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【概要】

 2018年5月24日、EU議会が加盟国28か国の承認を得て発効した「EU一般データ保護規則」General Data Protection Regulation いわゆるGDPR。
 これは個人データの処理に関する個人の保護、および個人データの自由な流通のための規則を定めたもので、EU加盟国に直接適用をされます。

 その基本骨格は下記の4点から構成されています。

 ①「忘れられる権利」・・・個人がデータの処理を望ます、かつ個人データを企業が保持する正当な理由がない場合、検索エンジンなどの個人データは削除要求に応えなければならない。
 ②データへのアクセスの容易性・・・個人は、データの処理方法に関する情報をより多く有し、その情報は明確で分かり易い方法で利用できるようになる。
 ③データがいつハッキングされたかを知る権利・・・企業や組織は、個人を危機にさらすデータ侵害を監督当局に速やかに通知し、ユーザーが適切な情報を講じることができるようになる。 
 ④デザインによるデータ保護のデフォルト・・・サービスの設計段階からプライバシーを保護する設計にすること。初期設定の時点でプライバシー保護をデフォルト化すること。

 これによりEEA(欧州経済地域)から第三国や国際機関に個人データを移転する場合には、所定の手続きが要求されるとともに、その運営には厳格なルールが定められ、反した場合には多額の制裁金を課すことが決定されています。

 ここでいう個人データには、インターネット上における、個人の属性情報のみならず、SNSなどへの投稿や、検索閲覧、購買履歴などの情報も含まれ、その範囲は非常に幅広いものになっています。
 その影響はEU加盟国のみならず、EU国内に支店などを置く企業や、EU加盟国と取引のある企業や組織、全てに及びます。
 
 中でも最大の影響を受けると言われるのが、GoogleやFacebookといったアドワーズ広告(利用者の検索結果などに連動した広告)で莫大な利益を上げてきた企業群。
    今やネット上で大半のアプリケーションは、ほぼ無料で入手可能ですが、それと引き換えに、我々は抗うことなく無防備に自らの個人情報を提供してきました。

 しかしながら、GDPRの施行は、こういったビジネスモデルに終焉をもたらそうとしており、いまやインターネットは新しい局面に移行しようとしています。

 GDPRの背景にあるものは何か。そして我々はこれからやってくるであろう新しいインターネットの世界にどう対峙していけばいいのか? そのあたりの考察を試みたのが本書です。

【所感】

  本書は、ビジネス書のカテゴリーですが、GDPRに対するビジネス上の対応など、実務的な内容を記したものではありません。

 著者もGDPRとは、企業が制裁金を回避するために施策を講じる法務問題ではなく、そこに囚われると企業活動の足元をすくわれると警告を鳴らしています。

 世界最大の立法機関を有する欧州議会が、10年以上練り上げて発効したGDPRは条文からは読み切れない欧州の歴史や文化が反映されたもの。そこは法律家の主戦場ではなく、21世紀の社会や文化、メディアやインターネットの行方さえ左右しかねない強烈な闘争の場であり、その発効の背景を俯瞰してみることを推奨しています。

 よって本書の構成も、GDPR発効の背景にとどまらず、個人データが莫大な富を生む理由、米大統領選挙に多大な影響を及ぼしたとされるフェイクニュースが生じた背景、プライバシーはいつ生まれ、いつから保護すべき対象となったかなど、幅広い内容をカバーしています。

 ポケモンGOすらGDPR違反の疑いがもたれていること。2003年から全世界の図書をデジタルスキャンしてきたGoogleが、実はその電子化された莫大な情報を自社のAI開発に利用していたこと。2017年に、Googleの親会社であるアルファベットが得た広告収入は734億ドル(7.8兆円)。同じくFacebookは360億ドル(3.6兆円)にものぼること。

 などの興味深いエピソードを引き合いにしながら、展開される本書。

 グローバルなネットワークを通じ、その利活用が目覚ましく発展し、今や社会的基盤として我々の仕事や生活に不可欠な存在となっているインターネット。
 たとえGoogleやFacebookといったプラットフォーマーに、いいように自身の検索履歴などを利用されようと、無償でサービスを受ける以上、それは致し方無いことと半ばあきらめつつも納得してきた我々に対し、GDPRを通じ公然と異議申し立てをはじめた欧州の動き。
 
 それは米国に覇権を握らることを嫌がった欧州各国の嫌がらせにも似たカウンターパンチとの穿った見方もあるようですが、当の米国すら現在のインターネットの在り様には、相当の危機感をもっており、多くの識者からも、(インターネット)再構築は待ったなしとの声が高まっているそうです。

 インターネット再構築により、個人情報やデータ保護と引き換えに、大半のサービスが有償になったとしたら我々はどういった選択をするのか。SNSなどのコミュニケーション手段はどう変わっていくのか。既存の媒体からネット広告へ大きく軸足を移してきた企業や、はたまたシェアリングビジネスなど、ネット上のプラットフォーム構築で急成長を遂げた企業はどうなっていくのか。

 様々な思いを馳せるに至った本書。キャッチーなタイトルに反し、深き内容の一冊でした。
 

                    ダイヤモンド社 2018年6月20日 第1刷発行