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【概要】

 平成も残すところ、あと数か月。

「平成」という名の由来は「史記」の「五帝本紀」にある「内平らかに、外成る」との言葉から来ているそうですが、「外は成るにはほど遠く、内も平らかではなかった。」
 そんな印象を抱く方の多い、この30年ではなかったのでしょうか。

 平成を振り返る書籍や雑誌などを目にする機会が増えた昨今、本書は日本企業とその経営にフォーカスして平成の30年間を振り返った1冊。 
 バブル崩壊に始まり、金融危機そしてリーマンショック、東日本大震災。未曾有の事態が数多く起こったこの30年。
 そんな中、日本企業はどう生き延び、日本の経営はどう変わっていったのか。経営学者の伊丹氏がその軌跡を総括しています。

【構成】
 
 大きく二部で構成された本書。第一部では平成30年を10年ずつに区切り、日本企業の変遷を追います。
 バブル崩壊で始まる「失速」の10年。金融危機を乗り越え立ち直る機運をつかみつつも、大きく変わる経営のトレンドに翻弄され、かつリーマンショックでどん底を迎えた「低迷」の10年。そしてリーマンショックの傷も癒えぬ間に襲った東日本大震災。それを乗り越え現在に至る「再生」の10年。
各種統計データを紐解きつつ、日本企業全体の変遷を描きます。
 
 第二部では切り口を変え、世界の中の日本企業、技術と産業構造、雇用と人事、財務と投資という4つの視点から平成の30年を振り返ります。
 そしてその終章では少々毛色が変わりますが、二つの平成経営史と称し、トヨタと日産の30年を振り返ったのち全体を総括しています。

【所感】

 まだ我々の記憶に新しい平成という時代ゆえ、時系列に描かれた日本企業とその経営の変遷には、自身の体験や経験をなぞらえ臨場感をもって読むことが出来ます。

 失われた20年とも30年とも言われた平成時代。減り続ける企業や工場そして店舗。上がらない賃金、不安定化する雇用。実感出来ない景気の好転。一般的にはそんな印象を抱きがちですが、伊丹氏は、これだけの激動の時代を日本企業はよく耐え生き延びたと評しています。

 バブル崩壊や金融危機を経て、破綻した企業も決して少なくありませんが、それでも多くの企業は雇用を守り、賃金水準を維持してきたことが統計結果などから浮かび上がります。金融機関を頼らぬ経営を目指し自己資本比率を高め、防衛しようと奮闘した姿勢にそんな印象を抱いたのでしょう。

 半面、自己防衛が行き過ぎた結果、投資に慎重になりすぎ、次なる成長につながる萌芽が見られなくなってしまったこと。IT系にみられる産業構造の変化で大きく米国に遅れをとっている状況には警鐘を鳴らしています。

 さて本書には、少し毛色の違った章があると、ご紹介をしました。
それはトヨタと日産自動車を比較した1章ですが、思えば伊丹氏が本書で一番記したかったのはこの内容ではなかったかと個人的には感じています。

 平成という時代は「日本異質論」が声高々に叫ばれるようになり、日本的経営への自信が揺らいだ時代でもありました。その渦中にありながら世界で冠たる存在感を示してきたトヨタ自動車。
 仔細は省略しますが、生産技術を大切にし、雇用の安定を守り、販売を含め現場を大切にする。系列とも厳しくつきあうが、協調し社会が要請するクルマの開発に手を抜かない。

 そんな日本的経営の原理を徹底的に、しかも厳しく追及しつづけた企業がトヨタであり、日本企業の多くが目指すべき一つの姿だと評しています。
 単なるトヨタ式経営礼賛でなく、平成時代の日本企業、日本的経営の変遷という大きな潮流を踏まえた上での言及だけに、よりその特徴と強さが鮮明に描かれているように感じました。

 さて新しい元号を迎える中、これからの日本企業を待ち受けるのはどんな未来なのでしょうか。
伊丹氏は数々の苦難を乗り越え、日本企業全体は「随分シャキッとしてきた」と表現をしています。
「失速」「低迷」「再生」を経たこれからの日本企業が向かうは「反転」ではないか個人的にはそんな期待をしていますが、皆さまはいかがでしょうか。

                    日本経済新聞出版社 2019年1月25日 一版一刷