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【概要】


 今「AI」という言葉をメディアで目にしない日はありません。同テーマを扱った多数の書籍も出版されており、皆の関心の高さを伺えます。

 ただその論調は、「AI」に我々の仕事はとって代わられ、失業の憂き目の時代がやってくるとか、そういった時代に失業しないためにはどうしたらいいのかとか、比較的にネガティブで「AI」を敵対視するようなものが多いような気もします。

 それだけビジネスの現場に与えるインパクトは大きく、その反面、現実的な対処方法についてはあまり論じられていないことも、その原因かもしれません。
 
 本書が扱うテーマはずばり「AI」との共存。
 著者達はそれを「ビジネス変革の第3の波」と呼びます。第1の波とは「プロセスの標準化」。ヘンリー・フォードの自動車組立工場に代表される製造工程の標準化などを指します。
 第2の波とは「プロセスの自動化」。コンピューターを活用したバックオフィス業務などを自動化するIT技術の発展を指します。
 そして第3の波は「プロセスの適応化」。標準化、パターンを越えた新しい領域へ自社の製品やサービスをカスタマイズ化していくことを指しています。
 
 そこで出てくるキーワードが「ミッシング・ミドル(失われた中間領域)」。
人間だけの活動領域とAI(マシン)だけの活動領域を隔てている中間領域のことです。今後我々に必要なことはこの「ミッシング・ミドル」をいかに埋めていくかということ。そこで必要とされるスキルなどにも踏み込んで本書は構成されています。
  

【所感】

 大きく2部で構成された本書。
第1部では、ビジネス現場における「AI」の現状。製造、サプライチェーン、会計、研究開発、営業、マーケティングといった各分野において、先進企業におけるAI活用の事例などを紹介しています。
 各分野にあまり仔細に踏み込んではいませんが、その分「経営」という観点から幅広い領域で全体を俯瞰するような構成となっています。
 
 第2部は、実践編と呼んでもよいのかもしれません。
 自社での「AI」活用を促進し、ビジネスモデルを変革していく具体的な手順などにつき解説をしています。「AI」活用先進企業には5つの原則があり、著者達はそのフレームワークを「MELDS」と呼び、そのフレームワークに沿って展開をしています。

「MELDS」とは 
 ①マインド・セット/ミッシング・ミドルにおける仕事の再検討をし、ビジネスに対して従来とは根本的に違うアプローチを考えること。
 ②実験/様々な業務領域でAIをテストし、導入すべき業務を見極める。
 ③リーダーシップ/最初の段階からAIの責任ある使用にコメットする。
 ④データ/組織内のさまざまな情報を蓄積し、利用できるよう準備をする。
 ⑤スキル/ミッシング・ミドルにおける事業プロセス再構築に必要な8つのスキルを開発する。の5つのキーワードの頭文字をとったもの。

 そして本書副題にもある8つのスキルとして
 ①人間性回復スキル ②定着化遂行スキル ③判断プロセス統合スキル ④合理的質問スキル ⑤ポットを利用した能力拡張スキル ⑥身体的かつ精神的融合スキル ⑦相互学習スキル ⑧継続的再設計スキル が挙げられています。

 スキル仔細の紹介は省略させていただきますが、要は「人間によるマシンの補完」と「AIによる人間へのスーパーパワーの付与」というハイブリッド活動を行うためのスキルと言えるようです。

 事例紹介を含め、上記の様な実践手順も分かり易く、自社で「AI」活用を検討する上で大いに参考になる点が多いと思われる本書。
「AI」とは「認識、理解、行動学習を通じて人間の能力を拡張するシステム」と定義する著者達。
 あくまで人間本位であり、人間か「AI」かの二者択一ではなく、双方の得意領域を見極め、あくまで「AI」が人間をサポートする仕組みの構築や活用のための明確なビジョンを描くことが肝要と説きます。
 結局「AI」導入で、人員削減など部分的なコストカットなどに成功しても、そんな狭義な成功は長続きせず、かえって企業の将来性を閉ざしていくのかもしれません。「AI」を活用し、より自社の社員たちが活躍出来るような場や機会を作れる企業のみが、これからも存続を許される。そんな時代がやってきているのかもしれません。

 
                       東洋経済新報社 2018年12月6日発行