IMG_08342017- 7-30 VOL.214

【概要】

 3年程前に、当ブログでも紹介したことのあるデービット・アトキンソン氏。http://blog.livedoor.jp/kawazuisamu/archives/2014-11.html

  同書は、イギリス人アナリストから、日本の文化財修復を生業とする中小企業の代表者に転じた異色の経営者の記した書籍として紹介させていただきました。

    同氏が2015年に上程した「新・観光立国論」は、21世紀の「所得倍増計画」との触れ込みで6万部を超えるベストセラーとなっており、日本の観光業に対する見識の高さが注目を集めています。

  そんな同書の続編ともいえる本書。「新・観光立国論(実践編)」としてさらに踏み込んだ内容の提言を行っています。

  観光大国になる4条件は、「自然・紀行・文化・食」と語る著者。
世界中を見渡しても、この4条件を備えた国は数えるほどしかないそうです。更に日本はそこに「多様性」が加わる稀有な国。観光資源が多様であればあるほど、多様なニーズに応え、よりたくさんの観光客を呼べることは明らか。
 それゆえ日本は観光大国となれる多大なポテンシャルを秘めた国なのだと著者は語ります。 

【所感】

   7章からなる本書。第1章では、元アナリストらしく、豊富な統計やデータを用いながら、日本や世界の観光業界の実態を解説しています。
  観光に関し、海外からそれなりの評価は受けている日本ですが、大切なのは実績だと説く著者。
実際にどれだけの観光客が来日し、どれだけ観光収入があるのか。実績に基づき適切な戦略を練ることが肝要だとし、残る6章で提言を行っています。

 ①欧州からの観光客を増やす。特にドイツ人に着目しドイツ語での発信を増やす。
 ②量を優先した昭和的な「横並びの発想」をやめ、いかに「満足度」を高める施策を行うかに尽力する。
 ③「文化観光」だけでなく「自然観光」に着目する。
 ④情報発信はネイティブにつくってもらい、必ず「So what?テスト」をしてみる。
 ⑤高級ホテルを増やす。
 ⑥様々な産業を観光業化する。

  様々な示唆に富んだ提言の数々ですが、著者が特に主張するのは「自然観光」。
観光立国を目指す上で、一人当たりの単価を上げることは不可欠な要素ですが、その点「自然ツーリズム」は、自ずと滞在日数が長くなりますし、比較的世代を超えて受け入れやすいもの。
  魅力を感じさせるような歴史的建造物が、ことごとく消え失せてしまい街並みの美しさがほとんど残っていない現在の日本でも、その弱点をカバーするだけの魅力が「自然」にはあるのだと説きます。

  そしてその課題解決の鍵は、国立公園整備や、国民休暇村にあるのだとの指摘をしています。
他にも、ただ拝観料を取るだけに終始する文化遺産をもっと開放し積極活用することで、単価を高める提言なども面白いものでした。
  また情報発信についても、観光客目線で「So what?(一体何が伝えたいのか?)」を意識しなければ、独りよがりのトンチンカンな発信となってしまうこと等も興味深い指摘となっています。

    観光産業というと、両行代理店や観光地の宿泊施設、飲食施設や交通機関をつい頭に浮かべがちですが、終章でも挙げているように、これからの日本に必要なのは、あらゆる産業を「観光業化」していくのだという発想の転換。これは、我々全国民、全企業が意識し実践すべき課題なのかもしれませんね。
 

                                            東洋経済新報社 2017年7月20日発行