IMG_37762019- 3-24 Vol.300
 
 2013年にスタートした公式ブログも、今回で300回と節目の回となりました。いつもお付き合いいただきありがとうございます。
 よって紹介させていただく書籍も、これが300冊目。今回は誰もが知っている、あのエンターテイメント企業を取り上げた1冊をご紹介させていただきます。

【概要】

「トイ・ストーリー」「モンスターズ・インク」「ファインディグ・ニモ」「Mr.インクレディブル」「カーズ」 etc

 誰もが、映画館やビデオで一度はご覧になったことがあるのではないでしょうか。言わずとしれたディズニーのアニメーション映画の数々です。

 そんな作品を手がけてきたのが、ピクサー。前身は、1979年にジョージ・ルーカス率いるルーカスフィルムに設立されたコンピューター・アニメーション部門。1986年には、スティーブ・ジョブスが私財を投じ買収。ピクサーと名付けられ、独立企業となります。

 今や著名企業ゆえ、その作品や技術面にスポットを当てた書籍は多数出版されていますが、本書はそんなピクサーについて、財務面からアプローチをした1冊。
 1994年、スティーブ・ジョブスに声をかけられ同社の最高財務責任者(CFO)を務めた著者の手によります。
 CFO就任当時、破綻の危機にあった同社が、「トイ・ストーリー」の大ヒットから、株式公開を経て、ディズニーの完全子会社になるまでの経緯が綴られています。

【構成】
 
 全4部で構成された本書。主たる内容は1部から3部となります。
 就任を躊躇しながらも、その技術力、クリエイティビティの高さに惹かれ、同社への参画を決めた著者が厳しい現実を知る第1章。苦労しながらも株式公開にこぎつける第2章。そして経営の安定化、ブランド構築のため奔走し、最終的にディズニーの完全子会社になるまでを描いた第3章。
 そして同社を辞し哲学者となった著者が、改めてピクサーの経営について振り返る第4章となっています。

【所感】

 ピクサーという親しみやすさを覚える企業を取り扱っていること。世界初のフル3DCGアニメーション「トイ・ストーリー」が丁度誕生する時期から始まること。そして構成のうまさから一気に読めてしまう本書。 

 スティーブ・ジョブズに乞われ同社CFO就任も、私財投入に嫌気がさしていた氏に、とにかく株式公開を早くとせっつかれる日々。ストックオプションすら付与されず不満爆発寸前のピクサー社員とジョブスとの板挟み状態。映画制作と違い、なぜアニメーション制作企業が成長出来ないのか知る現実。ディズニーとの制作契約が足かせとなり、株式公開どころか、なかなか描けない成長戦略・・・・・。
 様々な困難の中、それでも一縷の望みを託し奔走しつつ、少しずつ解決に向かう様子に引き込まれていきます。

 副題には「~お金の話」とありますが、主として株式公開に重きをおき、事細かな資金手当や財務戦略については記されず、あまりノウハウ的な要素はありませんが、米国におけるスタートアップ企業を取り巻く現状や、ストックオプションの有効性、投資銀行との対応、ディズニーとの交渉の進め方などは興味深い内容でした。

 所詮、アメリカのエンターテイメント業界、コンピューターアニメーション業界のことであり、ましてやスティーブ・ジョブズなどが出てくる華々しい話であり、我々にはあまり関係ないように思えがちですが、決して縁遠い話ではないと思います。

 コンピューターグラフィックスの優れた技術を持ちながらも、長らく個人私財に支えられてきた状況。不遇な扱いを受ける社員。経営陣への不満。大手との安易な契約が実は成長の機会を損なっていた現実。これは大半の中小企業でも往々にして起こり得る問題ですよね。

 ではその解決策をどこに見出せばいいのか?
 後に哲学者となった著者は、本書で「中道」という古くからの仏教哲学を持ち出しています。
中道とは端的に言えば、自分の中に、二人の人がいるイメージを想像することだと記しています。ひとりは官僚でひとりは自由な精神をもったアーティスト。
 安定や規則を好み効率や成果を求める官僚と、生きる喜びや創造性、気持ちを大切にする安定アーティスト。この両者の折り合いをつけるのが中道だと。

 そして自身を振り返りピクサー在籍は、芸術的、創造的側面と事業的問題の折り合いをつけようとする奮闘する日々であったこと。でもそれはどんな企業でも意識すれば必ず取り組め、解決可能な課題なのだと結んでいます。

 実は、ピクサーの株式公開とは、スティーブ・ジョブズ復活のきっかけでもありました。
そんなスティーブ・ジョブスの知られざる側面も垣間見える本書。楽しめた1冊でした。お薦めです。


                       文響社 2019年3月19日 第1刷発行