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【概要】

 

 ヨーロッパで最大の経営コンサルティングファーム、ローランド・ベルガー。同日本人会長の手による本書は、なんとホットケーキの名店探訪記。でありつつホットケーキという食べ物からビジネスを考えようという異色の一冊。

 執筆の経緯は、著者が子供の時によく食べたホットケーキの名店の閉店。「このままではホットケーキはなくなってしまう。いまのうちに美味しいホットケーキを食べておかねば・・・・・」

 なぜそんなことを思ったのは、今となっては分からない(笑)と著者も記していますが、以降足しげく様々な店を巡るようになったそうです。
 そんな著者の巡った首都圏(一部関西を含む)を中心に31のお店が紹介された本書。
お店巡りのガイドブックとしてのクオリティも維持しつつ、繁盛店のもつ共通の特徴からビジネス成功のヒントを探ろうという意欲作に仕上がっています。

【構成】
 
 2部構成の本書。前半部分では著者の巡った31のお店を写真入りで詳しく紹介。後半部分では、そういったお店を巡り感じた繁盛の秘訣を、ビジネスで成功するための10のヒントとしてまとめ紹介しています。

【所感】

 ホットケーキの名店巡りという、大人の男性がやるには意外すぎる趣味。それを著名コンサルティングファームのトップが行い、書籍化。しかもビジネス書の要素を取り込むという異例づくめの一冊。ホットケーキに関心がない人は前半は読み飛ばしても構わないと著者も記していますが、それはちょっともったいないかもしれませんね。

 前半のお店紹介では、31店舗全てのホットケーキの写真が掲載されているのですが、商品の特性ゆえでしょうか焼き上がりの色目と相まって、どこか懐かしく温かみを覚える体裁になっています。
そして商品のみならず、お店の成り立ちや店主さんたちの出自まで、丁寧に取材がされており、どの店にも足を運んでみたくなること請け合いです。

 大半のお店は個人店。かつ何十年と続いているお店も少なくありません。そしてそのほとんどの業態は喫茶店。いわゆる水商売と言われる業界で、長らく営業を続けられる秘訣は何なのか。
 著者は、それを 競争戦略、現場力、マーケティング、経営理念と4つの視点に分類し、かつ10のヒントとしてまとめています。
 
 ①一見ありふれたものにこそチャンスはある
 ②真の差別化は「価値の複合化」から生まれる
 ③シンプルなものでもイノベーションは生み出せる
 ④真の差別化を生み出すには、試行錯誤が不可欠である
 ⑤お客様の声は神の声
 ⑥損して得取れ
 ⑦口コミは最高のマーケティング
 ⑧立地の価値は「変数」である
 ⑨お客様目線を忘れずに、進化を止めない
 ⑩本気で向き合い、心血を注ぐ

 仔細の紹介は割愛させていただきますが、この10のヒントを総括しているともいえるのが、本書で掲載されているお店の店主の方が語った「どこにでもある定番が、めちゃめちゃ美味しかったら、必ず売れる」という言葉でしょうか。
 ホットケーキという家庭でも食べられるような、ありふれた食べ物の美味しさが自身の予想や期待を上回った時の衝撃は、忘れられない体験になるでしょうし、ありふれたということは気軽に食べられるということであり、リピートもされやすいという特徴があるのは想像に難くありません。

 各店、ホットケーキを扱い始めた経緯は様々ですが、長らくお客様に支持されるホットケーキを提供するためには、並々ならぬ努力があってこそ。ありふれたものをオンリーワンにまで磨き上げること。差別化は競争戦略の大前提ですが、奇をてらいすぎてはそもそも受け入れてもらえません。
 ありふれたもので、ありふれない味を出すこと。決して簡単なことではありませんが、これは全てのビジネスに共通するセオリーと言っても過言ではなく、前掲した10のヒントも根本にこの思いがあってこそ成り立つことかと思います。

 この様に後半は、小規模事業向けの経営戦略の入門書ともいえる本書。難解な専門用語は一切なく身近な事例をうまく取り上げまとめています。難点は読むとお腹が減ることでしょうか(笑)そんな1冊でした。

                        東洋経済新報社 2019年5月2日発行