2017-11- 5  VOL.228IMG_1388

【概要】

 近大(近畿大学)https://www.kindai.ac.jp/
 2014年度入試から4年連続で志願者数日本一。2017年度の受験者数は14万6,000人に達し、この10年で2倍となったそうです。

 意表を突いた広告や、歌手のつんく♂氏や堀江貴文氏などを動員したド派手な入学式や卒業式の映像を目にした方も少なくないかもしれません。
 これまでの大学広報や運営の常識から考えれば、非常識に映るかもしれない数々の施策。

 18歳人口が減少し、今や私立大学の半数が定員割れを起こす中、今後多くの私立大学が淘汰されていくことは想像に難くありません。一部の有名著名校を除けば、学生の確保は死活問題ともいえます。

 関西にあり、失礼ながら私立大学の序列で言えば、「関関同立」よりも下位に位置づけられる同校に、なぜもこんなに多くの志願者が集まるのか。
 近畿日本鉄道から同校に転じ、広報担当となった著者が、そんな同校の取組を明かしたのが本書です。
 
【所感】
 
 民間企業から転じた著者に、大きく立ちはだかったのは二つの壁。

 一つは一般企業で言う顧客となるべきターゲットが18歳と極めて限定されること。
そしてもう一つ。関西で言えば「関関同立」や「産近甲龍」、関東では言えば「MARCH」や「日東駒専」など、根拠なき学校のくくりという壁。

 40~50年前の偏差値を基に、塾や予備校などの受験産業が決めたランク付け。
自身が志望する大学には、どんな教授がいて、どんな研究をしていて、どんな教育の特徴があるのか、あまり考えられることなく、自身の偏差値を勘案し進学先が決められている現実。

 そんな現実を打破するため、著者達は知恵を絞り広報活動に挑みます
 決して奇をてらった広報をするわけではなく、常に伝えるべきことを3つの柱としてまとめているそうです。

 ①近代マグロに代表されるように「実学教育の近代を社会に認知してもらう」こと ②創立90年とはいえ、他の有名大学に比べ歴史が浅いことから「伝統に縛られない大学の姿勢を世界に共感してもらう」こと ③「現状の大学の序列を打破し、フェアな競争環境を創り出し、日本の大学全体のレベルアップを図る」こと だそうです。
 
 なるほど同校の広告アーカイブ http://www.kindai.ac.jp/archives/ を拝見するとインパクトを与えつつも、伝えるべきことはきちんと盛り込んだ、そのスタンスに驚かされます。

 6章からなる本書。同校の取組は、教育機関のみならず多くの一般企業で広報に携わる方、いや広報に限らず自社の魅力をいかに伝えるかに、日々頭を悩ませている方々には非常に参考になる点が多いように思います。

 広報に関する内容以外にも、近代マグロに関し1章を割くなど大変興味深い本書ですが、個人的に一番印象深かったのは、本書の主旨からは外れてしまいますが、著者の生い立ちでした。
 実は著者は近代創設者で初代総長のお孫さんに当たります。3代目理事長は父。4代目理事長は著者の実兄にあたるそうです。子供の時から「長幼の序」を徹底的に叩き込まれた著者。
後に同校に転じた際に父親から「兄をたてろ。そう育てたはずだ」と念を押されたそうです。

 一般企業においても、兄弟姉妹で後継するケースはままありますが、様々な確執を生み経営に悪影響を及ぼすことも少なくありません。そんな中、兄をたて同校を盛り上げるべく奮闘する著者の姿には、事業承継のあるべき姿を教えられたようにも思います。

 少子高齢化含め激変する環境下で、有名著名校へ対峙し、自校の魅力を高め、情報発信を続けようとうする同校の有様を綴った本書は、大手企業に対峙し日々奮闘する、多くの中小企業の経営者の方々にとっても示唆を受けること間違いなしの1冊と言えます。


                          産経新聞出版 平成29年11月3日 第1刷発行