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  奇しくも二週続けてインバウンド関係書籍となってしまいますが、興味深い内容ですので、是非お付き合い下さいませ。

【概要】

  大分県にある湯平温泉。かつて療養温泉地では「西の横綱」と呼ばれ九州では別府に次ぐ温泉地として非常に栄えた地域だったそうです。
しかし近隣にある湯布院の目覚ましい台頭とは逆行するように、衰退の一途をたどっていきます。

  本書の著者はそんな湯平温泉にある小さな旅館 山城屋http://e-yamashiroya.jp/ の当主。
築50年、客室はわずか7室。料理長がいるわけでもなく、何か際立った特徴があるわけでもありません。

   しかしそんな同館は、世界各国から連日観光客が押し寄せ、客室の稼働率はほぼ100%。世界最大の旅行口コミサイト「トリップアドバイザー」https://www.tripadvisor.jp/Hotel_Review-g1023445-d1674608-Reviews-Yamashiroya-Yufu_Oita_Prefecture_Kyushu_Okinawa.html  の宿泊施設満足度ランキング「日本の旅館部門2017年」で全国第三位に選ばれる等、高い評価を得ています。
  
  なぜそんなことが可能となったのでしょうか?
元信用金庫マンにして、奥様の実家を継いだ著者が語るこの11年間の取組み。小さな家族経営の旅館でも世界を相手にビジネスは出来る。そんな勇気とアイデアに溢れた一冊となっています。

【所感】

  同館が外国人受入を始めたのは、ほんの些細なきっかけでした。
たまたま著者の知人に、韓国の旅行雑誌に九州の温泉地を紹介するコーディネーターを務めてみえる方がいらしたそうです。そこで大分県の温泉地が紹介されることとなりました。

  別府、湯布院に加え、残り一か所の温泉地を探しているとの情報を聞き、著者は湯平温泉も是非にと名乗りをあげます。両温泉地に比べ、規模や知名度が劣るゆえ、さほど期待もしなかった著者ですが、完成した旅行誌の紙面を見て破格の扱いに驚きます。

 下手に開発をされなかったゆえ、残されていた古き良き日本の温泉街の風情。その様子が編集者たちの心を掴んだのでした。 この一件を契機に、同館を訪れる外国人が増え始めます。そして活路を見出した著者は様々な工夫を凝らします。

   〇ホームページを四か国語対応に
  〇ネット予約は、半年~1年先の長期対応
  〇無料Wi-Fiを設置
  〇主要な空港から最寄り駅までの、案内動画を作成
  〇マナーの違いも動画で説明
  〇休憩室には、「ワンピース」や「ドラえもん」の英語版コミックを備え付け etc

  また外国人受入れへシフトすることは副次的な効果を生み出します。
来館者が平準化することで、同館は毎週水木曜日を休館日としています。しかも一般の旅館では書き入れ時である、お盆や正月、GWも休んでしまいます。

   小規模な家族経営の旅館が陥りがちな過重労働から解放されることで、余裕が生まれ、その余裕ある気持ちで来館者へ接することが顧客満足度を高め、さらにリピーターを増やすという好循環を生み出しています。

   仔細は是非本書をお読みいただきたいのですが、トライアンドエラーを繰り返しつつ、徐々に外国人受入れのノウハウを積み重ねていく様、小規模な旅館にもたらされた変化と恩恵。興味深く読ませていただきました。
  
  個人的に印象に残ったのは、外国人受入れは気苦労が多いのではないか?とよく聞かれる問いに対する著者の言葉でした。
  「(正直さほど大きな問題を感じたことはない)むしろお互いにコミュニケーションをとろうと努力するため、より深い関係性が生まれることのほうが多いような気がする。」と。

  「不自由さが、逆に信頼を深める。」
今後、日本が観光立国を目指す上で、非常に示唆に富んだ言葉ではないでしょうか。

                                               あさ出版 2017年7月18日 第1刷