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【概要】

 先週ご紹介させていただいた「平成の経営」。そこで記されていたのは、平成とは大半の企業にとって自己防衛に徹した30年であったということでした。
 
 自己防衛に必要なのは収益力の向上と財務内容の改善。そこで多くの企業経営者の心を捉えたのは、「持たざる経営」や「選択と集中」というキーワードでした。
 
 1981年~2001年まで米GE社の最高経営責任者を務めたジャック・ウェルチ。カリスマ経営者であった彼の「選択と集中」という言葉が日本で紹介されるや一大ブームを巻き起こします。
 業界で1位か2位のポジションにない事業からは撤退。本業や祖業に集中せよとの彼の言葉は、まさに福音。そんな経営に邁進した結果、企業収益や財務内容は劇的に改善されていきます。しかし一方で長らく設備投資は抑えられ、売上は横ばい。次なる成長の糸口をつかみかねている・・・・・。

 もはや日本企業は「選択と集中」の呪縛から解き放たれるべきであり、今後の経営には適切な内部化、多角化、コングロマリット化が必須であることを論じた1冊となっています。

【構成】

 4章で構成された本書。第1章では本書の主題でもある「持たざる経営の虚実」について、マクロ的視点、ミクロ的視点から迫ります。
 金融市場における投資理論では、投資先を分散する「ポートフォリオ」が常識であるのに、選択と集中とはまさに真逆の発想。当たりはずれの大きさゆえ、非常にリスクの高い経営手法であること。
 実はジャックウェルチは「選択と集中」とは決して語っておらず、単に事業を絞り込むだけでなく、1000もの新しい事業も生み出していた点などはあまり日本では理解されず、言葉のみが独り歩きしてしまった弊害などが記されています。

 2章から4章は、今後日本企業が志向すべき、コングロマリット化、多角化(M&A)、プリンシパル化(内部化)などについて1章ずつを割き、その必要性と進め方について論じています。

【所感】

 何事もトレンドには、揺り戻しがあると言われますが、経営手法もまたしかりなのかもしれません。
平成がはじまったバブル期には、多数の企業が事業の多角化を進めてきましたが、景気失速の中で整理統合、社外への切り出しが進んできたのは周知の通りです。
 そして平成も終焉を迎えるにあたり、再度内部化、その進展としてコングロマリット化を志向すべきではないかとの提言にそんな感想をいだきました。 

 個人的に本書を読んで一番印象に残ったのは「取引コスト」についての言及でしょうか。
 ネット環境の発達による取引先選択肢の増加、コンプライアンス強化、コーポレートガバナンスコードの導入による取引先との関係再構築、フリーランス増加による膨大な外部経済主体との取引などにより取引コストは不可逆的に増加傾向にあります。
 こういった外部交渉や調整業務にマンパワーを割かざるを得ない現状下では、いかに「取引コスト」の削減を図るかが今後の企業活動にとって大命題であり、これが企業のプリンシパル化(内部化)を加速するだろうとのくだりです。

 ネット普及で取引や調達コストは下がり、今後は小体でも専門性をもった個々の企業がネットワークでつながり連携をしていくような新たな企業スタイルが生まれていくことを想像していましたが、むしろしばらく逆の方向に向かっていくのかもしれませんね。

 企業の
プリンシパル化の進展は、取引先など企業の統廃合を加速することは想像に難くありません。
 折しも労働人口減少のなか、高まる賃上げ圧力を考えても、階層化し底辺にいくほど、収益性、賃金水準が低い中小企業が雇用を維持し存続していくことは困難であり、かなりの企業数が減少することは避けられないのかもしれません。
 反面、結果として生産性や収益性は向上する可能性も高く、地方にある中小企業でもコングロマリット化が進展することも想定されています。

 今後、中小企業は、M&Aによる事業売却、他社の傘下に収まることもその選択の一つかもしれません。一方で「取引コスト」を逆手にとり、単に納入コストを下げて選択してもらうという意味ではなく、与信や契約。事務作業、決済なども含め取引先にとってトータルで「取引コスト」を下げる(取引メリットを高める)ような発想で、新たな活路を見出していくことが重要な戦略になるのではないでしょうか。
 

                   日本経済新聞出版社 2019年1月23日 1版1刷