2018-2- 4  VOL.241IMG_1959

【概要】

 THE INOUE BROTHERS...(ザ・イノウエ・ブラザーズ)。https://theinouebrothers.net/jp
 デンマークで生まれ育った日系二世兄弟、井上聡氏、井上清史氏が主宰するファッションブランドです。

 失礼ながら、個人的には本書を読むまで、お二人の名前や活動内容については、全く存じあげませんでした。

 コペンハーゲンを拠点にグラフィックデザイナーとして活動する聡氏、ロンドンでヘアデザイナーとして活動する清史氏。
共に本業を持ちながら、その収入の大半を費やしブランドの運営にあたっています。

 そのブランド信条は、ずばり「エシカル(倫理的な)ファッション」。生産過程で環境に多大な負荷をかけない。生産者を不当に搾取しないことを目し運営されています。

 扱うのは、南米はボリビアで先住民たちが飼養するアルパカの毛を使用したニット製品。
アパレル業界出身でもない彼らが、自らのブランドを立ち上げたのは2004年。まだ道半ばながら、彼らの活動は多くの人の賛同を呼び、認知度も高まりつつあります。

 本書はそんな活動や兄弟の半生を追った1冊。ビジネス書というカテゴリーには収まらないユニークな体裁と内容になっています。 

【所感】

 本書は両兄弟による書下ろしではありません。9章から構成され、主たる内容は執筆者の石井氏が手掛けています。各章の終わりごとに、兄弟自身と二人の母親が語った思いと「ふたりの羅針盤」と称した兄弟を鼓舞してきた改革者たちの言葉(ガンディー、チェ・ゲバラ、ボブ・マーリー etc)が収められています。

 デンマークという異国で生まれ育ち、少なからずの差別や偏見も受けます。そして幼少期には、ガラス職人であった父親を失います。母子家庭となり金銭的には恵まれない中でも強く育った兄弟。

 それぞれの道で成功を収めつつも、何か満たされない思い。

 そんな兄弟が、南米はボリビアを訪ねたことから、物語は動き始めます。

 自身ははたして日本人なのか?デンマーク人なのか? アイデンティティを模索する中、気づいたのは自分たちは「地球人」なのだとの思い。そして亡くなった父親の残した言葉の数々。なかでも父親が身をもって教えた「自身の正義を信じ生きる」ことの大切さ。いつしか忘れていたそんな言葉が二人を動かします。

 関わる人みなを幸福にする仕組み。それはボランティアなどの一方的な施しではなく、関わる人みなが経済的に自立し、安定して循環するような仕組みを構築すること。
 いまでこそソーシャル・アントレプレナー(社会起業家)なる言葉が知られるようになりましたが、そんな言葉など知る由もなかった二人が、本業での収入をつぎ込み徒手空拳で挑む日々。

 志は高くとも、そこはビジネス。資金、人材、認知度の不足。そして商流を作る困難さ。
二人が数々の試練を迎えることは一般の起業物語と変わりはありません。

 それでも本書全編を通じ感じるのは悲壮感ではなく、一種の爽快感と高揚感。
あくまで前向きな二人の生き方が、そんな雰囲気を醸し出すのでしょう。それは実際に兄弟二人に会った方々が、みな抱く印象でもあるようです。
 
「ファッションの力で、社会にポジティブなインパクトを与えたい」
そんな青臭い言葉が少しも嫌味に聞こえない。ポジティブな思いを鼓舞してくれる素晴らしい1冊でした。




                  PHP研究所 2018年2月6日 第1版第1刷発行