2019- 7-14 Vol.316IMG_4182

【概要】

 かつて世界最大の携帯電話端末メーカーであったNOKIA。
フィンランドに本社を置き、「北欧の巨人」「フィンランドの奇跡」とまで称賛されていた同社。
 実際に使用をしたことはなくとも、名前くらいは聞いたことがあるという方も多いのではないでしょうか。
 1998年から2011年までの長きに渡り、携帯電話端末の市場占有率及び販売台数で世界一を維持をしていました。
  しかし2012年以降、スマートフォン戦略への失敗で、業績は大きく低迷。大規模なレイオフを余儀なくされ、後には携帯電話端末事業を売却してしまいます。

 誰もが同社の破綻は避けられないと思う中、通信インフラ設備の製造開発、特許ライセンスを主体とするビジネスモデルへ転換して危機を脱し、今では世界トップスリーの通信インフラ事業者として完全復活をしています。

 本書は、同社会長リスト・シラスマ氏の手による1冊。2008年取締役就任、2012年には会長就任。2013年9月から半年間は暫定CEOも務め、同社改革の立役者となったシラスマ氏が、自身の改革を振り返った1冊となっています。

【構成】

 大きく「凋落」と「再起」という二部で構成された本書。
 携帯電話の雄であった同社がスマートフォン戦略で躓き、マイクロソフトとの提携に賭す判断を下すあたりまでを綴った一部。シラスマ氏が会長に就任。携帯端末事業の売却を含め、大きくビジネスモデルを転換してくいく様子が描かれた二部。概ね1988年から2016年頃までが18章に分かれ時系列に記されています。
 各章末ごとにシラスマ氏の体験を教訓として整理したまとめがついており、読み易い体裁となっています。

【所感】

 ヘルシンキ工科大学時代に起業し上場までこぎつけた経験をもつ著者。
その経験を機にNOKIAの取締役に就任。世界一の携帯電話会社の経営に参画。グローバル企業の取締役会で、大いなる学びや経験を期待するも、どうも様子が違います。
 官僚化、硬直化し、何ら活発な議論が行われない取締役会。それどころか現場からの情報が上がらず、次世代技術開発の進捗遅れすら共有されていない始末。結果スマートフォンの開発販売で先行しながらも、iPhoneやアンドロイド端末の台頭を許し、徐々にシェアを落とします。

 当時のNOKIAのCEOは、スティーブ・ジョブズから「弊社はプラットフォーム企業であり、あなたがたは競争相手ではない」とまで言い放たれます。

 携帯電話事業で圧倒的な成功を収めた同社。しかし携帯端末はハードウェアからOS(ソフトウェア)へその重要性が移行。また端末のみならずそれを含めたプラットフォームやエコシステムの構築が成否の鍵を握るようになり、同社は完全に立ち遅れます。

 同社凋落の端緒は、思えば同社の取締役会に見られたのかもしれません。シラスマ氏は自身の体験も踏まえ、意思決定の場であるべきチーム運営として ①正しいことを議論しているか? ②正しいテーマを正しく議論しているか? ③リーダーの意見に忌憚なく異を唱えられるか? 3点の重要性を挙げています。

 さて巻き返しを図るため、マイクロソフトと提携しウィンドウズフォンに注力を図った同社ですが、マイクロソフト自らがサーフェイスという端末機器の開発販売に乗り出したことを機に微妙な関係となり、結局携帯端末事業そのものをマイクロソフトへ売却してしまいます。

 同時期に、独シーメンスとの合弁会社を100%子会社化。またフランスのALUという企業買収を図り、無線通信インフラ市場でのシェア拡大に向け大きく方向転換を図っていきます。
 今後通信ネットワークは5G世代に入ることから、大幅な設備投資が予測されることや、ALUは子会社にベル研究所をもつことから、その知的財産の活用を図ることで、新しい成長の道筋を描こうとしています。
 
 圧倒的な成功を収めながらも、いつしか時流を外し低迷。NOKIAの姿に日本の家電メーカーの姿を重ねてみた方も多いかもしれません。はたして何故にNOKIAは再生を図ることが出来たのでしょうか。

 シラスマ氏は自身が会長になるにあたり「起業家的リーダーシップ」の哲学を応用したこと。そしてその根幹には「パラノイア楽観主義」があることを綴っています。
 「起業家的リーダーシップ」とは、自らが当事者意識をもって行動することであり、「パラノイア楽観主義」とは、最悪の状況を可能な限りいくつも予見することが、結果として楽観的な余裕を生むことを指します。
 また疑問を感じていた取締役会では、八つの黄金律を定め適切な意志決定が出来る仕組みへと変革していきます。その前提となるのは信頼関係の構築。信頼は透明性と平等から構築されるとし、データの共有や分析、活発な議論を推奨することなどを通じ、チーム精神を養うことに尽力をしていきます。
 
 企業の再生物語といえば、ややもすれば経営者にスポットがあたり、その辣腕ぶりに目がいきがちですが、本書ではあまりそういった印象は受けません。
 NOKIA社で起こった事実を端的に記し、シラスマ氏の考察を加え読者へ教訓としてのフィードバックを意図した構成は非常に好感がもてるものでした。
 企業改革のケーススタディブックとしても最適な本書。400ページを超えるボリュームですがお薦めの1冊です。
  

                       早川書房 2019年7月15日 初版発行