2018- 8-19  VOL.269IMG_2639

  

【概要】
 誠実さ、確実な品質、製品の信頼性 etc かつて世界が瞠目した「日本的経営の時代」があった・・・・・。
 そう聞いても、俄かに信じられない若い世代も多いのかもしれません。
 データ改ざん、不正検査など相次ぐ企業の不祥事、家電業界をはじめ世界中で凋落する日本企業の存在感。加計学園問題などに見られる政治への不信感。

 自分の周囲には満足だが、社会に対する不安感、不信感を大半の人が抱きながらも具体的な行動が起きない、諦観漂う現在の日本。なぜ日本は、こんな国になってしまったのか?

 そこには「想像力の欠如」に起因する「構想力の欠乏」があるのではないか? そんな書き出しで始まる本書。

 著者達の指摘を待つまでもなく、この数十年、特に閉塞感高まる日本では「構想力」への関心は高く、関連書籍は多く出版されています。しかしその大半は、経営者や政治家などが強いリーダーシップを発揮し組織を牽引し構想の実現をすることを要請したもの。
 しかし今や世の中は「共創・社会的協業の時代」に入っており、トップダウン方式で構想を実行するスタイルは成り立たなくなりつつあります。
 そこで必要とされるのは、個々が「構想力」を身につけること。知識創造理論の識者二人が、そのための方法論について記したのが本書です。

【所感】

 6章で構成された本書。1章では前掲した構想力の欠如がもたらす危機について述べた後、2章では構想力の定義。3~4章は構想力の方法論(構想化の方法)を。5章では歴史を紐解きながら、構成力の変遷につき記した後、終章の6章では日本的構想力に考察を加えています。

 方法論とタイトルにありますが、著者達も本書内で記しているとおり、構想力を高めるヒントやメソッドが掲載されているわけでもなく、ケース事例が紹介されているわけでもありません。
 
 いわゆるノウハウ本とは、ほど遠い内容。骨太かつ、引用が非常に多い構成になっており、個々のエピソードを読む分には、非常に面白いのですが、その本分を整理しようと思うと非常に難解さを覚えました。
 
 例えば、本書の主題である「構想力」についてですが、冒頭から拾っていくだけでも

「構想力とは、想像力に基づきながら現状を変革する実践知」
「構想力とは、個人、組織が発揮するケイパビリティ(能力)であり、想像力、主観力、実践力を合わせた「存在しないものを存在させる力」」
「構想力とは、共感に裏付けられながら、自由な展開の可能性を持つ人間力」
「構想力とは、人の意識内にとどまる発想やアイデア、ファンタジーではない。」
「構想力とは、私たちの現状の矛盾した状況やコンフォートゾーンを抜け出す力をもったもの」
「構想力とは、既存の制度や容赦ない変化にとらわれないための力」

 と、その説明は一義ではなく、個々の意図するところは、なんとなく理解できるものの、では「構想力とは何か?」これを端的に表現しようと思っても、ハタと困ってしまう次第でした。

 また本書主題でもある構想化のプロセスについても ①構想をデザインするプロセス ②目的を創造していくプロセス ③エコシステムの形成プロセスと 整理はされているものの 各プロセスの手法について安易な解説はありません。  

 他の章も含め、各章末ごとにまとめらしきものもなく、全てその理解は読者にゆだねられています。

 なぜこのような体裁をとるのか考える中、本書終章で「構想力」を鍛えるものはリベラルアーツにあるとの記述にあたりました。

 リベラルアーツの起源はギリシャ・ローマ時代にさかのぼりますが、代数、幾何、天文、音楽という「自由科目」に文法、弁証、弁論、後には医術、建築術、法律、絵画なども加えた学芸の総称で「自由人の科目」と呼ばれたものだそうです。

 これに対し、実利性や職業性や専門性など働くための生産性を高める術は「奴隷の科目」と呼ばれたそうです。
 
 思えば、この一見難解な本書は、読者へ「奴隷の科目(即戦力)」として構想力の身に着け方を提供するものではなく、「自由人の科目」としての構想力を身に着けるべく、まずは自らが考察してみるよう、そのヒントとなる要素を幅広く散りばめた構成と考えるべきなのかもしれません。

 端的にまとまった著者の考えを一読して、理解した気になるのではなく、難解ゆえ再読を繰り返すことで初めて、その意図することを理解し真の知力となる。そんな意図を感じた1冊でした。
  

                        日経BP社 2018年7月24日 第1版第1刷発行