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【概要】


 2018年5月、経済産業省と特許庁が「デザインによる日本企業の競争力強化」を目的とした「デザイン経営」宣言という政策提言を行ったことをご存じでしょうか。

 世界の有力企業が「デザイン」を経営戦略の中心に据えているのに対し、日本ではその重要性を理解している経営者が少なく、それがグローバル競争下での日本企業の弱みになっている点を指摘。
 そこから脱却するため、デザインを活用した経営手法を推奨することなどが盛り込まれています。

 そんな背景もあり、最近は書店でもデザイン経営やデザイン思考に関する書籍を多く見かけるようになったように思います。
 本書もそんなカテゴリーに入るのかもしれませんが少々趣が違います。著者は、電通で数々のCM企画を手がけた後、退職しハーバード大学デザイン大学院で都市デザイン学を専攻。卒業後インバウンド向け旅館経営で起業をした異色の経歴の持ち主です。

 ハーバード大学デザイン大学院で学ぶ中、どうも自分自身(日本人)と教授やクラスメイト達とでは「デザイン」に対する定義が大きく異なるのではないかとの思いを抱きます。

 また日本には、星新一、小松左京、筒井康隆、藤子不二雄、手塚治虫、大友克洋 といった世界を代表するSF作家を多数輩出している創造性豊かな国なのに、なぜそんな国からイノベーティブな企業が生まれてこないのか。   

 それはこの国のデザインに対する認識の違いに要因があるのではないか。
そんな疑問の投げかけから本書は始まります。

【所感】

 概ね正方形の判型。各ページ見開き左には、黒を基調にキーワードや写真、グラフィックを配した凝った装丁となっており、文章量としては決して多くはありません。

 まず興味を覚えるのは、日本における「デザイン」の定義。
実は日本では「デザイン」という言葉は2回輸入されているそうです。1回目は戦前に「設計」という意味で、2回目は戦後に「意匠」という意味で。
 欧米においては「デザイン」を「問題解決」と捉えているのに対し、日本ではどうも「自己表現」の一つとして捉えてしまっていることが、著者も感じたデザインに対する認識の違いに繋がっているようです。

 よってしばしば、日本においては、絵心やセンス、クリエイティビティのあることを、「デザイン力」があると捉えがちですが、そもそも「問題解決力」にはこういった能力は必要がなく、せいぜいポンチ絵が描ける程度で十分なのだと説きます。

 むしろ必要とされる能力とは「見立てる力」。
 著者は「建築」と「映画」を引き合いにしながら、その意味を解説しています。一見異種なものに思える「建築」と「映画」ですが、その共通項は「シナリオ」にあります。「シナリオ」さえあれば、小説であろうが映像や音楽であろうが、はたまた建築であっても全て変換して表現をすることは可能なのだと説きます。
 つまり、普通の人から見てまったく異なるように思える二つのものでも、それぞれをシナリオまで抽象化して考えることが出来る能力こそが「見立てる力」であり、著者が学んだハーバード大学デザイン大学院では、これを重要な要素と捉え、教育プログラムが構成されているそうです。
 
 もう一つハーバード大学デザイン大学院で重視されているのが「未来からの逆算力」。それは未来を現在の延長と捉えるのではなく、自分自身が未来をどうしたいのかという願望を研ぎすまし、そこから逆算し現在の世界に何が必要かと考えていく能力のことを指しているそうです。
 
 そして本書では、これらの背景を踏まえ著者なりの「見立てる力」「未来からの逆算力」を育むトレーニング法などを紹介し締めくくられています。

 日本では、とかく「デザイナー」と聞くと、小学校から高校時代にかけて、絵や工作の得意だった生徒が、美術系の専門学校や大学を経て、なる職業という認識がありますが、そもそもそういった人々が「問題解決」に長けているわけではありません。
 そういった意味では、まずは学校教育から改めていく必要があり、著者は真のデザイナー育成には、子供たちに普段から「不便さ」に気づく探す授業を提言しており、これは一考の余地はあるかもしれません。

 デザイン力とは絵心の有無やセンスの有無ではなく、問題解決力であり、それは先天的にもって生まれたセンスなどで決まるものではなく、後天的な努力によっても身に着けられるものであること。そんな学びの重要性を抱かせてくれる1冊でした。
 
           クロスメディア・パブリッシング 2018年11月11日 初版発行