IMG_40702019- 6- 9 Vol.311

【概要】

  
 不正検査、バイトテロ、ワンオペ、宅配クライシス etc
 近年頻繁に目にするようになった企業の不祥事。日本企業の競争力の源泉であった現場は今疲弊し壊れ、時に企業の屋台骨まで揺るがす事態になっている・・・・・。そんな書き出しで始まる本書。

 どうすれば日本企業は再び現場力を取り戻せるのか?著者達はそのキーワードは業務改革にあると説きます。

 1980年代、OA(オフィスオートメーション)に代表される業務改革を1.0とするなら、1990年代以降のBPR(ビジネス・プロセス・リエンジニアリング)に代表される業務改革は2.0。そして今求められているのは3.0。
 その基軸となるのは「人間中心の業務改革」であり「創造性と生産性の両方を同時追及する」こと。そのコンセプトを著者たちはYTRと称します。YTRとは、Y=役に立つことを T=楽しく R=楽にやるという語呂合わせ。
 どうすれば会社で働く社員が、業務を創造的なものへと転換し、生み出す価値を高め、その結果として生産性や効率性を高めることが出来るのか。そんな考察に挑んだのが本書です。

【構成】

 5章で構成された本書。1章では業務革命3.0を推進する上で不可欠な5つのパラダイムシフト(発想転換)について解説し、2~4章では無印良品、変なホテル(H.I.S)など3社の事例を紹介しています。
 5章では業務革命3.0を成功に導く6つのポイントを紹介した後、YTRの象徴的な実践例として千葉県にある不動産管理会社を取り上げエピローグとしています。

【所感】

 著者たちが現場を重視する最大の理由として挙げているのは、今や経営の競争力の根幹は「戦略」から「実行力」にシフトしているから。
 デジタル化、グローバル化の進行した昨今、どんな優れた戦略であろうとそれはあっという間に模倣されてしまいます。戦略の斬新さではなく、いかにスピーディに実行するか、市場や顧客の変化にいかに柔軟に対応するかが重要であること。そして個の力に依存するのではなく組織全体が一丸となって取り組むことが不可欠と説きます。
 そして今、現場が疲弊し競争力を劣化させているのは、経営リーダーたちがパラダイムシフトに対応出来ていなからだとし、まずは今後の業務改革を考える上で不可欠な5つのポイントを列挙しています。

 ①創造性と生産性を同時追及すること 
 ②「ToDo」ではなく「ToBe」を考えること 
 ③社会最適を追及し、外部連携力を強化すること 
 ④デジタルはアナログを増幅する武器と心得ること 
 ⑤「N倍、N分の1レベル」の変革を目指すこと

 そして業務改革実行に際してはYTRのコンセプトに則り6つのポイントを解説しています。

 ①「お金を生む」より「時間を生む」を目指すこと →【楽に】の実践 
 ②「情報の共有」より「意識と感情の共有」を図ること →【楽しく】の実践 
 ③「会社のために」から「地域・社会のために」と →【役に立つ】の実践 
 ④経営と現場の「距離」を縮める →【役に立つ】の実践 
 ⑤「慎重に検討する」より「いろいろ」試してみる →【楽しく】の実践 
 ⑥客観から主観へ →【YTR発想の起点】 

 本書を読んで総じて言えることは、端的な表現で腹落ちし易いこと。具体的な実践例については細切れで紹介することなく、経営トップへのヒアリングという形で別章建としていることも分かり易さに一役買っているように思います。

 まずは現場の仕事を楽に楽しくしようという起点に立つこと。そのための着想や工夫は一過性のものでなく断続的に日々行われるべきものであること。その際には過去の慣習に囚われないこと。楽に楽しくするためにデジタル技術は積極的に利用すべきものであること。自身の仕事について広い視野や長期的な視野をもつことなどが大切なのでしょう。

 本書では収益や利益という表現はあまり出てきません。収益や利益はあくまで結果であって、それを目的化するのでなく、YTRという考え方の実践が結果として収益や利益に繋がるもの。現場を疲弊させず活性化させる取組こそ、現在の日本企業に必須であることを強く訴える内容の1冊でした。

                  日本経済新聞出版社 令和元年5月24日 1版1刷