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【概要】

  みなさまは「東ロボくん」「ロボットは東大に入れるか」プロジェクト http://21robot.org/ なるものについてお聞きになったことがありますでしょうか?

 これは国立情報学研究所が主導し、人工知能の研究開発を通じ、2016年に大学入試センター試験で高得点をとり、2021年に東京大学入試突破を目標として2011年に立ち上がったプロジェクトでした。

 驚くなかれ2016年のセンター試験模試では5教科で偏差値57.1をマークし、MARCHや関関同立に合格するレベルにまで到達しています。

 しかし東大二次試験を受けるための足切り点数には及ばず、また現在の開発を進めても、同試験で求められるような文脈や複雑な文章を理解することは困難として、同プロジェクトは一旦凍結されています。 

 同プロジェクトのリーダーを務めたのは、同研究所教授である新井紀子さん。

 近年、何かと話題になることの多いAI(人工知能)。
書店には多数のAI関連本があふれていますが、その大半は短絡的や扇動的な内容であり、AIの実態。そしてAIがもたらそうとする未来につき、正しい理解がされていないのではないか。そんな疑問を彼女は投げかけます。

 本書は、そんな第一線でAIの研究開発に従事している著者の手による1冊。「東ロボくん」プロジェクトで得た知見をベースにAIのもたらす未来予想図について記しています。

【所感】

 AIについて、記された本なのに「教科書が読めない子どもたち」というタイトルはなぜ?
そんな疑問を持たれた方も多いかもしれません。
 
 4章で構成された本書。前半2章は、「東ロボくん」プロジェクトの内容と共に、AIの実態を解説しています。
 ややもすればAI万能論が跋扈する中、数学者でもある著者は、所詮AI(コンピューター)は計算機であり四則計算しか出来ない。スマートフォンに積まれる音声認識ソフトなども、一見意味を理解しているようにみえて、膨大なデータから最適解を弾き出しているに過ぎないのだと語ります。

 スマートフォンに「近所の美味しいイタリアンレストラン」と話しかけても「近所の不味いイタリアンレストラン」と話しかけても、似たようなお店を探し出す(美味しい不味いの意味は分からない)という事例には納得でした。

 そうか、所詮AIは計算機なのだから、将来も我々の仕事を奪うことはないのではないか。
話はそう簡単なものではありません。意味は理解せずとも莫大なデータの整合性を確かめる、一定の手順の作業を繰り返す。実は知的生産に見えるホワイトカラーの仕事の大半はそのような仕事であり、それらが代替されることは、もはや避けられない。

 そのインパクトは、過去の産業革命や情報革命の比ではなく、AI楽観論者が説くように、新しい産業が生まれ労働人口がそちらへシフトしていくようなバラ色の未来ではないと警鐘を鳴らします。

 ならばAIに代替されないために、我々に必要な能力は何なのか?
それが本書後半で語られる「読解力」。思えば「東ロボくん」プロジェクトを凍結するに至ったのも、東大二次試験に出題されるような高度な文章を理解する「読解力」をAIに持たせることの困難さにありました。

 
そして驚くべきは、著者達の開発した「RST(リーディングスキルテスト)」で判明した、この「読解力」に乏しい学生の多さ。本書タイトルにもなっている「教科書がまともに読めていない」学生
が巷に溢れている事実でした。
 冒頭で述べた「東ロボくん」の偏差値が57.1に達していることを鑑みれば、そんな彼らがAIに代替されるのは想像に難くありません。

 しかしながらその「読解力」を高める因子は何なのか。残念ながら明確な結論は出ていないようです。著者は「精読」「深読」にそのヒントがあるのではないか?と推測はしていますが。

 そんなAIと教育という二つの観点から構成され、終章ではこれからの企業のあり方、我々の働き方についても言及してまとめられた1冊。一線の研究者による説得力ある内容でした。



                             東洋経済新報社 2018年2月15日発行