2018- 5-20 VOL.256IMG_2299

【概要】

   IoT、ビッグデータ、AI・・・・・.。
新聞や雑誌、テレビの経済番組などでこれらの言葉を聞かない日はないと言っても過言ではない昨今。

 こういった新しいテクノロジーの進展で、我々を取り巻くビジネス環境は、大きく変化しようとしています。いかにしてそれらの新しいテクノロジーを自社の経営に活かしていくのか。頭を悩ませている経営者の方も多いのかもしれません。
 いやいやそれは大手企業だけのお話。果たしてそうでしょうか。
 
 かつてのパソコンやインターネットへのアクセスがそうであったように、新しいテクノロジーはあっという間に価格が下がり、やがてコモディティ化(汎用品化)し誰もが利用な可能なものになっていくことは想像に難くありません。
 
 これからの企業経営に必要なことは、こういったテクノロジーを使って、いかに自社のビジネスモデルや戦略、マネジメントのあり方を変えていくかということ。

 そこで問われるのは、取り組み方の巧拙。大きな変化の波に振り回されることなく、新しいテクノロジーを自社の経営に取り込み、したたかに活用していくためには、何が必要なのか。そんな疑問に示唆を与えてくれる1冊。

 そのキーワードとなるのは、本書帯にも記された「フィードフォワード」。

 30年に渡る経営コンサルタント経験を持ち、多くの企業のIT導入事例を見聞。またテクノロジー活用で自社の経営する企業のビジネスモデルをも変革した著者が語ります。

【所感】

 7章からなる本書。1章で最新のテクノロジー解説をした後、2章では本書のタイトルでもある「振り回される社長と、したたかな社長」の行動の差について言及をしています。

 3章から5章では、経営の様々な局面で、どのようなテクノロジーをどう活用すればよいのか、最近声高々に言われる「働き方改革」などを引き合いにしながら明かした後、6章では、本書の主テーマである「フィードフォワード」について解説をしています。

 終章では、セコム、コマツ、QBハウスなど、テクノロジーを活用し確固たる地位を築いてきた企業の事例を分析しつつ、著者の説く「フィードフォワード」の有効性を解き明かしています。

 さて著者の説く「フィードフォワード」とはどういった考え方なのでしょうか?
これは制御工学の用語だそうです。制御対象を見て、それに応じて何らかの制御をすることは、みなさんがよく知る「フィードバック」。
 これに対し制御対象そのものではなく、それに対して影響を与える先行指標をつかみ、制御対象に起こる変化を事前に予測して対処をするのがフィードフォワード」。

 実はフィードフォワード」を実現するためには、多大な情報やデータを入手し解析する必要があります。いわゆるビッグデータですね。テクノロジーのコモディティ化で、工夫次第では中堅中小企業でも様々なデータ入手が可能となりつつあります。
 
 肝心なことは、それをどう活用するかということ。集まってくるデータを用い、過去を振り返るのか。はたまた未来を予想するのか。その姿勢が企業の今後を決定します。

 そしてもう一つ大切なことは、自社のビジネスドメイン(事業領域)の再定義。
例えば、自動車メーカー。その物理的な定義は「自動車製造業」ですが、これを機能的定義で見直すと「モビリティ提供業」となり、便益的定義では「走る楽しさ提供業」となります。
 このように自社の事業を再定義することは、展開する事業内容や領域を見直すことに繋がります。
そこでこの再定義した領域で、いかにテクノロジーを活用するのか、その発想と行動力が、今後の事業展開の明暗を分けるのかもしれません。


 いやむしろテクノロジーは無くとも、自社のビジネスモデルは変えることが出来る。
そんな信念を持つことこそ、まずは大切なのではないか。そんな指摘も著者は記しています。

 個人的に特に興味を抱いたのはBSC(バランス・スコア・カード)に触れた部分でした。
30年程前に発表され、20年ほど前に日本国内での出版もあり、話題になった経営管理手法でした。
 結果指標としての「財務の視点」とそれに至るプロセスを「顧客の視点」「業務プロセスの視点」「人材と変革の視点」に分け、先行指標と結果指標を組み合わせたものでした。
 優れた経営管理手法ですが、残念ながらうまく活用できた企業は少なかったそうです。
それはなぜか。当時のテクノロジーでは、必要なデータを集めるのにあまりに手間がかかりすぎたから。
 しかしテクノロジーの進展が、このように一見枯れてしまったように思えるコンセプトに再度、命を吹き込むことに繋がることも、また一つの効用なのでしょうね。

  IoT、ビッグデータ、AI・・・・・.新しいテクノロジーへどう向き合うかを端的に記した本書。タイトルゆえ経営者向けと思われがちですが、多くのビジネスパーソンにも読んでいただきたい1冊。好著でした。

              日経BPマーケティング 2018年5月14日 第1版第1刷発行