IMG_34602019- 1- 6 Vol.289

 
 新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお付き合いの程お願いいたします。新年1回目は、先週同様少し毛色の変わった1冊をご紹介させていただきます。年初に、これからの教育について少し思いを馳せてみるのはいかがでしょうか。

【概要】


 2016年に刊行されベストセラーとなったリンダグラットン氏の「LIFE-SHIFT」。100年時代の人生戦略と副題のついた同書。
以降、人生100年時代というキーワードが非常に目につくようになってきました。本書もそんなカテゴリーに該当するのかもしれません。
 著者は、メディア・アーティストにして、筑波大学准教授、大阪芸術大学客員教授、デジタルハリウッド大学客員教授を務める他、企業経営者の顔を持つ落合陽一氏。若干31歳ながら、「現代の魔法使い」の異名をもち、その動向が各界の注目を集めています。
 冒頭で述べた「人生100年時代」において、どうすれば生涯に渡り学習意欲を持ち続ける人を育てることが出来るのか、そんな命題に対し、氏なりの提案をまとめた1冊。

 過去の著書に比べ、平易な文書で記された本書。自身も子を持つ親として、親子で読むことも想定した読み易い体裁となっています。

【所感】

 大きく3章からなる本書。第1章では「なぜ生涯学び続けなければならないのか?」とのメインテーマにつき、13のQ&Aとしてまとめています。第2章では、落合氏自身の半生を振り返り。第3章では、これからの教育として、最近話題を集める「STEAM教育」について言及をしています。

 1章の一部と3章は連動するものの、基本的には3章とも独立した内容と捉えてよく2章については関心の分かれるところかと思います。

 子供に「どうして学校に行かないといけないの?」と言われた時に、どう対処すべきかというありがちなテーマを振り出しに、幼児教育・プログラミング教育・英語教育早期化の是非、リベラルアーツ必要性の是非、2020年大学入試改革の行方と興味深い内容が続きます。

 前提として押さえておくべきは、現在の日本の教育のあり方。明治政府の唱えた「富国強兵」。それは近代国家を目指し、国民の「均質化」「同質化」を高め人的インフラを厚くする戦略でした。
 その基本的な考え方は第二次大戦後も継続。人口増加局面では有効に機能し、高度成長を成し遂げたことは周知の事実です。ただ今や人口減少局面に移行した日本では、この前提が崩れつつあります。

 そんな中、期待を集めているのが「STEAM教育」。Science(科学) Technology(技術)Engineering(工学) Art(美術) Mathematic(数学)の頭文字をとったものですが、落合氏はこれを踏まえ、日本の「STEAM教育」においては、特に 言語(言葉をロジカルに用いる能力) 物理(物理的なものの見方や考え方) 数学(数学を用いた統計的判断や推定力) アート(アートやデザインの鑑賞能力・審美眼)の4点を伸ばす重要性を説き、具体的な学習法についても独自の提案をしています。

 ただ教育が変われば、全て良しではなく、まず必要なことは我々のマインドをリセットすること。これまでの価値観が大きく変わり「何が正しいのか」という定義すら目まぐるしく変わる世の中では、絶対的な正解というものは存在しません。

「何が正しいのか」を知っているのではなく「正しいことは何か」と常に考える姿勢が重要であること。そして「自分は何かを知らない」ことを常に理解し、「もっと学ぼう」という意識をもつことが、生涯学び続けるというモチベーションに繋がっていくのかもしれません。

 そのために必要なことはトライ&エラーを繰り返すこと。これまでの教育では、人は賢くなればなるほどリスク回避の方向に向かっていましたが、今やリスクを取りにいかないことが、最大のリスク。これからはリスクを取れる人が集まって、一緒に何をすべきか考え行動することが、最もリスクの低い生き方になるのではないかと結んでいる点が強く印象に残りました。

 示唆に富んだ1冊。しかし本書の内容を鵜呑みにするのではなく、「本当にそうなのか?」と疑問を持ちつつ読むこと。それこそ落合氏が最も望む本書への向かい方かもしれません。


                      小学館 2018年12月4日 初版第1刷発行