2018-1-21  VOL.239IMG_1922

【概要】

 JNTO(日本政府観光局)の発表によれば、2017年のインバウンド、訪日外国人は28,691千人で、JNTOが1964年に統計を取り始めて以来、最多の人数となったそうです。

 東京オリンピック決定による認知度の向上、東南アジアへのビザ発給緩和、円安傾向の継続、リピーターの増加といった様々な理由があげられるそうです。

 特に着目すべきはリピーター。
最初は団体旅行で来日するも、2回目以降は個人旅行で訪れる外国人の手によるSNS配信や日本紹介サイト増加の影響も少なくないのでしょうね。

 そして彼らの行動も「モノ」から「コト」へと変わってきており、日本人ですらあまり行ったことのない場所が、彼らの手により紹介されることも少なくありません。

 そんな場所の一つに、岐阜県は飛騨古川市があります。
さしたる観光資源もない田舎町に世界80ヵ国から、毎年数千人を集める人気のツアーがあります。

何気ない里山の日常風景が、なぜ外国人の心をとらえるのか?

 そこには一人の仕掛け人の姿がありました。

【所感】

 本書は、株式会社美ら地球 https://www.chura-boshi.com/ を主宰し、飛騨古川市でSATOYAMA EXPERIENCE というツアー事業などを展開する著者の手による1冊。
 
 大学卒業後、外資系コンサルティング会社に勤務。退職後は1年半にわたり世界を回ります。
帰国後、日本の田舎に住むことを目し飛騨古川市を訪ねることから、本書は始まります。

 移住を望むも地方の排他性ゆえ、住まいを確保するにも一苦労。
縁あって飛騨古川市の観光アドバイザーに就任、生活基盤を確立しつつも、市長の交代で市政方針が変わるや失職。やむなく自身でツアーを立ち上げ、ツーリズム事業を始めます。

 高山、下呂、白川と周辺の観光名所を訪れる外国人を、直接「ポン引き」営業。ツアー参加者からの口コミで、徐々に認知をされ事業として軌道に乗り始めます。

 事業者としての目線、生活者としての目線。他所から移り住んできた者ゆえ感じる苦労と、様々な気づきを記しつつ、ツーリズムをいかに地域創生の経営資源として活用していくのかの提言をまとめた体裁となっています。

 およそ10年前、今ほどインバウンドが声高々に語られる前から、ツーリズム事業に取り組んできた著者ゆえ、示唆に富んだ提言が多く綴られていますが、ツーリズム事業に限らず地域創生に一番大切なことは「やり続けること」との主張が、一番印象に残るものでした。

 声高々に始まれど、予算や仕組の不足で頓挫していく地域創生事業は少なくないそうです。
持続のために必要なことは、地域の望ましい将来像を得ようとする「意志の総和」だと著者は語ります。
 一人の強烈なリーダーがその総和の大半を持ってもよいが、少しづつでも多くの人の意志を集めること。大きい地域であれば、より大きな総和が必要であり、地域のサイズにあった総和が得られれば、自ずと必要な手法や人材は調達可能なのだそうです。

 もっともこれは地方創生に限らず、あらゆる事業やプロジェクトについても言えることなのでしょうね。思いの強さの総和こそがあらゆることの原動力。改めてそんなことを感じた一冊でした。


                                新潮社 2018年1月20日 発行