2019- 6- 2 Vol.310IMG_4037

【概要】

  
 時折目にする高額な値段のついた青果物。あるものは産地、あるものは育成法にこだわることでブランド化に成功しています。
 本書タイトルを見られて「レンコンですら、高額化できるのか」そんな印象を抱いた反面、出来る出来ないは別にしても、「(ブランド化というのは)よく聞く話だよね~」との思いを持たれた方も少なくないのではないでしょうか。

 それでも本書を取り上げたのには理由があります。

 それは著者の経歴のユニークさ。民俗学・社会学の研究者でありながら、レンコン農家である家業にも従事するという二刀流。
 研究者として数多くの農家を訪ねインタビューを重ねた経験と、農産物の生産者・販売者として自らの実践を通じ記される日本の農業の限界と可能性。
 単なる「青果物のブランド化・高価格化」という内容にとどまらず、日本の農業の抱える構造的欠陥までも踏み込んだ興味深い一冊となっています。

【構成】

 6章から構成された本書。日本の農業への問題提起が記された1章。2~5章は「一本5,000円のレンコン」に着想した経緯と取組内容。終章の6章では、2~5章で記された私的体験を整理し分かり易くそのエッセンスをまとめた構成となっています。

【所感】

 試行錯誤しながら「一本5,000円のレンコン」販売に邁進する取組は当然面白いのですが、強く印象に残るのは、冒頭で語られる「生産性の向上モデル」と「やり甲斐搾取」への痛烈な批判。
 
 生産面積を拡大し、常に技術革新や経営革新を怠らずに効率化・合理化を図り、生産性を高めコストを下げることで利益を確保するというのが「生産性の向上モデル」ですが、そもそも農地の限られた日本ではこのモデルは限界があること。
 結果「農業は儲からない」という理由を誤魔化すため、まことしやかに囁かれる「自然の近くで仕事が出来る」「都市生活では希薄になった人間関係を取り戻せる」「野菜の育成は楽しい」との声。
 著者はこれを、経済的な不足を文化的・社会的充足で補填しようとする「やり甲斐搾取」だと喝破しています。

 象徴的な事例として語られるのが「農産物直売所」。元々は販売ルートに乗らない規格外の青果や家庭菜園の延長程度で出来るものを販売しちょっとした現金収入が得られればという着想だったものが、いつしか直売場が大型化し結局安価な青果が売れるという、低価格競争が加速してしまった実態。
 また安全・安心という観点から着目されてきた「有機野菜」も同じ末路を辿っていると著者は指摘をしています。

 この「生産性の向上モデル」と「やり甲斐搾取」というキーワードは、農業だけの問題ではありませんよね。こつこつと努力を惜しまない国民性ゆえ、細かな努力を重ねるも、その前提がもはや時代とそぐわなくなっているゆえ、頑張れば頑張れるほど苦しくなっている産業や事業の数々。
 はたまた伝統産業だから手仕事だからを理由に、儲からなくとも、あたかも社会的価値があるようにカモフラージュされる事例も多く散見されます。

 
 ならどうあるべきか。
 終章で著者なりの提言が挙げられていますので、是非ご参考いただきたいと思いますが、個人的には「自身の置かれた現状の前提を疑うこと」がもっとも大切ではないかと感じた次第です。
 なぜレンコンは一本5,000円で売れないのか?世間相場がそうだから?そんなに美味しいものではないから? そんな疑問から著者の取組も始まっています。
 著者が専業農家でない違う視点をもっていたゆえに
辿りつけた側面はあるかもしれませんが、前提を疑う姿勢と発想こそ業界や事業内容は異なれど、今我々に一番必要なものかもしれませんね。

                           新潮社 2019年4月20日発行