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【概要】

 

 経営学書としては異例の大ヒットとなった「ストーリーとしての競争戦略」。
本書は同書著者にして一橋ビジネススクール国際企業戦略専攻教授である楠木建氏の手による一冊。
 純然たる書下ろしではなく、文書オンラインというWeb連載の記事を加筆修正したものがベースとなっています。

 本書に限らず実は著者の書籍には「好き嫌い」をタイトルとしたものが目立ちます。その理由は著者の研究する競争戦略そのものに理由があるようです。
 戦略とは競合他社との差別化であり、その原点は「好き嫌い」にあると著者は説きます。
単に良い商品やサービスを提供しているから顧客が支持をするのではなく、その商品やサービスが好きだから支持をするのであり、往々にしてそういった商品やサービスは当事者が心底好きで面白いと思うことを突き詰めた結果生まれるものだとも説いています。
ゆえに著者の書籍には、「好き嫌い」というタイトルが目立つということのようです。

 さて本書は、そんな著者の極私的な「好き」と「嫌い」を軸に語られる仕事論、会社論、社会論。極私的というだけあって取り上げられているテーマや展開を含め、読み手にとっては、まさにタイトル通り好き嫌いの分かれる一冊となっているかもしれません。

【構成】
 
 仕事論、会社論、社会論の3部で構成される本書。23のテーマを掲げ、それぞれに好きと嫌いを端的なフレーズで記し、内容を論じる展開となっています。
帯だけを見てしまうと、よくありがちなビジネススキル本かと思いますが、仕事論のウェイトは全体の1/3程度に過ぎませんし、普遍的かつ具体的なノウハウについて言及をしているわけではありません。

【所感】

 冒頭で、世の人々は「良し悪し族」と「好き嫌い族」に分かれると著者は説きます。
「良し悪し族」は世の中を縦に見て、見るもの聞くものを、良し悪しの縦横にあてはめて価値判断をします。一方「好き嫌い族」は、世の中を横に見て、それぞれに好き嫌いが異なる個人の集積として世の中をとらえます。
 著者は当然自身を「好き嫌い族」と分類していますが、今はとかく世の中全体が「良し悪し」で物事を決める傾向が強まっているのではないかと警鐘を鳴らします。本来個人的「好き嫌い」の問題に過ぎない世事に「良し悪し」をつけたがる風潮は迷惑だとも言い切っています。

 ことビジネスにおいても、結果(業績)としての「良し悪し」はあっても、そこに至る過程(戦略)の大半は「好き嫌い」の問題なのだと著者は説きます。いわゆる王道と呼ばれる戦略も、それがあらゆる企業に当てはまることもない筈なのに、経営者たちはしばしば勘違いをしてしまうのだと。 

 そんなことを念頭に読んでいただくとよい本書ですが
、連載記事を加筆修正した書籍ゆえ記された時期にバラツキがあり、なんとなく一体感に欠け個々のテーマには正直あまり連続性を感じません。よって本書の内容を端的に表現するのもなかなか難しいところがあります。

 取り上げるテーマ(タイトル)には、スポーツが嫌いな理由、「出過ぎた杭になれ」になるな、UMS(ユニクロ・無印良品・サイゼリヤ)主義者かく語りき、「文春砲」を考える などユニークなものが並びますので、特に順番に囚われず好みのテーマを選んでみるという読み方でよいのではないでしょうか。

 極私的というだけあって、そんな好き嫌いどうでもいいんじゃないの?という内容が無きにしも非ずですが、個々のテーマそれぞれに著者なりの視点が光り個人的には楽しめた一冊でした。  
 著者の考えを鵜呑みにするのではなく、著者の掲げたテーマに対し読み手自身が自らの好き嫌いを意識し本書に対峙すること。それこそが著者が望む本書への向かいかたと言えるのかもしれません。


                       文藝春秋 2019年3月30日 第1刷発行