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2018- 8-26  VOL.270

  

【概要】

 

 十数年前からメディアを賑わすようになってきた「買い物難民」「買い物弱者」といったフレーズ。

 平成27年の経産省の調査によれば、その数700万人。いわゆる過疎地と言われる地方のみならず、東京などの都市圏においても、日用品の買い物に支障をきたす人々が増加しており、大きな社会問題となりつつあります。

 さまざまな行政機関や企業で「買い物送迎」や「ネットスーパー」などの施策が講じられていますが、その一つの形態が「移動スーパー」。

 平成24年、徳島県で誕生した移動スーパー「とくし丸」http://www.tokushimaru.jp/

 移動スーパー「とくし丸」の画期的なところはそのビジネスモデルにあります。
 最初にとくし丸本部が地域のスーパーを開拓し契約。販売パートナーと呼ばれる個人事業主が、車両を購入し地域のスーパーと契約。その売上の17%を販売パートナーが受け取る仕組みです。
 販売パートナーは、概ね週二回程度 エリア内のお宅を回ります。

 店頭での販売価格に10円をプラスした無理のない値付けをしつつ、お客さんが負担してくれた10円を販売パートナーとスーパーで分け合うことで利益率も改善。
 買い物難民を生んだ背景には、地域の小さな商店やスーパーなどの閉店もあります。
本モデルの優れている点は「買い物難民」にのみ目を向けるのではなく、そんな地域にある個人スーパーなどの小規模事業者を守ることも意図。まさに三方よしのモデル。
 
 創業から6年。平成30年7月現在、44都道府県で展開。契約スーパーは98社、343台の販売車両が稼働するまでに成長をしています。
 
 
 本書は、そんな「とくし丸」を立ち上げた著者の奮闘記。
齢54にして起業をした著者が、創業時より記していたブログがベースとなっており、時系列で創業から現在までの思いや様子が明かされています。 
 

【所感】

 

「とくし丸」のビジネスモデルそのものも興味深いのですが、本書の素晴らしさは、起業から事業が軌道にのり、成長していく過程で生じる様々な思いや課題、そして対応を、時系列に赤裸々に記していること。

 起業に際する資金調達の様子や、日々の売上や収支状況、販売パートナーが生活可能な日販目標の立て方といった実利的な内容から、長らく無給状態でも自身のビジネスモデルを信じ、邁進していく著者の姿勢 etc

   起業を志す方、新規事業を試みようとする方には、具体的で参考になる点も多いのではないでしょうか。
 また時折、登場するドラッカーや盛和塾への入塾経験と懐疑も、何かと思い悩むことの多い経営者の方々には、うなずける点も多いかと思います。

 かつてはタウン情報誌の発行人でもあった著者ゆえ、メディアのこともよく理解しており、起業に際するプレスリリースに始まり、認知度を高める重要性を理解した立ち振る舞いも見事です。

 たとえ社会的意義のある事業であっても、認知され、かつ自立持続できなければ意味がないとの思い。事実「買い物難民」支援の事業には補助金制度もあるのですが、同社はこれを受けとっていません。補助金ありきのビジネスでは、とうてい存続は覚束ないことを、よく理解されていますし、行政は補助金ではない支援の仕組みを構築することが大切なのだとの意見もうなずけるところです。

 同社の躍進を見て、大手流通企業の「移動スーパー」への参入が相次いでいますが、著者は大手には絶対に負けないゲンバのノウハウと人間関係の蓄積が我々にはあると自負をしています。
 
 自ら地域を回り、販売ルートの確保。地元個人スーパーや販売パートナーたちと密に心通わせ、ビジネスを成長させてきた自信あってのこと。

 実は、そんな同社は平成28年には、更なる成長と経営の安定を目指し、オイシックス(オイシックス・ラ・大地)との資本提携(グループ会社化)をしています。

 以降の順調な成長を見る限り、創業の精神や自負する自社の強みを損なわず、躍進する姿は頼もしい限りです。さらに著者はこの仕組みをインフラ化すべく、様々な策も講じており、その動きにはますます目が離せませんね。
 
 

                   西日本出版社 2018年8月27日 初版 第1刷発行