2017- 9- 3 VOL.219IMG_1026

【概要】

    あらゆるモノがインターネットへと接続されていくIot。
調査会社のガートナーによれば2020年にインターネットにつながるモノの数は250億と試算されているそうですが、兆単位を予測する企業もあるそうです。
 またIDCジャパンによれば、2016年日本国内におけるIot関連サービスへのユーザー支出額が5兆270億円に達したとの調査結果が報告されており、今後年間平均17%の成長を遂げるだろうと予測がされています。 

 IoTという大きなパラダイムシフトを迎えている現在、この分野で起業をしたい。あるいは新事業として参入を検討している既存企業の方も多いのではないでしょうか?

 本書の著者である野々上仁氏はサン・マイクロシステムズを経て起業家となった人物。
日本発のスマートウォッチを提供するスタートアップ企業 株式会社ヴェルト http://veldt.jp/ の代表を務めています。
 同社製品は一説によればAppleのApple Watch(iWatch)よりも先に誕生したスマートウォッチとも言われているそうです。

 さてそんな著者の手による本書は、これからIoTの分野で起業を志す方々に向けた指南書。
起案から実際の製品が完成するまでの一連の流れを「IoTジャーニー」と呼ぶ著者が、自身の体験を元に
要所を解説した内容となっています。

【所感】

 15章からなる本書。うち8章が本書の中核ともいうべき内容となっています。
著者が「IoTジャーニー」と呼ぶ一連の流れ、事前準備~ハードウェアビジネスの理解~グランドデザイン~チーム編成~プロジェクト管理~ソフトウェア に関し、自社での取り組みを振り返りつつ時系列で解説されています。ただ本書では製品の完成までを扱っていますので、その後のマーケティング等の取組の紹介は割愛されています。そのあたりを期待される方は少し物足りなさを感じるかもしれません。

 他の章ではIoTの概略や世界の動き。日本の課題。これからIoT起業へ取組む方へのメッセージとなっており200頁程度の体裁ながらIoTについて理解を深められる構成となっています。
 
 創業から製品完成への流れの中で生じる試行錯誤の様子や、フォロワーたちに向けた助言が興味深いのはもちろんですが、個人的には、日本の課題として掲げている下記の2点が気になりました。
 ①IoTテクノロジーの技術者は偏在 ②クラフトマンシップは散在

 つまり日本には既にIoTに関し専門技術を持つ人材は少なくありませんが、ほとんどが大手企業在籍で市場に出てくることがありません。
 そしてモノづくり。いまでも優れた加工技術を持つ中小企業は少なくありませんが、昔の企業城下町に代表されるような集積は非常に減っており、工場が日本各地に点在してしまっていること。
 IoTでのモノづくりはスピードと連携が生命線であり、このあたりの課題解決が急務であると説いています。裏返せばそれだけのポテンシャルを秘めているということでもありますが。

 その中で著者の提言「人的リソースのシェアリングエコノミー化」が興味を引きます。
これは端的に言ってしまえば、社員の兼業や副業を推奨しようというもの。働き方改革の意に沿っていることもありますが、優秀な人材は知的好奇心が旺盛で新しいプロジェクトにも積極的に参加をし知見を積みたがる傾向が強いそうです。
 そういった人材は、ややもすれば他企業に引き抜かれる可能性がないわけではありません。
こういった施策により、優秀な人材を繋ぎ留めつつ、彼らが他所で得た知見を持ち帰ることは雇用元にとって有益なことも多いのではないか?がその根底にはあるようです。

 これいい提言ですよね。企業にすれば自社でコストをかけ、育てた人材ゆえ納得いかない部分もあるかもしれませんが、一考の余地はあるのではないでしょうか?
優秀な人材こそ積極的に外に出すこと。それが我が国全体の競争力を高め、ひいては自社にも必ずその好影響は反映されてくるのではないでしょうか。



                             日経BP社 2017年8月7日 初版第1刷