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【概要】

  
 NETFLIX
 言わずと知れた米国のオンラインDVDレンタル及び映像ストリーミング配信事業会社です。
 創業は1997年。米国の主要なIT企業群 FAANG(Facebook、Apple、Amazon、Netflix、Google)の一つに数えられ、年間売上は157億ドル(2018年)、契約者数は世界で1億2500万人とも言われています。
 
 日本では2015年9月からストリーミングサービスのみを開始。配信される作品には、日本オリジナルの作品も制作されるようになってきています。

 本書はそんなNETFLIX社について1997年の創業から、おおよそ2012年頃までを追った1冊。原書の発売は2012年。日本語版発売まで7年も経過しています。IT業界を扱っているのに、さすがにそれでは古すぎるのではと思われるかもしれません。
 そのあたりはさすがに訳者、出版社も考慮しており、本書は日本で初めてNETFLIXの創業期にフォーカスしたドキュメンタリーであり、タイムリーさに欠ける部分については、いささかも本書の価値を貶めるものではないとしています。
 それでも
原作者による日本語版特別寄稿が冒頭に寄せられており、2012年から概ね2018年頃までの同社の変遷と躍進ぶりが補足された体裁となっています。

【構成】

 特別寄稿、エピローグ、プロローグを除き15章で構成された本書。1997年の創業から1年につき1章のペースで時系列で記されています。
 ふるっているのは、各章のタイトル。「夕陽のガンマン」「宇宙戦争」「お熱いのがお好き」「大脱走」「ニュー・シネマ・パラダイス」など、往年の映画作品名が、そのままに使われています。

【所感】

 本書自体のエピソードは2012年頃までのもので、同社が祖業であるDVDレンタル事業をスピンアウトさせ子会社化するあたりで終わっています。創業、IPO(株式公開)、最大のライバルと目されていたブロックバスター(ビデオレンタル最大手)の破綻などは含まれるものの、同社の更なる躍進を予感させるあたりで完結しています。

 訳者も指摘をしていますが、NETFLIX社は学生ベンチャーではなく、ビジネスで相応の成果を上げてきた中年男性二人(ヘイスティングス/ランドルフ)が創業をした企業です。
 レンタルビデオの延滞金の高さに腹を立てたヘイスティングスが、当時出始めたDVDを郵便でレンタルすることを思いついたことが創業のきっかけとありますが、そんな自らのビジネスで世界を変えたいとか、ありあまる情熱が創業に駆り立てたといった、起業家物語にありがちな熱さは本書を読んでもさほど感じません。
 創業者自身にビジネス経験があるため、立上げ時期に必要な資金調達や人材確保なども比較的スムーズに進んだ印象を受けます。確かに創業から大幅な赤字が続き、資金繰り懸念もあったでしょうが、さほど深刻な事態としては受け止められていません。

 本書全編を読み感じるのは、優れたビジネスモデルを発案しても、やはり成功には運とタイミングが欠かせないということ。
 同社の創業時に出始めたDVDというメディア規格が普及しなければ、郵送によるレンタル事業はコスト的に合わなかっただろうし、実店舗展開によるVHSビデオレンタルで成功を収めたブロックバスターの失策が無ければNETFLIX社の存続がおぼつかなったことは想像に難くありません。
 またネット環境の整備と普及、リーマンショックによる消費縮小と消費者の内向き志向在宅志向の増加も見逃せない要素ではあります。

 そしてもう一つ重要なことはトップの冷徹さでしょうか。
IPO直前に、ヘイスティングスは「ウォール街(投資銀行)の投資意欲を醸成するには、①人員をカットできる ②現金を無駄につかわない ③他社の攻勢を跳ね返せるほど身軽でスピーディーであることを証明する必要がある。」とし、4割もの人員をバッサリと解雇します。
 家族的チームワークを醸成し創業時を支えたもう一人の創業者ランドルフは徐々に経営権を奪われ、IPO後ほどなく同社を離れます。

 米国の投資家の間では「馬でなく、騎手に賭けろ」との通説があるそうで、ビジネスモデルのユニークさより、誰がその企業のCEOなのかが資金調達には極めて重要とのこと。
 冷徹な判断が下せる強さも経営者の需要な資質であることが窺いしれます。また厳しいながらも、そういった人員の流動性の高さが次の起業家を育む側面も否定はできないとの印象も抱きました。 
 丹念な取材を重ね、NETFLIX社サイドのみならず、ブロックバスターサイドにもフォーカスし双方の目線から記された本書ですが、先ほど記したように、さほど熱さを感じないと思ったのは、創業者でかつ現在のCEOであるヘイスティングスへのインタビューや現役社員への取材は全くされていない(出来ない)ことにあるのかもしれません。
 ヘイスティングスの冷徹さ、揺るがない信念の本質に迫っていれば、本書の価値を更に高めたかもしれません。ただその分、より客観的に記されているとも言えるのかもしれませんが。

                                                                                             新潮社 2019.6.25