IMG_35742019- 1-20 Vol.291

  
【概要】


 元ゴールドマン・サックスのアナリストなどを経て、現在は日本の国宝や重要文化財の修復を行う小西美術工藝社の経営に携わるなど、異色の経歴を持つ著者。
 2015年に刊行された「新・観光立国論」で注目を集め、以降いくつもの書籍を記されており、日本経済改革などの提言をされています。

 本書も、同様な内容ですが、やや論調は過激です。人口減少と少子化が世界でも類を見ない速さで進行する日本。このまま行けば日本は三流先進国どころか発展途上国にまで転落をしかねない。

 しかしまだ一縷の光を見出すことは出来るのだと説きます。
そのためには何をすればいいのか。個人の感覚や感情ではなく、海外エコノミストによる118本もの論文やレポートを引用した客観的なデータに基づきつつ、大きく6つの提言を記したのが本書です。

【概要】

 7章で構成される本書。まず展開されるのが日本経済の現状と未来予想。これまでの金融政策では一向に効果が上がらない理由を明かした後、ずばり結論を記しています。

 それは「賃上げ」。金融政策でいくらお金を供給しようとも需要が喚起できないゆえ日本経済には低迷するのだと。そこで継続的な賃上げによりデフレ圧力を吸収する必要があり、具体的な取り組みと、その根拠につき以降の章で論じています。

 ①高付加価値・高所得経済への転換 ②あらゆる産業での輸出強化 ③企業規模の拡大 ④最低賃金引き上げ ⑤生産性の向上 ⑥人材育成の強制化 

 なかでも反発必須なのが、企業の統合を推進し個社の事業規模を拡大せよと記した③でしょうか。

 本書における著者の結論が「賃上げ」であることは前述しましたが、結局規模の小さな企業が生き残れるということは、低賃金で労働力が確保出来ているからであり、またその不安定な経営環境ゆえ賃上げも難しいことのだと、様々なデータからその根拠を示しています。また昨今言われる人材不足との声にも、単に安価な労働力が手に入らないことへの嘆きに過ぎないと手厳しく論じています。

 また中小企業の多さが日本経済の強さとしばしば言われる定説に対しても、たまたま人口増加、経済成長が続く局面において自然増しただけに過ぎず、明確な因果関係は実のところ分からないのではないのかとも記しています。

 この辺りは意見の分かれるところかと思いますが、そもそも大企業と中小企業では生涯賃金に歴然とした差があることを我々は容認しており、確かに賃金という部分のみに着目すれば、規模の拡大が賃金を引き上げることに繋がる可能性は想像に難くはありませんね。

 日本の強さと思われていた中小企業の存在が、実は賃金を上げる足かせになっているとしたら、起業の推奨を含め、そもそも企業数増加を促すべきとの発想そのものから変えていかなければならないのかもしれません。

 このように、人口減少と少子化という未知の局面においては、過去のセオリーを一旦リセットし根本的に発想を変える必要があること。個人や企業ではなく国家レベルで半ば強権的に施策を進めていかなければ、日本は変われないというのが本書における著者の主張かもしれません。
日本に深くかかわりつつも、日本人ではないゆえに出来る歯に衣着せぬ提言集。そんな1冊でした。 

 日本の勝算は「賃上げ」にあり。みなさんはどう思われますか。

                       東洋経済新報社 2019年1月24日発行