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 2018年ももう終わりですね。本年も当ブログにお付き合いいただきありがとうございました。
 年末お休みですので、今週は少し毛色の変わった1冊をご紹介させていただきます。

【概要】


 昨年世間を驚かせた大きな経済事件がありました。
大手住宅メーカー「積水ハウス」が巻き込まれた地面師事件。
 東京は五反田。廃業した旅館「海喜館」の建つ約600坪の土地取引を巡り、偽の所有者と売買契約。63億円をだまし取られた事件でした。
 金額の大きさもさることながら、何より我々を驚かせたのは、騙されたのが「積水ハウス」であったことではないでしょうか。
 売上高 2兆1593億円(2018年1月期)。大和ハウス、住友林業と共に日本のハウスメーカー御三家の一角を占める同社。取引における経験や知識も十分あるはずの同社が、なぜこうも簡単に騙されてしまったのか。
 本書は、そんな「積水ハウス」事件の他、同じような著名企業である「アパグループ」事件など複数の地面師事件を取り上げています。
 地面師とは一体何者なのか。その手口はどうなっているのか。そんな実態に迫った1冊です。

【所感】
 
 地面師とは、土地の所有者になりすまして売却をもちかけ、多額の代金をだまし取る詐欺行為をはたらく者。ただ単独ではなく、概ね10名程度のチームで活動をするそうです。
 
 犯行計画を立てる主犯格のボス。なりすましの演技指導をする教育係やなりすまし役を見つけてくる「手配師」。偽造書類を作成する「印刷屋」「工場」「道具屋」。振込口座を用意する「銀行屋」。法的手続を行う「法律屋」と役割分担がされています。そのため、警察の摘発を受けても、犯行グループ全員を起訴出来るケースはほとんどないそうです。

 地面師事件が多発したのは、第二次世界大戦後。役所が被災し、書類が消失したことから不動産登記や証明が確実に出来なかったこと。その後地価の高騰したバブル時代も多発。その後は沈静化したものの、近年はオリンピック開催を機に東京都内で再燃しているそうです。

 しかしいまや登記簿や印鑑証明など、不動産取引に必要な書類は電子化が進み、なりすましは非常に難しくなっていると言われますが、それでも引きを切らず地面師事件は続くのは何故でしょうか。

 その背景にはやはり少子高齢化もあるのでしょうね。本書に出てくる事件でも、実際の所有者は高齢であったり身寄りがなく所有物件には住んでおらず、施設に入っていたりするケースも多く、また近隣との付き合いがなく当事者自身が、あまり見かけられていないことも地面師に付け込まれる要因になっているようです。

 そしてもう一つは、人や企業の欲。地価高騰局面において、多額の転売益が得られることを考えれば、立地の良い物件であればとにかく入手をしたいもの。
 件の「積水ハウス」事件でも、売買物件内で契約を締結するなど押さえるべき手順が省かれていたり、一連の手続きのさなか、不自然さを覚えつつも急く気持ちにうまく付け込まれて契約を締結していく様子は、どの事件にも共通しているように思います。
 
 大手ハウスメーカーすら、手玉に取る周到な計画と緻密な手口。ドラマや映画なら痛快なのかもしれませんが、所詮は犯罪。しかも本来の所有者による申し出などがなければ発覚もせず、不正売買された物件に気づかず住み続けているケースも少なくないそうです。現行の不動産売買制度下では対抗する術はないのか。そんな怖さと薄気味悪さを覚えた内容でした。


                     講談社 二〇一八年十二月四日 第一刷発行