2017-12- 3  VOL.232IMG_1651

【概要】

 今週は異色の一冊をご紹介
 260年以上続き安定した社会の中で経済的にもかなり成熟していたとも言われる江戸時代。
 しかしながら大半の武士の生活は貧しく、江戸時代後期には財政破綻の寸前まで追い詰められていた藩も少なくなかったそうです。

 なぜに諸藩の財政はそこまでひっ迫していったのでしょうか?
幕藩体制の下、政権安定をめざし主従関係を固定すべく、幕府は諸藩に継続的な財政負担を強いて弱体化を図ります。

 それがよく知られた「参勤交代」。また築城や治水工事のため行われていた「手伝い普請」。これは諸藩が経費分担して行う大規模な土木工事のことを指します。
 他にも度重なる自然災害も諸藩の財政悪化に拍車をかけたそうです。

    財政健全化を余儀なくされるも、大半の藩は成果を上げられず明治維新を迎えてしまいます。
そんな中にあっても、藩政を改革し財政再建に成功した藩があり、そこには現代でいうCFO(最高額財務責任者)の存在がありました。

 本書は、そんな人物5名の施策に着目をした1冊。
時代背景や社会は違えど、絶望的な財政状況を乗り越えてきた彼らのマネジメントやリーダーシップスタイルに学ぼうというのが本書の目的です。

【所感】

 本書に登場するのは次の5藩と5名。

 〇松代藩真田家の恩田木工 〇米沢藩上杉家の上杉鷹山 〇備中松山藩板倉家の山田方谷 
 〇長州藩毛利家の村田清風 〇薩摩藩島津家の調所広郷

 著名な上杉鷹山を除けば、歴史に明るい方以外、馴染のない名前ばかりなのかもしれませんね。
 
 財政再建となれば、誰もが思いつくのは倹約令と増税ですが、その効果はあまりなく、どの藩も農業などの領内産業の生産性が落ち込み消費は冷え込むという悪循環を招きます。

   閉鎖的な自領域内だけで経済をまわそうとすればひっ迫するのは必須。ならばどうすればよいのか? 先ほど挙げた5名のうち恩田木工以外の4名は、その施策に産業振興を取り入れます。

 輸出立国を目指し、漆や桑、楮を100万本ずつ植樹させた上杉鷹山。
 葉タバコや「備中鍬」と呼ばれる鉄製品を江戸で販売するルートを開いた山田方谷。 
 市場の自由化、水産加工のブランド化を図ったほか、藩営の商社とも言える「越荷方」を設置した村田清風。
  黒糖生産で利益をもたらすも、偽金づくりや密貿易に手を染めたと言われる調所広郷。

 また恩田木工や上杉鷹山は「藩校」を設置し、次代を担う人材の育成にも力をいれていた様子がうかがえます。

 より細かな施策の内容や、各人のパーソナリティについては、是非本書をご参照いただきたいと思いますが、我々は本書から何を学べるのでしょうか。

 当時の藩の数は300前後、現在の市町村の数は1,700前後であり、その大半の財政は厳しい状況下にあります。単純比較は出来ませんが、地域の活性化が不可欠であることは今も昔も変わりません。
 そしていつの世も、漠然とした危機に対して人の対処は遅く、変革に際しては人は誰でも既得権を守り変化を望まないということ。

 本書でも、改革に対する凄まじいまでの抵抗が、どのケースでもみられます。
それでも人を動かすためには、分かり易い成果を少しづつでも見せること。そして施政者の姿勢と腹の座り具合に尽きるのではないか。個人的にはそんな感想を持ちました。

 いかに時代を経ようとも、藩であれ地方公務員法であれ、どんな組織体でも、属する人を動かす部分に変わりはない。

 そんなまとめでは、少々単純すぎますでしょうか?  着目のユニークさが光る一冊でした。

 
                          
日本実業出版社 2017年12月1日 初版発行