2017- 7-23 VOL.213IMG_0806

【概要】

   大阪は道頓堀、ナイトクラブの専属バンドのドラマー、トラック運転手等を経てソニー子会社の地方勤務社員としてサラリーマン生活をスタートした著者。
  後にソニー本社へと転籍し43歳で渉外担当の職につきます。担当業務は、国際標準化。

  デンソーの開発したQRコード。ソニーの開発した非接触ICカードフェリカ(JR東日本のSuica)。マイクロソフトの文書フォーマットOOXML。東京電力の超高圧標準化電圧UHV。

  欧米の列強を相手に数々の国際標準化規格を勝ち取ってきた著者が語る交渉の記録とその極意。
 
  非エリートの叩き上げ社員が、厳しいビジネス現場で結果を出し続ける痛快さ。その一方で非エリート社員故に味わう不当とも言える人事への抵抗や、1997年に過去最高益を計上も以降は低迷を続けたソニーの凋落ぶりも併せて描きつつ興味深い1冊に仕上がっています。

【所感】

  5部15章からなる本書。第1部では、著者が国際標準化交渉人となった経緯。標準化規格の概要。2章~4章では先ほど挙げた、QRコードやフェリカなど実際に国際標準化の取得に成功した経緯や成功要因について記されています。

 そして最終章の5章では失敗しない交渉のコツとして、交渉成功の22箇条や交渉手順のフローチャートを紹介しながら交渉のポイントについて整理、統括をしています。

  ややもすれば過度の技術信仰に陥りがちな日本。「良い技術や製品を作っていれば、自ずと市場に受け入れられていくのだ。」もはやそんなことが幻想であることは、現在の日本の家電メーカーの現状を見れば明らかですよね。

  著者も、(国際)標準化の実務では、その技術の理解やプロセスの理解よりも重要なことがあると語っています。それは、「交渉、会議、闘争」とそれに伴うロビー活動。
標準化や知財権は技術をベースにしたルール制定活動であり、人と人との交渉が必要となります。
  高度な交渉力には、人や組織の行動に関する深くて広い知識と経験に加え、社会や文化の違いに関する理解が欠かせないとしています。
  そして交渉とは理詰めで議論するディベートではなく、もっと人間の根幹的な部分、すなわち自分の欲と相手の欲とのぶつかり合いなのだと喝破をしています。

    はたしてそんな交渉力はどうすれば身につくのか。
著者は本を読んでもセミナーを聞いても、そんな力は身につかない。自身が企業や国家の代表として独力で交渉に当たるなどの経験を通ずるしかないのだとしています。それでも我々に一つの示唆として自身の経験則をまとめ提示をしてくれていることは、先ほど紹介させていただいた通りです。

  さて、標準化決定をした機関の上位機関を口説く。競合する国であっても同国内で利害が反する団体を見つけ仲間に引き込む等、深謀遠慮を張り巡らす一連の国際標準化獲得の内容も面白いのですが、個人的には本書の著者自身に非常に関心を覚えました。

  子会社からの叩き上げとはいえ、やはり非凡な人なのでしょう。国際標準化に英語は不可欠とし、独自の勉強法を徹底し、ついには技術翻訳を引き受けるまので実力を身に着けてしまうこと。

    また技術翻訳に際しては、自身で工夫して翻訳ソフトを作り上げ、ついには土日の副業としての翻訳だけで年収10,000千円を稼ぐまでに至ります。
  迷走したソニーゆえ生じた理不尽な降格減給要請には頑として戦い、4度反抗をし自身の交渉力を持って翻させた経験についても語られており、(失礼ながら)無名の一介のサラリーマンとは思えぬしたたかな生き方には尊敬の念を覚えました。
 
   しかし(企業の意識、人材の枯渇から)日本企業が国際標準化を勝ち取ることなど今後はないのだと吐露する著者。それは「いやいや、そんなことはない。これからだって、自分たちだってやれる。」
そんな奮起を若いビジネスマンに促すエールなのだと、個人的には受け止めました。そんな好著。お薦めです。

                                           2017年6月26日 日経BP社 第1版第1刷