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【概要】


 みなさんはスーパーカブをご存じでしょうか。郵便配達や新聞配達でよく使われているあのオートバイです。
名前は知らずとも、見たことがないという方は皆無ではないでしょうか。作っているのは、本田技研工業(ホンダ)。

 なんとこのスーパーカブ、2017年10月に生産累計台数1億を突破した超ロングセラー商品。https://www.honda.co.jp/news/2017/c171019a.html
誕生は1958年ですので、今年は生誕から60年を迎えています。

 驚くなかれ、このスーパーカブ、60年前に生まれた時から現在に至るまで、その商品コンセプト、基本のメカニズム・レイアウト、造形のシルエットをほとんど変えていません。

 そして日本のみならず、今や世界15ケ国16拠点で生産され、およそ160ケ国以上で販売、愛用されている世界でも類を見ない商品でもあります。

 原動機付の乗り物で1億という生産台数は、間違いなく世界最高記録ですが、ホンダはギネス申請をすることもなく、海外現地化のため商品名や仕様変更もしていることから、あくまでスーパーカブ・シリーズでの達成と控え目な態度を崩してはいません。
 
 果たしてこの超ロングセラー商品はどのようにして生まれ、どのように世界中に広がっていったのか。そしてなぜここまで愛される商品へと育っていったのか。
本書は、そんな60年史を追ったドキュメントです。
 
【所感】

 7章からなる本書。1~2章ではスーパーカブ誕生のいきさつから、商品コンセプトやデザイン、メカニズムの特徴を。3~6章ではアメリカ、ヨーロッパ、アジアと世界各国へと販路を伸ばした経緯などが記され、7章では現在の日本へと翻って総括をする構成となっています。
 
 本田技研工業や本田宗一郎氏に関する書籍は、数多く出版されていますが、このように特定の同社の商品に絞った類書はあまりないので、非常に興味深く読むことが出来ました。

 そもそもスーパーカブ誕生のきっかけは、当時の専務取締役、藤沢武夫氏が本田宗一郎氏に対して繰り返し語った「小さい底辺の商品を作ってほしい。底辺がない限りうちには将来の繁栄がない。」との思い。後に四輪車の製造にも乗り出し、大飛躍を遂げる同社ですが、底辺(幅広いユーザーの支持)をしっかり固めることが、経営の安定につながることを確信していたのでしょうね。

 とはいえ過去に類を見ないジャンルの商品だったゆえ、天才技術者、本田宗一郎といえど開発には相当苦労をし、完成までに2年の歳月を要したそうです。

 また驚くべきことに、藤沢氏はスーパーカブ誕生から1年も待たずに、アメリカに現地法人を設立しただちに輸出販売に着手をします。
 戦後十数年足らず、厳しく外貨持ち出しが制限されていた時代に、大勝負に打って出たのでした。その後ヨーロッパ、マレーシア、タイと販路を次々と拡大。
これも経営の安定のためには、国内需要依存からの脱却が不可欠と見込んでのことだったようです。

 優れた製品コンセプトと性能の確かさ。全世界販売を目した営業戦略。スーパーカブとは、その二つが見事に合致した極めて稀なケースであったということ。そして本田技研工業の礎を築いた、かけがえのない商品であり、真に同社のものづくり哲学を具現化した最初の商品であったことを改めて感じた次第です。

 丹念な現地取材も加え、記された本書。世界各地のユーザーの写真も多数掲載されており、みなが笑顔で写っている様子には、いかにこの製品が世界中で愛されているのかが窺いしれ微笑ましく。また日本からこの様な製品が生まれたことに誇りを覚えた1冊でもありました。

              集英社インターナショナル 2018年12月19日 第1刷発行