですが、読めば必ずや自身を鼓舞してくれること間違いなしの1冊。
お薦めです。
 


                                  日本経済新聞出版社 2017年6月14日 1版1刷