2017-11-19  VOL.230IMG_1596

【概要】
 米国はマサチューセッツ州に本拠を置くスーパーマーケット「マーケット・バスケット」 https://www.mydemoulas.net/

 およそ100年程前、ギリシャからの移民であった現CEOの祖父が創業し、現在70店舗以上を展開しています。 

   本書は、そんな同スーパーマーケットで起こったある事件を追ったドキュメンタリー。
 
 今から3年前。親族の手によって解任されてしまったCEOを復活させるために立ち上がった人々の物語。
 会社の方針に対し、従業員が反旗を翻すという物語は決して珍しいことではありませんが、本件が驚くべきは、従業員だけでなく顧客や取引先までもが、その動きに賛同をしたこと。その数はなんと200万人にも上るそうです。

 米国の経済史上でも類を見ない奇跡の出来事。

 レイオフが当たり前の米国社会にあって、なぜ従業員達は身を挺してまでCEO復活を願ったのか?
なぜ顧客までがその動きに賛同し支持をしたのか? 皆が復活を望んだ同社CEO アーサー・T・デモーラスとは何者なのか?  そしてそんな彼の率いてきた「マーケットバスケット」とはいかなるスーパーマーケットなのか? そんな疑問に迫ったのが本書です。
 
【所感】

 4章からなる本書。3章以降本書の大半は、一連の解任、復活劇を中心に描かれていますが、1章~2章までは、同スーパーマーケットの沿革や経営の特徴について記されています。
    さて舞台となった「マーケットバスケット」とはいかなるスーパーマーケットなのでしょうか。同スーパーマーケットのルーツは、ギリシャから渡ってきた現CEOの祖父夫妻がマサチューセッツ州ローウェルに開業した小さな食料品店にあります。

 ギリシャ系移民が多く住む地域で開業した彼らの店は、週払い給与で働く移民たちのためにツケで商品を販売しながらも品質にはこだわります。そんな夫婦の熱心な働きぶりは地域で有名となり多くの7移民たちに支持をされます。折しも1930年代の世界恐慌の際は、時に貧しい人々には無料で食品を販売するなどした結果、あわや倒産の憂き目を迎えます。

 そんな状況を救ったのは彼らの子供たち。懸命に働き何とか店を維持した後、同事業を両親から買い取り、1952年スーパーマーケットへと業態を転じます。
 その運営ポリシーは「低価格によって消費者の生活水準を引き上げること」素晴らしい接客をして高品質な商品を安く提供することに徹した同スーパーマーケットは、顧客の支持を集め、多店舗展開を実現していきます。

 驚くべきは、当時にして既にPB商品を作っていたことや、特定地域に集中出店するドミナント戦略を実施するなど、現在の小売業では当たり前とされる戦略を50年以上前に実施している点です。

 また店舗には十分に従業員を配置すること。商品陳列は日中に行い顧客と接する機会を多くするなど顧客本位の店舗運営をするのみならず、従業員にも手厚く報います。彼らの名札には在籍年数が記されており、数十年と記された名札をつけた従業員も少なくなく定着率の高さを物語っています。

 そんな同店を襲ったのは、現CEOのいとこである株主たちによる経営への参入。異質の経営である同スーパーマーケットの業績を上げ、高い配当を獲得し将来は他のスーパーマーケットチェーンに売却を画策するなど、株主の権利を最大化しようと画策をし、CEOを更迭・・・・・・.。

 その後の展開は是非本書をお読みいただきたいのですが、現在の「マーケットバスケット」は奇跡的に返り咲いたCEO アーサー・T・デモーラスの下、更に出店を続けながら繁盛を続けているそうです。
 
 この奇跡を可能にした要因は何か。それは同スーパーマーケットの企業文化にあることは間違いなさそうです。
 本書では同スーパーマーケットの企業文化には 「社会への奉仕」「家族意識」「従業員の自主性を重んじる上から下への権限移譲」「模倣より革新を重んじる独自性」という4つの特徴が挙げられています。
 CEO一族によって繰り返し伝え語られてきた「商品より人」との教え、自らがそれを実感する従業員たち。その姿勢を感じる顧客や取引先。年月をかけ生み出された「マーケットバスケット」への大いなる帰属意識と貢献意欲が、今回の奇跡を生んだのかもしれません。

「人々は自分自身よりも大きな何かに貢献していると思えたら、ときに進んで自己犠牲を払おうとするものだ。」
 そんな言葉が本書終章では語られています。企業とは誰のものか? 示唆に富んだ一冊。お薦めです。

                     集英社インターナショナル 2017年11月7日 第1刷発行