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【概要】

 

 モザンビーク共和国。アフリカ大陸南東部に位置する人口2967万人(2017)、世界でも最貧国の一つに数えられる国家です。 

 同国の北東端にあるカーボ・デルカド州。電気も通らず、ほぼ自給自足の生活を強いられる地域。

 

 本書は、そんな辺境の地にあるいくつかの農村で電子マネーを使った銀行を作ろうと奮闘する日本人起業家の物語。

 

「無電化の村でどうやって電子マネーが使えるのか?」「世界で最もお金の回らないエリアに銀行を作って、事業として成り立つのか?」そんな疑問を抱かれた方も少なくないのかもしれません。

 

 著者が手掛けているのは、複利の金利をとらない「収益分配型モバイルバンク」という仕組み。

これは預金者には利息を支払わず、融資に際しては複利の貸出利息をとりません。その代わりに決済手数料などで得た収益の20%を預金者に還元します。

 ただし預金者個人に分配するのは1%のみ。残りの19%は預金者の属するコミュニティ(村・部族)に分配され、その分配金をインフラ整備や事業資金に充ててもらうことを意図したものです。

 

 世界には銀行口座をもたない、金融サービスを利用したことがない人々が、20億人にも上ると言われており、それが貧困から抜け出せない一つの要因となっています。

 著者達が採用しているNFCカードという比較的ローテクな技術は、ネット環境などが脆弱な地域でも利用が可能なことから、その仕組みや運用面も含め、世界から注目されつつあるようです。

 

    京都大学を中退。紆余曲折を経て、日本植物燃料 http://www.nbf-web.com/japanese/index.html というバイオ燃料の製造販売会社を立ち上げた著者が、なにゆえにモザンビークで、新しい金融の仕組みを作り運営をすることとなったのか。その経緯や事業展開で得た様々な気づき、そして将来の構想について記した1冊となっています。 

 

【所感】

 

  5章からなる本書。

  1章では著者の考える新しい金融システムである「収益分配型モバイルバンク」の仕組みについて。2章~4章では、起業やモザンビークでビジネス展開をするに至った経緯。異国の地ゆえ生じる様々なトラブルと対処の数々。そして最終章では今後の構想について記されています。

 

 本書内で何度も繰り返される自身のライフミッション。それは「世の中から不条理をなくすこと」。そこに至ったのは二つの原体験からだそうです。

 

 一つは被爆地である長崎で生まれ育った著者が、幼少期より繰り返し聞かされてきた太平洋戦争の悲惨さと、その要因が石油資源というエネルギー確保問題に端を発していたということ。

 もう一つは学生時代に旅したアンデスで接したお菓子を売る少女。貧困地域で、どんなに努力しようとも現在の経済システムでは決して裕福になることはできないとの諦観。

 

 そんな原体験から「エネルギー」と「食糧」そしてその分配方法である「お金の仕組」を適切に構築していくことこそが、「世の中から不条理をなくすこと」に繋がるとの確信を抱いた著者。

 

 バイオ燃料への関心、貧困地でのビジネス展開、そして金融システム構築へと著者の活動内容が変遷していくのも当然のことなのかもしれませんね。

 

 日本から12,000㎞も離れたアフリカはモザンビークという地でビジネス展開する様子も当然興味深いのですが、個人的に本書の要諦は、1章で記される現行の金融システムに対する著者の考えにあるように思います。

 

 金融の専門家でもない著者ながら、過去の金融にまつわる歴史などを紐解きつつ、独自の目線で今の金融システムの課題を見出します。

 今や世界は資源制約期に入ったこと。そこではこれまでとは違った仕組みが必要なこと。複利計算がまかり通る金融システムでは、絶対に格差是正は出来ないこと。etc

 

 私的見解と謙遜しつつも、訥々と記される課題と、それに対しモザンビークで自らの仮設を立証していく様子。経済的な成功や名声を求めず、ただただライフミッションに忠実であり、社会的課題を解決したいと願う著者の姿勢。

 日本にもこのような起業家が現れてきたことに、驚きと称賛を感じざるを得ない1冊でした。

 

                         日経BP社 2018625日 第1版第1