2018- 5-27 VOL.257IMG_2341

【概要】

 資本主義とは何か?

 実は明確な定義やその発展段階には定説はなく、識者によりその見解も分かれるようです。

 日本初の民間シンクタンクとして設立から50年を越えた野村総合研究所。同所所属の研究員たちの手による本書。
   著者たちは資本主義とは「差異を発見・活用・創出し、利潤を獲得することで資本の永続的な蓄積を追及するシステム」なのだと定義をしています。

 例えば、16世紀、東インド会社に代表される遠隔貿易を中心に発展した「商業資本主義」。 これはインドで購入したコショーなどを欧州に持ち込み、金銀と同等の価格で販売をする。すなわち価値体系の差異を見つけて利潤を得るシステムでした。

 18世紀、イギリスを先頭に起こった産業革命を通じ発展した「産業資本主義」。これは蒸気機関の発明と工業化。共有地の私有化に伴い、農村部から都市部へ流れ込み工場労働に従じた人々へ支払う賃金と、そこから生み出される生産物を販売し得た対価の差異により利潤を得るシステムでした。

 そして今、資本主義は、その第三段階とも言える「デジタル資本主義」に移行をし、新しい局面を迎えようとしているのではなないか? それは様々な点で我々のこれまでの常識を覆すものであり、その行方はまだ混沌とし不明瞭なものであると説く著者たち。

 今後、社会は、経済活動は、そして我々の生活はどう変わり、どこへ向かおうとしているのか。そんな未来予測を試みたのが本書です。

【所感】

 タイトルゆえ小難しい内容ではないの?
と、つい手に取るのに躊躇しがちな本書ですが、それは杞憂に過ぎませんでした。

 日本のみならず、先進諸国でGDPの伸びが鈍化する昨今。人口減ながら一人あたりのGDPは成長している日本。生産性の向上もその背景にありますが、企業の業績に比し利益や配当が増加するのに、さほど反映されない賃金。ならばもっと不満の声があがってもいいはずなのに、著者達が3年に一度行う「生活者1万人アンケート」によれば、なんと自身の生活レベルは向上していると感じる日本人が増加しているという結果に驚かされます。

 その背景にあるのは何か?

 ネットやスマホ普及で、手間なく地図や時刻表が検索でき、買い物も手軽に最安価な商品やサービスを手にすることが可能になっています。またSNSの普及で他者と接触をすること、様々な情報を入手するコストも限りなく無償に近づいています。そんな背景から賃金は上がらずとも、利便性は増し生活レベルは上がったと認識出来てしまう状況。

 今や世界は、過去の統計手法では捉えきれない局面に突入したのではないか?
そんな掴みから一気に引き込まれてしまいます。

 仔細は割愛させていただきますが、著者達は我々が向かうであろう方向として3つのシナリオを想定しています。

 ①ロボットが雇用を奪う「純粋デジタル資本主義」
 ②個人のスキルや未稼働資産が価値を生み出す資本となる「市民資本主義」
 ③多くのモノが無料となり、労働と余暇の区別も消滅したSFのような「ポスト資本主義」

 個人的には②の方向性が一番、イメージ出来るのですが、みなさまのお考えはいかがでしょうか?

 海外の識者の書いた未来予想でなく、日本視線で描かれた本書ゆえ、様々な示唆をくれる本書。多くの方に読んでほしい良書でした。

                        東洋経済新報社 2018年5月3日発行