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【概要】


 2018年8月、長崎県長崎市に本店を構える十八銀行と同じく長崎県佐世保市に本店を構える親和銀行の経営統合が正式に発表されました。
 親和銀行を傘下にもつ、ふくおかFGは2019年4月に十八銀行を傘下に収め、2020年4月には同行を合併させる予定となっています。
 ニュースでも報じられましたので、ご存じの方も多いかもしれませんが、一連のスキームに決着がつくのにはかなりの時間を要しています。
 それは両行の合併により、長崎県内の中小企業に対する融資シェアが75%にも達し、寡占状態に陥ってしまう事態に対し、公正取引委員会が待ったをかけたからです。
結局は十八銀行が1,000億円の債権を他行に譲渡し、シェアを落とすことで決着をみます。

 マッキンゼー・アンド・カンパニー出身、金融庁参与などの職を経てきた著者。
 彼は、これは単なる地域金融機関の問題ではないと説きます。人口減少進む長崎県では、2030年には2015年(県内総人口約140万人)比で14%が減少、労働人口に至っては22%もの減少が見込まれており、経済規模は相当縮小をしていきます。となれば、もはや競争すら成り立たなくなることは、時間の問題ではないかと著者は疑問を提します。

 この競争すら成り立たない経済の登場は、長崎県あるいは金融業界固有の問題ではなく、今後大半の地方都市や産業で想定しうる現象であり、法整備を含めこれまでとは違うアプローチや発想の必要性について問うているのが本書です。
  
【所感】

 終章含め9章からなる本書。冒頭であげた十八銀行、親和銀行の統合にみる長崎県の経済規模の実態と他地域でもみられる競争不能状態について言及した1~2章。鉄道事業、電気通信事業、電気事業など、いわゆるインフラ産業での事業継続不能状況について考察した3章~5章。
 そして再度金融業界と長崎県について論じ終章へと向かいます。

 著者が本書を記すきっかけとなったのは、とある競争法で著名な識者との面談だったそうです。
一連の調査を通じ、「人口減少に伴い、そもそも競争が成り立たないことを前提に、企業と顧客のあり方を研究している法律家はいないのか」との問いに対し、そのような研究家は一人もいないとの返答から、誰もいないのであれば、自らが先鞭を切ろう。そんな思いが発端となったそうです。

 では著者の描く競争不能地域への処方箋とは何か?
 本書では、金融、鉄道、通信、電気事業の4つを事例として掲げていますが、事業の種類はこれだけではありません。しかも各事業によってビジネスモデルやコスト構造も違い、実は共通課題というのは意外と少ないのだと説きます。
 よって公正取引委員会が、あらゆる事業に対してコミットすることは現実的ではないためFS(Fair Society 公正社会)法を制定し、FS委員会を立ち上げる。その上で下記の流れを提言しています。
 
 ①地域市場の分類判定・・・FS委員会主導で、関係省庁の意見を仰ぎながら競争可能地域・競争不能地域・事業継続不能地域を分類する。
 ②市場ごとのルールづくり・・・競争可能地域・競争不能地域は公正取引委員会が、事業継続不能地域はFS委員会がルールの策定を行う。
 ③個別事案の判定・・・②の流れに沿い個別に審判し、法的整備を実施する。

 またその前提においては、これまでの都道府県別といった行政単位の分類は、もはや馴染まないため経済単位を見直すこと。議論の前提として各地域における各事業維持のためのコスト構造の開示や、各人あたりの負担金額を提示することも重要だと説いています。


 実行可能性はともかくとして、今後日本が迎える人口減少社会に対し、精神論や楽観論でなく、具体的なデータに基づき提言を示している点では、意義ある1冊。

 奇しくも12月14日、自民党公明党が公表した税制改正大綱(案)にて、東京都の財源を地方へ移譲することに小池都知事が異論を挙げたばかり。
 もはや東京、地方云々といった狭義ではなく、日本全体で考えるべき課題である筈なのに、こういった発言が出ることには失望を感じ得ませんが、首長としては当然とも言えます。この国の将来をどう描くのか、真のグランドデザインが問われていますね。

                     中央公論新社 2018年12月10日 初版発行