2018-1-28  VOL.240IMG_1954

【概要】

 経営戦略研究で知られる伊丹敬之教授。
経営戦略研究にたずさわること38年。齢70を超えた氏の手による新作は一風変わった経営戦略論です。
 成功する経営戦略ではなく、うまくいかない経営戦略について考察をしてみようと試みた一冊。

 戦略とは企業が組織として市場で事業活動を行うための基本設計図であり、その基本設計を間違えることは、企業に悲惨な結果をもたらします。 

 戦略の失敗には3つのタイプがあると著者は語ります。

 1つ目は環境が事前の想定と大きく違った展開をしてしまい、事前構想としてはうまく作られていた戦略が失敗するタイプ。2つ目は戦略策定の落とし穴にはまり、いい戦略そのものが作れなくなってしまうタイプ。3つ目はいい戦略を策定しながらも、戦略の実行プロセスが歪み失敗をしてしまうタイプ。

 本書では、2つ目の「戦略策定の落とし穴にはまり、いい戦略そのものが作れなくなってしまうタイプ」に着目し、うまくいかない経営戦略が抱える
一定の共通性やパターンを分類し、どうすればそのパターンにはまることを回避出来るのか、その真因はどこにあるのかに迫った内容となっています。

【所感】

 本書では、戦略策定の落とし穴を大きく2つにわけて整理をしています。
 
 1つ目は(戦略策定のための)思考プロセスの落とし穴。
①ビジョンを描かず現実のみを見てしまう。②③逆に不都合な真実や大きな真実を見落とす。④似て非なることを間違える。

 2つ目は戦略内容そのものの落とし穴。
①絞り込み不足でメリハリがない。 ②仕込みが足りない。 ③流れの設計がない。 ④正ばかりで奇も勢いもない。
 
 それぞれにつき1章ずつが充てられ構成されています。
多くの事例を交えつつ展開される本書。上記の章立てを見てもわかるように、実は戦略策定のプロセスにおいては相反する要素が少なくありません。

 現実に囚われ、ビジョンなき戦略はナンセンスである一方、事実の深堀りがなければ単なる夢物語で終わってしまいます。
 また実行可能性を高めるために、諸々施策を巡らせた結果、何のインパクトもない凡庸な戦略が生まれてしまいます。

 思えば優れた戦略策定とは、このような微妙なバランスの上に成り立つものであり、かつ前述したように、この戦略が環境と合致し、正しく実行されて初めて意味を成すことを考えると、結果論としての戦略の良し悪しは語れても、自身が当事者となり取り組むことの困難さは想像に難くありませんね。

 戦略とは、人が作るものです。著者は本書に「人間性弱説」というメッセージを込めています。
「人は性善なれど、弱し」。正しい方向に企業や組織を導こうと、皆考えますが、その弱さゆえ、大きなビジョンを描く勇気が出ない、真実を見ない、詰めが甘くなる、周囲の反応をおもんばかり無難な方向に向かってしまう・・・・・。

 この「弱さ」を認識すること。

 そしてそんな弱者が戦略を策定しているゆえ、しばしばそのプロセスにおいては様々な不具合が生み出されます。そのような不具合を「切り」戦略をシンプルに研ぎ澄ますこと。そのような意識を絶やさないことが戦略立案の要諦である。

 と個人的には解釈をしましたが、いかがでしょうか。



                   日本経済新聞出版社 2018年1月17日 第一刷