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【概要】


 みなさまは「居酒屋甲子園」http://izako.org/#firstPageという大会をご存知でしょうか。
 「共に学び、共に成長し、共に勝つ」を理念に「居酒屋から日本を元気にする」を目し、2006年から年一度開催されています。
 本年で13回目を数える同大会は、明後日13日 パシフィコ横浜で開催されます。

 大会では、全国の予選を勝ち抜いた5店が壇上で発表。20分間のプレゼン時間で、自店の取組や営業への思いなどを、観客に伝えます。

 本大会は誰でも参加出来るわけではありません。参加料を払い、合計50項目ものチェックポイントがある覆面調査を3回受ける予選を勝ち抜かなければ本選には進めません。

 2006年スタート当時の参加店舗は236店、スポンサー企業は60社。それが昨年の12回大会では、参加店舗数1765店、スポンサー企業は140社。大会当日の観客は5000人を超える一大イベントにまで成長をしています。
 今やその影響は他業界にも及び、介護、旅館、エステ、建設職人、パチンコ、会計事務所 etc でも独自の甲子園が企画運営されています。

 本書は、そんな「居酒屋甲子園」の実態に迫った1冊。長らく飲食業界を見てきた著者ですら、その盛り上がりについて理解出来なかったという「居酒屋甲子園」。
その誕生から現在、未来までを丹念に追っています。

【所感】 

 6章からなる本書。
 居酒屋甲子園誕生までを描いた第1章。大きなターニングポイントとなった第3~4回大会にスポットを当てた第2章。第3代目~6代目の大会理事長ににフォーカスした第3章。大会の優勝者や関係者のその後を追った第4章。他業界への波及を考察した第5章。そして統括をした第6章となります。
 
 居酒屋甲子園のスタートは、名古屋の有力居酒屋グループ「かぶらや」で店長を務めていた大嶋啓介氏。新規店舗を任せされるも結果が出せず、焦る彼を変えたのは、同業者のお店で実施されていた「朝礼」との出会い。整列したスタッフ全員が、掛け声、合い言葉、挨拶を大きな声で唱和しながら、店舗全体の一体感を高めていくその様子に圧倒されます。

 同朝礼を参考に、自店なりのやり方で磨き上げ、外部に一般公開をするまでになりました。
 あえて外部に公開をしたのは、スタッフの意識を、お客様に「見られている」ことから「魅せる」ことに変えるため。「魅せよう」という想いが、本人のふるまいを自主的なことに変えるとの目論見があったそうです。

 また自身が多くの飲食店から学ばせてもらったことから、「自身の店だけでなく外食という業界全体を元気にしたい。」とノウハウを公開することになんの躊躇もなかったそうです。

 いつしか「朝礼日本一の店」と業界内外からの評価を得るようになっていた大嶋氏。ほどなく「牛角」を展開するレインズ・インターナショナルが開催していた「パートナー・フォーラム」を見学したことから、居酒屋甲子園の着想を得ます。 
 徒手空拳、資金や運営ノウハウもなく情熱だけでスタートした居酒屋甲子園ですが、多くの賛同者を引き入れ、やがてしっかりした運営団体へと発展をしていきます。

 なぜ居酒屋甲子園は、ここまで発展し、皆の気持ちをつかみ、他業界にまで展開されるようになったのでしょうか。

 業界団体、勉強会、研修会。どんな業界にも様々な集まりがあり、相応の交流や業界内のコンテストなども開催されています。
 それでも、自社のことしか知らない。自社のやり方しか知らない。せまい自社だけの価値観で自身の仕事の意味づけをしてしまっている。自社のいる業界を蔑む。そんな状況って業界を問わず往々にしてあるのではないでしょうか。その要因は往々にして自身の視野の狭さにあります。

 居酒屋甲子園は、業界日本一を目指すというイベントの体裁をとりつつ、これほど他者(他店)を知り、業界を知るという効果的な仕掛けはないのではないでしょうか。組織を変えるのは人。人に影響を与えるのは人。ましてそれが自社外であれば、より効果は増します。

 そして明確で分かり易い目標を共有する中で培われる一体感や帰属意識の醸成。
その意味や価値に気づき始めた店主や経営者たちの増加が、居酒屋甲子園というイベントをここまで育ててきたのかもしれません。

 もちろん全国の居酒屋の数からみれば、エントリーしている店舗数はしれたものかもしれません。またデフレ志向、人材不足といった業界を取り巻く環境も依然厳しく、そんなイベントに参加する余裕などないというお店が大半というのが実情かと思います。

 それでもこれは一過性のブームではなく、何か一つの新しいムーブメントとなりつつある。家族経営ならまだしも、他者を雇用し、きちんと組織として飲食店を経営される人にとって、決して無視できないない流れであること。そんな思いを強く感じた1冊でした。

 
                    筑摩書房 2018年10月31日 初版第1刷発行