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【概要】

 米国はフロリダ州ゲインズビル市にある清掃会社 スチューデント・メイド社 http://studentmaid.com/
 働いているのは社名どおり現役の学生たち。「成績優秀な大学生が自宅やオフィスをお掃除します」をキャッチフレーズにしており採用するのは成績優秀者(GPA3.5以上)のみ。

 2009年。当時フロリダ大学の学生だった著者が起業。その発端は99ドルのジーンズを買うお金が欲しくて、一回限りのつもりでコミュニティサイトに出した清掃請負広告でした。

 一般的な清掃業のイメージは低賃金で重労働。離職率は75%と高い一方、顧客のリピート率は低く、毎年55%もの顧客が離れていきます。顧客満足度を上げるため教育等へ投資をしようとも、清掃業界の平均粗利率は15%程度。とてもそんな余裕はありません。

 このように特別に魅力的でも楽しい仕事でもなく、またその働き手となるのは、いわゆるミレニアル世代。1982年頃から2000年頃に生まれた同世代は米国史上最も人数の多い世代。
 一般的に、怠惰で無関心、自意識過剰と言われる彼らが、なぜ喜々と同社で働くことを希望するのか。その秘密を知りたいと著者への講演は引きも切らず、出演したTEDトークは300万回以上も再生されているそうです。

 本書は、そんな著者の手による起業からの奮闘記。赤裸々に綴られた数々の失敗談が共感を誘います。

【構成】

 6章+終章で構成された本書。概ね時系列で記されており、創業の経緯に始まる1章から、支店の失敗、創業時からの幹部が退職するまでの6章が中心となります。
 まず1章は、創業間もなきころ60名のスタッフのうち、45名から一度に退職の申し出を受けることから始まります。
 比較的順調な創業期を襲ったこの悲劇から、初めて経営者としての意識が芽生えた著者。以降の章は彼女の失敗と成長の記録と呼んでも差し支えがないのかもしれません。
 事実全6章の章末には「第○章の失敗から学んだこと」を箇条書きしたまとめがついており、創業から事業が成長する中で次々に起こる問題、対処と対処への後悔、そして気づきと学びが記されています。また彼女が参考に読んできたビジネス書のリストも巻末に付されています。

【所感】

 米国での起業物語と聞くと、なんとなくシリコンバレーあたりのIT系企業で、一発当てて億万長者になった起業家の話を想定しがちですが、本書の例はまったく真逆です。
 
 スチューデント・メイド社は、ローテクな清掃会社ですし、世界中のどこにでもありそうな地域の中小企業の一つに過ぎません。本書においても、最先端のテクノロジーやマーケティング手法についての記載は皆無です。

 数々の失敗を繰り返す。反省と自己嫌悪。それでも前向きに、時にメンターや書籍からヒントを得て、課題解決に立ち向かう。そんな著者の奮闘は「人との関わり方」をいかに考え、大切にするかの繰り返しではなかったと個人的には考えました。
 それは事業内容や規模を問わず、あらゆる経営者の方々がみな悩む共通の課題ではないでしょうか。

 本書においても、様々な著者の気づきと施策が記されています。

 ミスを自分で取り戻す機会を与えること。若者が自立心や自信を得る機会を設けること。シットサンドイッチ(ほめて 注意して もっとほめる)の有効性。無評価・匿名性・無関係 の3つが仕事を駄目にすること。FBI(気持ち 振る舞い、影響)方式を取り入れた建設的なフィードバック。(企業の)コアバリュー設定の重要性など。

 全ては「人との関わり方」に通ずるものであり、その取組が優れた企業文化を作っていく様は、本書を読まれた方多くの共感を呼ぶことは間違いないと言えます。

 また本書の秀逸さは、ことさら自身の有能さを演じず、失敗の数々、心情の吐露を隠さないその姿勢にあると思います。人は誰しも完璧ではなく発展途上。それをさらけ出す勇気も経営者やリーダーには必要なのではないか、そんな感想も抱いた一冊でした。


                    ダイヤモンド社 2019年2月13日 第1版発行